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癒えない古疵
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しおりを挟む『応援してます』
『紡くんの歌が好きです』
『アカウント作ってくれて嬉しい』
そこに記されているのはネガティブな感情なんてない、純粋な好意のはずなのに……。
自分のあずかり知らぬところで、みんな、中の人が僕だと思ってコメントをしている。僕に向けて、メッセージを送っている。
それがすごく怖かった。
同時に、少しの怒りも覚えた。
そもそも僕はこんな風に応援してもらえる立場ではないし、どうしてこんなにコメントが書かれているのかは理解できないけれど、誰かを応援したいという気持ちはよく分かっているつもりだ。
オタクをしているからこそ、虚偽に塗れたアカウントに喜んでいるひとがいることが腹立たしくて、そんな人たちの気持ちを踏み躙っていることが許せない。
ぐっと唇を噛んで、画面を閉じた。
こんな風に晒されるようなこと、望んでいない。
チャンネルなんて、作ろうと思ったこともない。
オーディション番組は仕方なく参加したけれど、そもそも不特定多数の前で歌うつもりはなかった。
自分が表舞台に立ちたいわけじゃなく、僕はただ律のオタクでいられればそれでよかった。
一体、誰が何のために……。
宇田は危なっかしいところがあるけれど、なりすましなんて本当にするだろうか。
犯人が宇田じゃなかったときの真犯人にまるで見当がつかなくて、僕はしばらくベッドの上で放心していた。
「顔色わる」
過保護に迎えに来た奏は、僕の顔を見た途端開口一番にそう言った。それに反論する力も今は持ち合わせていなくて、力なく笑うことしかできなかった。
冷静になればなるほど、恐怖が湧いてくるのだから無理もない。
奏もそれを察したのだろう。
それ以上何か言うことはなく、重たい沈黙が僕らを包んだ。
いつもの大講義室に入ってお目当ての人を探せば、目立つ彼はすぐに見つかった。
後方の席に腰掛けて、派手な友人たちと談笑している宇田の元まで歩いていけば、僕らを視界に入れた向こうから話しかけてくる。
「おい吉良~、動画サイトとSNS見たぞ!」
「宇田……」
「作るなら先に言っとけよ、俺が宣伝してやったのに。まぁ、フォローはしておいたから安心しろよな」
……宇田じゃなかった。
いっそのことお前であってほしいという望みは叶わなかった。
喉元に冷たくて重たい何かが詰め込まれているみたい。声が出せない僕の代わりに奏が問う。
「あの動画って宇田が撮ったやつじゃねぇの」
「撮影は俺だけど、いろんな人にちょうだいって言われたからもう今は誰が持ってるか分かんねぇよ」
多分、収集のつかないところまで拡散されてしまったのだろう。この調子だと、宇田も犯人を知っているわけではなさそうだ。
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