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向こう側の景色

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 「近すぎ」
 「律さん、お疲れ様です」
 「お疲れ様~、じゃなくて、何でお前が紡と仲良くなってんの?」
 「そりゃ、一緒にドライブした仲ですから」
 「ったく、だから嫌だったんだよ……」


 後ろを振り向いて、選択を誤ったと悟る。はぁ、と呆れたようにため息を吐き出すその人の姿に一瞬で目を奪われた。

 ……髪型、変わってる!

 前まで全体的に少し長かった黒髪は神々しい金色に染まり、ゆるやかなパーマがかけられている。襟足は少し短くなったのかな。顔にはらりとかかる前髪が色っぽい。

 どうしよう、金髪の律なんて久しぶりだから耐性がない。かっこよすぎる。美しい。美しすぎて、これは最早暴力だ。見惚れてしまって声も出せない。


 「紡、固まってどうしたの?」
 「…………こっち見ないでください」


 芸術品かってぐらい綺麗な瞳がこちらを向く。やめて、見ないで。律が汚れてしまう。

 直視できなくて顔を覆えば、自分の頬の熱さに驚いた。


 「ふふ、俺かっこいい?」


 黙ったままこくんと頷けば、さっきまで剣呑な雰囲気を纏っていたのに、ぱあっとそれが霧散した。


 撮影が再開する。
 ただベッドに寝転がっているだけなのに、カメラに向けられた色っぽい表情にそわそわしてしまう。相手はいないのにベッドシーンを覗き見ているような気分だ。

 思わずため息が漏れるほど、綺麗。
 シャッターが切られる度、周りのスタッフさんからも感嘆の声が上がっている。

 一旦チェックをするため、律は真剣な眼差しでモニターを確認しながらカメラマンと話し合っていた。

 そんな姿もかっこよくて、好きという気持ちが増していく。ずっとずっと追いかけてきたひとに間違いはなかった。

 ぽうっと見つめていると、部屋の中に犬の鳴き声が響いた。その声にハッとなって周りを見渡せば、スタッフさんに抱え上げられたチワワが僕に向かって吠えている。


 「えぇ……」


 怒っているのかな。
 あんまり動物に嫌われることはないんだけど。
 僕の何かが気に入らなかったのだろうか。
 
 あまりにも吠えられるものだから、困惑してしまう。眉を下げたスタッフさんに「すみません」と謝られた。


 「どうしたんだろう、普段は大人しいんですけど……」
 「離れておいた方がいいですかね?」
 「すみません、撮影の時に言うことを聞かなかったらお願いするかもしれないです……」


 そんな会話をしている間も、耳をぴんと立てたチワワはずっと僕を見ていた。もぞもぞと動いて下に降りたそう。


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