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第9章 勇者RENの冒険

第213話 決勝戦 決着

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 オレの右腕には確かな手応えが残っていた。

 振り向くと、ニュートは攻撃したときのまま、全く微動だにしていなかった。

 奴は顔だけをこちらに向ける。

「RENといったな…………、見事……」

 ニュートの腹が斜めにズレた。

 そして、上半身だけが少しずつズレていく。

 吹きあがる血。

 やがて、奴の上半身は地に落ちた。

(ここまで真っ二つになれば再生も無理だろう……)

 オレは自分の体から、黒い呪いが消えていくのを感じた。

(ニュートが死んだことにより呪いが消えたのか……。これでザッツも大丈夫だろう……)

 オレはニュートの死体をジッと見つめる。

(この男も必死に戦ったのだ。部族の神であるヒュドラをルシフェルに殺され、天使と神に復讐するべく……必死に……)
 胸に去来するやりきれない思いが残った。

「あああああっっっ~~~~~~~~っ!!!!! ニュートが、戦闘不能です!!!!! ゆ、優勝は、獣人族代表ッ! RENッッッ!!!!!!」

 会場に湧き上がる歓声。誰もが興奮し、そして、オレに祝福を与えている。

 解説者達が舞台に上がってくる。恐らくインタビューか何かするつもりなのだろう。だが、オレの体はニュートの方へ向かって歩いていた。

 会場中が驚き、オレに注目が集まる。

 オレはそんな会場の動向など無視したまま、ニュートに向かって神聖魔法を使用した。

 完全に死んでしまっている者にはヒールが効かない。使用した魔法はもちろんリザレクションである。

 真っ二つに切れていたニュートの体が光に包まれた。

 そして、みるみるうちに光が融合し、一つの体になる。

「ぐぬ…………、っ! こ、これはっ!?」

 ニュートはすぐに目を覚ました。

「これはリザレクション。死人を蘇らせる神聖魔法の奥義だ」

 オレの言葉にニュートは目を見開いた。そして会場の様子を見回した。

「……そうか。オレは負けたのか……」

 ニュートが起き上がる。

「なぜ……? なぜオレを蘇らせた? オレはお前を殺そうとしたんだぞ?」

 ニュートは低い真剣な声でオレに問いかける。

「ニュート……、お前はこんな所で死ぬには惜しい。そう思っただけさ」

 ニュートはゆっくりと下を向いた。

「………………」

 ニュートにかける言葉が見当たらない。そう思っていた時、異変は起きた。

 舞台のど真ん中、そこに突如として黒い霧が現れたのだ。

「こ……これはいったい?」

 観客が慌てて逃げ出していく。舞台にいた解説者達とオレ、ニュートは逃げる間もなく、その黒い霧の広がりに巻き込まれてしまった。

「ど、どうなってやがる!!!」
「こ、これはどうなっているんでしょうかーーーーーッ!」
「どうやら転移するときに現れる霧のようですが、どこに繋がっているのか全くわかりませんね!」

 慌てるニュートや解説者達を飲み込み、黒い霧は広がった。


   ***


 一瞬の浮遊感覚が途絶えると、オレの足は地上に降り立った。

「こ、ここは……?」

「来たか!」

 大声で叫んできたのは黒騎士だった。

「黒騎士??? ここはどこだ?」

「説明は後だッ! 今はあのデカブツを迎え撃たねばならん!!!」

 黒騎士の剣が指し示す方向には巨大な黒いオーラを身にまとった物体がいた。

 その黒い物体は少しずつ形を成していく。体には黒い鎧、西洋風のフルプレートメイルのような形状に変わっていく。頭部も全て覆い尽くすタイプの兜が現れ、目の箇所だけが一文字に空いており、そこから赤い光が二つ光る。

 そして、手に握られるのは巨大な剣。それも、左右二本。

 ただでさえ、身長は10メルを超える巨体なのに、剣はそれぞれが10メル以上の長さなのだ。

「こいつは……邪神……なのか?」

 圧倒的な密度の魔力は視界を歪め、体からは黒い影がオーラのように揺らめき立っている。

 その異様な風貌からオレが想像出来るのは邪神くらいのもの。それもかなり上位の神でなければ、これほど濃密な魔力を蓄えることも出来ないだろう。

「あぁ。コイツはあの馬鹿げたトーナメントの賞品さ! 多くの強者の魂を集め、神々はこんなヤツを蘇らせようとしていたんだ!」

 黒騎士は腕を震わせ、忌々しそうに言った。

「この化け物が賞品だと??? こいつが願いを叶えるとでもいうのか?」

 ニュートが黒騎士に迫る。

「あのな、奴らが本当に願いを聞き入れるとでも思っていたのか? このトーナメントを企画したのは札付きの悪神。奴らの勢力争い利用されたんだよ。アンタたちはな」

 黒騎士の言葉はニュートを驚かせた。

「なんだと? しかし、一回戦でRENに負けたお前が、なぜそんなことを知っている? いや、その佇まい……、貴様、黒騎士ではないな?」

「あぁ、俺は黒騎士ではない」

 黒騎士がその兜を取り外した。同時に顔を覆っていたマスクも取り払われる。

 そのマスクの下に現れた顔は……

「ソウっっっ!!!!!」

 オレは思わず叫んでしまった。オレの親友にして、最大のライバル。ソウの姿がそこにあったのだ。

「今まで隠していてすまん。色々話をしたいこともあるだろうが、まずはアイツを倒してからだ。すまんが手伝ってもらうぞ?」

「あぁ!」

「RENの知り合いか……。しかも……相当な実力者だな。まぁいい。RENよ。この命、助けてもらった礼を返すぞ。オレも参戦させてもらおう!」

 三人は頷きあった。

 そして、今、悪神たちの魂が形を成し、三人に襲いかかってくるのであった。
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