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言い聞かせてる時点で恋だった

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 「そうやってずっとひとりで頑張ってきたの?」
 「……え」


 ぽつりと零された言葉にハッとする。
 なんでもないみたいに平気な顔をすることに慣れてしまった自分が動揺する。


 「俺じゃ駄目かな」
 「…………」
 「陽が抱えてきたもの、はんぶんこしてよ」


 突き放したのに、翠は引き下がらない。
 手を握りしめられると、その温もりに頑なだった心が溶かされそう。


 「迷惑かけたくない」
 「迷惑じゃないよ、俺がそうしたいだけ」
 「でも、」
 「うん」
 「……どうせ離れていくなら、最初からひとりがいい」


 僕らに永遠はないから。
 ずっと一緒にはいられない。

 またひとりになると分かっていてその手を取れるほど、僕は強くはなかった。


 「俺は離れないよ」
 「……口では何だって言える」
 「陽が許してくれるなら、ずっとそばにいる」


 甘い言葉が心に響く。
 嘘だ、ありえない。そう分かっているのにこのひとを求めてしまう自分がいた。


 「……駄目です」


 なんとか捻り出した四文字に自分勝手に胸が痛む。頑なな態度を取り続ける僕なんて、早々に見限ってしまえばいいのに。

 それができないのは、翠が優しいから。だからこそ、彼に甘えるわけにはいかなかった。

 すると、翠が何かを思いついたように「あ」と漏らす。


 「ねぇ、陽は家事できる?」
 「ある程度は……」
 「じゃあさ、俺の家のことやってくれない? もちろん、ちゃんと給料は出すから」


 名案だと言わんばかりに翠が笑顔になった。対する僕は、全く想定していなかった提案に口がぽかんと開く。


 「いやいや、そんなのもっと無理ですよ」
 「どうして? このバイトを続けたいのは金銭的な理由でしょ。今より稼げるようにするよ。それに俺は陽の傍にいたい。ほら、お互いに利害が一致するじゃん」


 ぺらぺらと捲し立てられて、頭が混乱する。
 トップアイドル様のくせに、自分が何を言っているのか本当に分かっているのだろうか。


 「……いやです」
 「陽、おねがい」


 握りしめられた手を引っ張られて、抱きしめられる。翠の香りに包まれると、心が揺らぐ。


 「まずは一ヶ月のお試しでいいから」
 「…………諦める気は?」
 「ないよ」
 「はぁ……一ヶ月だけですよ」


 一向に引き下がる気配すらなくて、その熱意に負けた僕が折れるしかなかった。

 渋々了承すれば、「やった」と小さく呟いた翠が抱きしめる腕にぎゅうっと力を込める。圧迫感に「う」と声を漏らせば、それを聞いた翠が謝りながら体を離した。

 それを名残惜しく思うなんて、どうかしてる。

 触れられる度、自分の中で新しい感情が芽生えかけているのを感じていた。だけど、それに蓋をして僕は気づかないふりをする。

 ――翠に惹かれてる。
 そんなこと、ありえない。

 ベータがアルファ様に恋をするなんて、身の程を弁えるべきだろう。
 
 たとえ僕の心が彼を求めていたって、運命にはなれないのだから。これはトップアイドルに優しくされて、ミーハーの心が騒いでるだけ。

 僕は何も始まってない。始められるわけがない。

 言い訳を並べて、必死に言い聞かせている時点で認めてしまっているようなものなのに。翠に出会わなければよかった、そんな心にもないことを思うばかり。


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