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夢現

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 翠に手を伸ばせば、見たことがない程余裕のない表情をした翠が荒々しく着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。ベッドの下にはらりと落ちていくTシャツ。そして、翠は僕の手を取るとそのままベッドに縫い付けられる。


 「んッ、ふ、」
 「……陽」


 馬乗りになった翠から次々と降ってくる甘い口付けに酔ってしまいそう。息継ぎの合間に名前を呼ばれると、僕は翠に愛されているのだと勘違いした心がときめいてしまう。まさか、そんなわけないのに。

 家政夫だってのはただの建前、結局のところ性欲処理として雇っただけなんだ。我が強いアルファ同士は馬が合わない者が多いというし、ただの性欲処理にオメガなんて厄介すぎる。僕のような平凡なベータが一番扱いやすいだろう。

 僕は運が良かった。偶然翠に出会って、今までの比じゃないぐらいの給料をもらいながら楽な仕事をして、好きな人に抱いてもらえるなんて。僕の人生の最高到達点はここだと、はっきり分かる。


 「……何考えてるの」
 「っ、え?」
 「だめだよ、俺のことしか頭の中にいれないで」
 「そ、こ……、だめ、ッ」


 考え事をしている僕を叱るように、翠がシャツの上から胸の飾りを口に含んだ。新たな刺激に思わず漏れた声は高く媚びているようで、言葉とは裏腹に、微塵も拒否するつもりは無いということが丸分かりだった。

 先端を齧られると、もう、駄目だった。快感を逃そうと仰け反ると、もっとしてと言いたげに胸を突き出す形になって、反対側も指先で苛められてしまう。


 「……や、」
 「ひもち、い?」
 「んッ、そこで、しゃべんないで」


 普段は性感帯として全く機能していないくせに、翠に触れられているだけでどうしてこんなにも気持ちよくなってしまうのだろう。そんなことを考えながら熱い息を漏らしていれば、口元を拭った翠が僕のシャツに手をかけてあっという間に脱がされた。

 ぽってりと膨らんだそこは、目の前の男に散々苛められたのだと恥ずかしいほどに主張している。


 「翠、おねがい」
 「んー?」
 「そこは、もうやだ」


 自分が自分じゃなくなるみたい。涙の浮かぶ瞳で懇願すると、翠はにっこりと笑った。


 「そこってどこ?」
 「っ、……ひ、どい」
 「ここかな」


 そう言った翠が臍に唇を落とす。舌先で擽られると、喉奥から堪えきれない喘ぎ声が漏れた。


 「っひ、……やぁッ、」
 「いっぱい気持ちよくなれてえらいね」


 いっぱいいっぱいになっている僕とは違って、冷静な翠によしよしと頭を撫でられる。内容がどうであれ、バカになった頭が褒められたと勘違いを起こして、素直に喜んでしまうのは惚れた弱みか。

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