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第9章 勇者RENの冒険

第202話 三回戦第二試合 天使族代表 ルシフェル VS 蛇人族代表 ニュート

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「オレの出番か……」

 背中につけた長い鞘からグレンを引き抜き、オレは歩いた。

 眩しい光がオレを照らす。湧き上がる大きな歓声。だが、ブーイング混じりの声援だった。今のオレはまさにアウェー。次第に大きくなっていくブーイングがオレを包み込む。

 花道から舞台を見れば、敵は微動だにせずにオレを睨んでいた。

 堕天使ルシフェル。蛇の国にいたオレですら名前を聞いたことがある男だ。

 過去に天使界最強と言われた戦士であり、凶暴な性格から天使界を追われ、放浪しながらも数々の伝説的魔獣を狩り続けていた。

 グレンを握る手に力が入る。

『む? やけに気合が入っているな。気負いすぎるなよ?』

『あぁ、わかっちゃいるんだがな……。オレはな……奴に用があるのさ』

『用だと?』

『そうだ。オレは確かめねばならぬ。奴に……』

 オレは歩を進めた。

 楽な相手ではない。タフな試合になるだろう。ルシフェルは殺気を隠すことなく、放ってきていた。巨大なオーラを身に纏い、奴の足元は空間が歪むように揺らめいていた。



「さぁ、ニュートが入場してまいりましたッ! バハルとギガース、二人の亜神を破り、番狂わせの下克上を二度も果たしてきた男が今、舞台に上がりますッ! ローファンさんはこの試合、どう見ますか?」

「そうですね。圧倒的な強さで勝ち進んできたルシフェル先輩に対し、ギリギリの勝利を重ねてきたニュート。対象的な二人ですが、いい勝負になるんじゃないでしょうか? 剣技に関しては、もしかしたらニュートが一枚上手ではないか? と思っています。ですがまぁ、このレベルになりますと僅かな誤差みたいなものでしょうから。一瞬たりとも見逃せない試合になることは間違いありませんよ!」

「それは楽しみですねぇ! さぁ、両者舞台にあがりました! 睨み合っております! まさに一触即発! 視線がぶつかり合いますッ!」

「三回戦第二試合、天使族代表ッ! ルシフェル! VS 蛇人族スネークマン代表ッ! ニュート! レディ………………、ゴーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 ルシフェルは口角をあげたまま、こちらを睨んでいた。

「クックック、嬉しいですよ……。アナタのようなつわものを待っていましたよ。今までの戦いは少々物足りなかったものですから……」

 ルシフェルは剣を鞘から抜き放ち、正面に構えた。

「どこからでもかかって来てくださいね? 存分に打ち合いたい気分ですよ! やっと……、やっと本当の戦いが出来そうですからねぇ。昨日は喜びにうまく寝付けませんでした……、これからアナタを狩ることを思うとゾクゾクするというものです」

 ルシフェルの目は上向きになり、恍惚の表情で、喜びを顕にした。

「フンッ! テメェには聞きてえことがある。ラファーを殺ったのは……オメェか?」

 ルシフェルの眉がピクリと動く。そして、薄ら嗤いを浮かべながら奴は口を開いた。

「ほぅ? そうですか。ま、アナタは蛇人族。あの大蛇神の仲間であってもおかしくありません……。わざわざここまで、敵討ちに来たのですか?」

「やはり……テメェだったのか! ……あぁ、そうだッ! 覚悟しやがれッ! テメェはなにがあろうとも必ずあの世へ送ってやる!」

 オレは駆け出した。消えるようにその場からいなくなると、ルシフェルの正面から切りかかっていく。

 ギィンッ!

 軽く弾かれてしまう。だが、ここからだ。

 そのまま流れるように連撃を放っていく。

 だが、ルシフェルは余裕の表情でオレの剣を捌いていった。

「くっ! まだまだぁ!」

 幾度も剣を振るっていくが、奴はまるでダンスでも踊るかのように軽やかに躱していった。

 オ、オレの剣が、届かねぇっ!

 尽く弾かれ、躱され、いなされるオレの剣。

『ニュートッ! 何を焦っているのだ? 戦いは始まったばかり。ペースが早すぎる! 抑えるんだッ!』

 グレンから忠告が聞こえるが、オレの耳には入らない。

「ぬりゃりゃりゃりゃりゃあ~~~ッッッ!!!」

「フッ、バハルとギガースを倒した剣……期待し過ぎましたかねぇ? この程度の怒りに任せた剣など、私には通用しませんよ?」

 瞬間、ルシフェルの姿が消えた。

「ぬっ?!」

 見失ったルシフェルを見つけようと振り向いた時、オレの腕に衝撃が走った。

「ぐあああッッッ!!!」

 空に浮かんだのはオレの左腕。斬られた個所からどっと血が吹き出す。

 宙に浮いたオレの左腕は回転しながら地に落ちた。

 グレンはかろうじて右手で掴んでいたが、止血のため、ギュッと脇を絞り、オレは後退するため大きくジャンプした。

『ニュートっ! 大丈夫か?』

『あぁ、すまねぇ。油断しちまった』

 魔法で血止めをし、ルシフェルを確認すると、奴は笑っていた。クツクツと声を殺すように、肩を上下に揺らしながら……。

「やろぉ……」

『ニュートッ! 焦るんじゃないっ! おいっ! 聞いてるのかっ?』

 オレにはグレンの声はまだ届かなかった。ルシフェルへの怒りが、頂点に達しており、他のことに気にしていられない。

 オレがまた怒りに身を任せて一歩踏み出した時、体の自由が全く効かなくなった。

 この感覚には覚えがある。グレンが、オレの体を乗っ取ったのだ。

『おいっ! なにしやがる! 体を返せっ!』

『ニュートよ……、お前は今、冷静ではない。少し休んで頭を冷やすがいい!』

 グレンから嗜めるような声が聞こえる。

『なにっ?! おいっ! 奴はオレが倒すんだッ! 邪魔をするなっ!』

 もはや、グレンは返事をしなかった。

 そして、オレの体を操りルシフェルと対峙するのであった。
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