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夢を見るのは貴方のとなりで
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十二月二十四日、二十五日の二日間に渡って、東雲律のクリスマスコンサートが行われる。
クリスマスを律と一緒に過ごせる。初めての試みに律のオタクはその日を待ち侘びていた。
発表があってから、僕はいつも通りチケットの抽選に応募することすらしていなかった。だから今頃は律のファンサやセトリについて、SNSに流れてくるレポを家のベッドに横になりながら楽しみにしているはずだったのに……。
目の前の光景に絶望する。
「帰りたい……」
「紡がそのテンションで、俺はどうしたらいいんだよ」
「奏は僕の分まで目に焼き付けといて」
「何でだよ」
大勢の人で溢れかえるドーム前。
律のクリスマスコンサートが行われる会場に僕と奏は立っていた。
――クリスマスコンサート、見に来てよ。
そんなお願いをされるのは全くの予想外で、最初は無理だと首を横に振ろうとした。
アイドルの東雲律にはまだ微塵も慣れていないし、現場に一度入ってしまったらどんどん欲が出てくるから控えていた。
だけど、「あーあ、紡は俺の誕生日を忘れちゃうし、願いも叶えてくれないんだ」なんてわざとらしく拗ねたように言われてしまっては、断ることは不可能に近かった。
綺麗に着飾ったOLさんや、クリスマスらしくサンタのコスプレをした女子高生が自撮りしている。楽しみに開演を待っているのに対し、僕だけが足をUターンさせたい気持ちと戦っていた。
ここにいるみんなが律のことを大好きなんだ。そう思ったら、なんとも言えない気持ちになった。
僕もその気持ちは負けないつもりだけど、会いたくても会えない人がいるのに、アイドルの東雲律には会いたくない自分が中に入れることが申し訳なかった。
「ねえ、あれってチワワくんじゃない?」
「待って、無理なんだけど」
心做しか周囲から見られている気がするけれど、視線を感じた方を見ても誰もこっちを向いていなくて自意識過剰かと恥ずかしくなった。
会場に着いたら楠木さんに連絡するように言われていたから、渋々電話をかける。待っていましたと言わんばかり、たったのワンコールで繋がってしまう。
楠木さんが電話に出なければ、このまま帰れたのにな。
理不尽に心の中で責めていれば、すっかり見慣れたスーツ姿がすぐにやってきた。
「早いです」
「遅いよりかはいいでしょう」
「……来ない方がいいときもあるんですよ」
「無理です、紡さんを帰らせたら僕の首が飛ぶので」
前にも似たようなことを聞いた覚えがある。死んだ目をする僕に、にっこりと笑いかける楠木さんはメンタルが強い。
隣で挨拶を交わす奏と楠木さんを見ながら、彼に敵う日は来ないかもと考えていた。
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