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その男、初恋泥棒につき
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しおりを挟む何の悪意もなく、考えていることを言い当ててしまって、突然バケモノ呼ばわりされたアメリアは酷く塞ぎ込み、それ以来、人前に出る時は必ずベールを被るようになっていた。
彼女の秘密を知るのは、家族と限られた使用人、そして唯一の親友・エマのみだった。
アメリアが顔を隠し続けて、もう十年以上経った。
十九歳になった今も変わらず、それは続いている。
「コリンズ家の娘の素顔、知ってるか?」
「なんでもとんでもない美人だって聞いたことはあるが」
「ああ、おとぎ話のお姫様も逃げ出すレベルだってな」
「いや、俺が聞いたのはこの世のものとは思えない程の醜女だって噂だぜ」
「ギャハハ、それなら顔を隠してるのも頷ける」
荒れくれ者の集う酒場では、下世話な話題がメインディッシュ。
時折、アメリアの素顔が話題に上がることもあった。
自分が人々の噂の種になっているなんて露知らず、艶々ときらめく金髪を風になびかせ、美しく成長したアメリアが自室の窓から顔を覗かせた。
青いビー玉のような瞳に澄んだ空の色が映える。
信頼できる限られた者のみと交流しているアメリアにとって、そんな些細な噂に心を砕くよりも、日課の小鳥たちへの餌やりの方がよっぽど有意義で大事なことだった。
「いつか私にも素敵な出逢いがあるかしら……」
そんなアメリアの独白を聞いた小鳥たちは、彼女を慰めるように囀りを返す。
「ふふっ、慰めてくれてるのね。ありがとう。私もそろそろ行かなくちゃ」
小鳥たちにお別れを告げたアメリアは、うきうきと出掛ける準備を始める。
今日はエマと街に遊びに行く約束がある。
今流行りのお店でケーキを食べるのだ。
遅れるなんてことがあってはいけない。
彼女の親友は、時間と甘いものにうるさいのだから。
「アマンダ、ちょっと手伝ってくれないかしら」
窓を閉めて、レースカーテンをシャッと閉じたアメリアは、着替えのために彼女のメイドを呼びつけた。
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