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第9章 勇者RENの冒険

第166話 化け物

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「くぅっ!」

マリーンはゆっくりと歩いて近づいてくるルシフェルに対し、矢を大量に連射する。その矢は雨のようにルシフェルに降り注ぐ。

 だが、ただの一本たりともルシフェルに命中することはない。

「そんなバカなっ!」

 マリーンの額からは大粒の汗が流れ、顎の先からポタポタと落ちていく。

 常に一定の距離で弾かれ、止められ、逸らされていくのだ。そして、危惧していた時はすぐに訪れた。マリーンが矢筒に手を伸ばすも、手でつかめる矢がもう残っていなかったのだ。

「あぁッ! ここでマリーンの矢が切れてしまったようです!」

「あんなに連射していましたからね。無くなるもの時間の問題だったと思いますが、マリーンに予想外だったのはルシフェル先輩に一発も当てられてないことでしょうね。矢の残っているうちにダメージを稼げないと……、通常の魔法だけでルシフェル先輩を倒せるほど甘くはないでしょうから」

「えぇ、ルシフェルはゆっくりと歩いていますが全くの無傷。余裕の表情です。しかし、一方でマリーンの表情には焦りの色が見えますね。額にも汗が玉のように浮かんでおります!」



「どうした? 矢がなくなったようだな……。それでおしまいなのか?」

 ルシフェルの低く冷たい声が耳に入る。

 チコ……、私に勇気をちょうだい……。あの怪物と戦う勇気を……。

 マリーンは首から提げていた植物の茎を編んだネックレスを掴み、故郷を思い浮かべた。



   ***



「お姉ちゃん……」

 チコは村に現れたモニターで姉であるマリーンの戦う様子を見ていた。

 そこには数少ない村の人々も集まっている。

「マリーン……。やはり無謀だったんじゃ……、いくらこの村では英雄と呼ばれようとも、世界は広い。いや、広すぎた。あのような化け物たちを相手にするなど、到底無理だったんじゃ」

 白髪の長いひげをたくわえたダークエルフの男が呟いた。

「長老! まだマリーンは負けたわけじゃねぇ! 矢がなくなったとしてもまだあの技が残っている!」

 隣に立つ若い男が叫ぶ。

「くっそぅ、俺にもっと力があれば……、マリーンの代わりにあそこへ行ったのに……」

「そう言うな、バルよ……。村に死んでもいい者など一人もおらん。マリーンはこの貧しい村を救うべく立ち上がったのだ。ならばせめて最後までマリーンの戦いを見るんだ」

 バルの隣に立っていた顔にシワを深くした壮年の男が言った。

「村長……」

「ワシは信じておる。困難な局面でもマリーンであれば打開できるはずだと!」

「しかし、俺にはどうにも信じられない……、広がり続けるこの砂漠に緑を回復させられるほどの力が神にあるのか……」

「バル……、すでに賽は投げられたのだ。今はもうマリーンと、そしてあの神を名乗る男を信用するしかあるまい」

 バルはくやしそうに握りこぶしを震わせた。

「リズ、大丈夫だ。マリーンは俺が育てた狩人のなかでも一番の腕前なのだ。必ず、勝って帰ってくる」

 村長は今も心配して体を震わせるリズの肩に手を置いた。

「はい……村長」

 リズは目に涙を溜めながらも必死に姉を見続けるのであった。



   ***



 マリーンは手に何も持たないまま弓を引く。

「ん? マリーンが空手のまま弓を引いてますね? これはいったい?」

「ほほぅ、これは恐らく……、魔導弓ですね」

「魔導弓ですか?」

「はい、私が知っている伝説では魔法を弓に乗せて飛ばすことができる弓がある、と聞いたことがあります。マリーンの装備しているあの弓が、もしかしたらそうなのかもしれません!」

「ほほぅ、伝説の弓、ですか! マリーンに注目しましょう!」



 マリーンはただ静かに目を閉じて弓を引いていた。そして手に魔力を集める。そして集めた魔力が光の矢を形成していった。

「ほぅ、それは魔導弓かね? 珍しい……」

 ルシフェルは少しばかり驚いた顔をしたが、口を逆三日月にあげ、細長い舌を伸ばし、自らの唇を一周舐め回した。

「その武器、悪くないな……。全く興味の湧かない戦いだったが少しはやる気が出た。オマエを打ち倒しその弓、いただくとしようか……」

 ルシフェルの目が弓をじっと見つめたまま歓喜の色を浮かべ始める。

 気色悪い奴め……。

 マリーンは内心で舌打ちをしつつ手に集中する。

 そして魔力の矢が完成する。その矢は炎の魔法を帯び、魔力が燃えるようにゆらめきを放ちながらそこに存在した。私はすぐにルシフェル目掛けてそれを放った。

 ルシフェルの目がキラリと光った。奴はついにその剣を鞘から抜き放った。黄金に光り輝く刀身が現れた。

 そして、私の矢を斬りつけるように剣を振るう。

 ギイイイィィィンッッッ!!!

 ぶつかり合う矢と剣。私の放った矢は炎の魔法が発動し、辺り一帯を巨大な炎の柱が包み込む。最初に放った魔法を載せた矢よりも数段、威力の高い炎だった。

 だが、剣を振るう奴の体は黄金の球体に囲まれていた。まるで剣がその所持者を守るように金色に輝くフィールドを形成し、炎が奴に届かない。

 奴が化け物ならその剣も化け物級の強さだというのかッ!

 やがて私の放った矢の威力が消え、あたりを包んでいた炎もかき消されると、全くの無傷のままのルシフェルが気持ち悪い笑顔を顔に貼り付けたまま現れるのであった。

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