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君に贈るサプライズ

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 私服に着替えて店の外に出れば、律は空を見上げて僕を待っていた。憂いを帯びたその顔は、恐ろしいほどに美しい。

 どこに居ても絵になる人だ。
 まるで雑誌の中の一ページ。
 律のいる場所だけ魔法にかけられたみたい。

 思わず見惚れてしまって、声をかけるのを憚られる。

 声をかけた瞬間にこの空間が崩れ去ってしまうのなら、ずっとこの光景を見ていたい気持ちにさえなる。

 オタクな部分が顔を出していると、律がふとこちらに視線を向けてぱっと表情が切り替わった。


 「紡、お疲れ様」
 「ありがと」
 「酔い醒ましにちょっと歩かせて」
 「えっ、タクシーは?」
 「大丈夫、人も全然いないし」


 そう言って律はゆらゆらと歩き出す。
 
 見た目以上に酔っ払ってる……?
 ハイボール一杯しか飲んでないのに?
 連日の激務でよっぽど疲れが溜まっているのだろうか。


 「紡、置いてっちゃうよ~」


 首を捻る僕を置いて、楽しそうに笑いながら律は足を進める。

 神さまの相手は大変だ。
 小走りで隣に並び、うーんと少し考える。

 悩んだ末、酔っ払いは何をするか分からないからなんて言い訳をして、僕はそっと震える指を伸ばし、律の手を握った。

 びくりと反応があったのもつかの間、しっかりと握り返されて、自分でしたことなのに恥ずかしくて耳が熱い。

 下を向いていた僕は、口元に弧を描いた律が愛しいものを見るような目で見つめていることには気が付かなかった。


 「ふふ、今日はいい日だ」


 繋いだ手をぶんぶん振って、歌うように律は言う。
 
 普段から人通りの少ない裏通りは日付が変わったせいか、人の気配さえ感じられない。

 街灯の数も少なくていつもはもっと不気味なのだけど、今宵は満月が照らしてくれる。

 淡い黄金色に輝くまん丸なお月様は、今夜の主役は自分だと主張している。
 
 チラリ、バレないように隣に並ぶ彼を見上げれば、お月様に似た色の髪がきらきらと夜に映えて眩しい。

 この世界の主役は律しかいない。
 まるで自分で発光しているかのような、そんなオーラが彼の周りには漂っている。


 「きれい……」

 
 思いがけず、口からこぼれ落ちた言葉を耳にした律がまっすぐに僕を見つめて呟いた。


 「……月が綺麗ですね」


 それはあまりにも有名な愛の言葉。

 だけど僕は素直に受け取れない。
 無知なふりをして躱すことしか許されない。


 「……律の方がずっと綺麗だよ」


 だからせめて、僕からの贈ることのできる最大限の愛のメッセージを。

 心からの本心でそう言うと、ぴたりと足を止めた律が大きく息を吐いてその場にしゃがみこんだ。


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