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stargazer - S

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 「…………俺は、知らない」
 「頑固だね、お前も。全部管理したがるお前が知らないわけないじゃん」
 「……suiの前からいなくなったのが本人の意思だったら、迎えに行ったところで帰ってこないはずだ」


 ハッと乾いた笑いが溢れた。この期に及んで、まだそんなことを言うんだって、呆れを通り越して感心すらしてしまう。


 「俺のことを好きだって言った子が、自分の意思でそんなことをすると思う?」
 「たとえ好きだったとしても、気持ちだけではどうにもならないものがあるだろう」
 「…………」
 「貴方はこの国のトップアイドルで、アルファの王様なんだ。一般人のベータにはあまりに身が重い。それを理解していますか?」
 「……、……」
 「自分の立場を理解したら、逃げ出したくなったんでしょう」


 反論しようと口を開いたけれど、何も返せる言葉がなかった。こればかりは、真正面から「そんなことない」と否定できない。そんな自分に腹が立って、ぐと唇を噛み締める。

 陽がずっと自分のことを卑下してばかりで、俺の隣にいるのが分不相応だと思っていることは分かっていた。でも、それを乗り越えて、陽は俺を選んでくれたと思っていたのに……。

 その考えすら、間違いだったのだろうか。いざ恋人になってみたら、陽にとってはやっぱり重荷にしかならなくて、その立場から逃げ出したくなったのだろうか。

 嗚呼、目眩がする。
 違う、そんなはずがないと必死に打ち消してみても、心の奥底では陽がそう思っていても不思議ではないと理解してしまっている。

 立場が逆転したと思ったのか、勢いを取り戻した茨木は更に捲し立てる。


 「もし、貴方が本当にアイドルを辞めるなら、あの子は自分のせいで世界からsuiを奪ったと、自分自身を責めるでしょうね」
 「っ、何が言いたいんだよ」
 「今、アイドルを辞めるのは得策じゃないと言っているんです」


 苦虫を噛み潰したような表情の俺を前に、勝ち誇った様子の茨木は笑う。


 「さあ、行きますよ。これ以上、スケジュールは待ってくれない」


 クビだと言ったのに、未だにマネージャー面している憎たらしいその顔を、思いっきりぶん殴ってやりたかった。

 好きな人を守ることすらできなくて、何がアルファの王様だ。結局俺は、飼い慣らされたペットと同じじゃないか。

 アイドルという立場を捨てて、今すぐにでも陽の元に駆けつけて、君を力強く抱き締めたい。もう離さないよと腕の中に閉じ込めて、ずっと体温を分け合いたい。

 だけど、そうしてしまったら、優しい君は一生自分のことを責めるのだろうね。いつもみたいに「僕なんかが」とそう言って、俺に見せる笑顔の裏で苦しみ続けるんだ。

 俺の陽だまりに、悲しみの雨は降らせたくない。

 陽だって、離れたくないと心が叫んでいるだろうに、それでもこうするしかなかったのは、俺の力が足りなかったせいだ。

 諦めることは、端から選択肢にない。

 ただ、これまで強引に事を進めてばかりだったけれど、陽のことを一番に考えたら、衝動的に行動するのは駄目だと思った。

 陽、今すぐに迎えに行けなくてごめんね。トップアイドルの座を守りながら、君を探して、いつか必ず迎えに行く。だからせめて、今は俺の姿を見守っていてよ。誰にも文句を言わせないぐらい、陽にも届くように輝き続けるから。

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