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第9章 勇者RENの冒険
第193話 二回戦第四試合 巨人族代表 ギガース VS 蛇人族代表 ニュート
しおりを挟む『こ……、これはどういうことだッ?』
俺の体はグレンに乗っ取られたかのように勝手に動き出した。その速度には目をみはるものがあった。
俺の思っていたスピードよりも疾い。俺が思っていた以上にグレンが俺の限界を引き出していたのだ。
その素早い移動で瞬時にギガースに向かって駆けていく。
『すまぬ……、あの巨人には一度やられておるのでな……。ここはまかせてもらいたいのだ』
俺の了承など聞きもせず、グレンは俺の体を動かした。
ギガースも一回戦で見せていたような余裕の表情はしていない。視線だけで相手を殺せそうなほどに睨みつけ、威圧のオーラがその体を覆い並の者であれば、近付くことさえできないだろう。
その中へ、グレンは一瞬にして踏み込んだ。
『来るぞッ! バカのひとつ覚えの鉄球だ! グレンよ、躱せッ!』
目前まで迫る鉄球。その大きさは俺の身長を優に超えているほどだ。一撃でも喰らってしまえば重症は免れない。それが、凄まじいスピードで突っ込んでくるだ。
だが、今、俺の体を動かしているのはグレンなのだ。この鉄球が迫ってきているというのに……、クッ! 見えてるのか???
『安心しろ、ニュートよ。見えておるさ。お主の眼は、オレの眼でもある。あの鉄球、いつまでもオレの後ろを付け回しおって……、目にもの見せてくれるわ!』
グレンは紙一重のタイミングで身を屈ませ、鉄球を躱した。
見えているってのに、自分で体が動かせないとは……、もどかしいものだ。だがこのグレンの動き……、俺にここまでのポテンシャルがあったとは……。
グレンは相手の鉄球を何度もギリギリで躱し、それ以外は全力で疾走していた。最高速度を保つのが異様に上手かったのだ。俺が自分で動くよりも、より洗練されている動きだった。
『ニュートよ、覚えておくがいい。これが刀術というものだ』
グレンは鉄球を何度も躱すと、ギガースの足元へ踏み込み、刀を一閃し、通り抜けるように反対側へ抜けていった。
「グオオオオオッッッ!!!」
巨人の足から血が吹き出した。バランスを崩し、倒れ込む巨人。
「あああーーーッッ!! まるで1回戦の再現ですッ!! ギガースがダウンしましたッ!」
ニュートはこの千載一遇のチャンスに、トドメを刺しに向かうものだと思っていた。だが、グレンは倒れた巨人を無視し、反対側に走り始めた。
『どうしたグレン? 今がチャンスなんじゃないのか?』
『あの巨人の回復力はずば抜けている。それよりも……』
グレンが攻撃し始めたのは鉄球と棍棒を繋いでいる鎖だった。
『あの鉄球は特殊な鋼材で作られ、さらに奴の魔力を帯びて破壊はほぼ不可能。だが、あの鎖はどうだ? 鉄球と違い、操るための導魔材ではあるが、耐久性には疑問が残るはずだッ!』
グレンは鉄球と棍棒を繋ぐ鎖を数カ所に渡って斬り裂いていった。
「こ、これはーーーーッッッ!!! ニュートが鉄球を繋いている鎖を攻撃してくーーーッ!」
「なるほど、あの鎖を断ち切ってしまえば、追尾するように追いかけてくる鉄球も使えなくなるかも知れません! ニュートはしっかり対策を練ってきたというわけですね」
『ここで最後だッ!』
グレンが攻撃し終わった。振り返ると、回復し終えた巨人が立ち上がってくる。だが、その鎖はあちこちがバラバラに崩れ落ち、無惨な形となって破片が舞台に広がった。
「き、貴様~~~ッ! ワシの武器をよくもッ!」
激昂するギガースを無視し、グレンはさらに疾走っていく。
『鉄球がない巨人など、恐るるに足らんわッ!』
刀を乱舞するように振り回し、ギガースの足元を斬りまくっていく。
「ぬ、ぎゃあああああッッッ!」
巨人はたまらずその場から大きく後方へジャンプし、距離をとった。
「ギ、ギガースが後退しましたッ! こんなことがあるんでしょうか? ニュートが、あのギガースを圧倒しています!」
「今回のニュートは計算高いですねぇ。ここまでの展開は全てが思い通りになっているんでしょう! 全く、驚かせてくれる戦士ですッ!」
グレンは口角を釣り上げ、ゆっくりとギガースに近づいていくのだった。
***
「はっ! こ、ここは……」
私は気を失っていたのか……。
上半身を寝台から起こそうとすると、身体に違和感があった。
こ……、これは?
傷は完全に治っていた。だが、問題はそこではない。機械の身体だった場所がまるで生身の身体のように温かみを感じるのだ。
「ここは俺の控室だ。怪我はもう大丈夫か?」
寝台の隣に立っていた男が口を開いた。
「アナタは……」
確か、この男は……、REN。このトーナメントの参加者のはず。それに……。
「感謝しなさいよ? ご主人さまがいなかったら、今頃アナタは死んでたのよ?」
この人はイヴリス? そうか、一回戦でジークに負ける時、RENに助けられて……。そのまま一緒にいたんだ。
「傷の具合は良さそうだな……。うむ、これならもう大丈夫だろう」
この巨漢の阿修羅族はズール……、この男もRENと一緒にいたとは……。
「私を……、助けてくれたのですね?」
「あぁ、お前は死ぬには惜しいと思ってな。俺の勝手な判断で迷惑でなければいいのだがな」
「いえ、助けてくれたこと、ありがとうございます。私にも使命がありましたから……。ですが……」
恐らくだが、かなり強引な形で傷を治したのだろう。私の中の人間細胞の割合が圧倒的に増えているのがはっきりとわかってきた。
それに、マザーへの連絡も取れなくなっている。
「私には祖国と連絡を取るプログラムがあったのですが、それが機能しなくなっているようですね……」
「強引な救助になってしまったのはすまない。だが、君を助けるためには仕方がなかったんだ」
RENはそう言って頭を下げた。
ただでさえ助けてもらったというのに、この人に頭を下げさせる訳にはいかないわ。
「いえ、本当にありがとうございました。どうか、頭を上げてくださいませんか」
「あぁ、もう少し話していたい所だが……、第四試合の最中だ。これが終わったら少し話そうか?」
RENはモニターを真剣な目つきで見始めた。見ているだけで眉を寄せ、その顔には穏やかならぬものを感じる。
「ニュート……」
彼は怒りを抑えるように腕を震わせていたのだった。
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