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第9章 勇者RENの冒険
第162話 走馬灯
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お知らせ
昨日に掲載したこちらの話は1話先の部分となっておりました。
大変申し訳ありませんでした。
昨日よりご覧の方は1話前から、またお読みいただけると話がしっかりとつながるようになっています。
お詫びといってはなんですが、夕方にも1話追加しますので、どうぞよろしくお願いします。
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くっ、あの大盾さえなければっ!
キュイジーヌは変身したことにより、力、スピード、防御力までもが強化されていた。それにも関わらず攻めあぐねているのは単にあの大盾のせいなのだ。
あの大盾をなんとかしなければ……、ボクに勝機はない。
ここまで激しく打ち合ってきてわかったことはその単純なことだった。
変身前は押される一方だったが、圧倒的な力を得た今、わずかだが押しているのはボクの方だ。なんとかなるはずだ……。
バッジは相変わらずこちらの攻撃を大盾で防ぐと盾の横から剣を突き出してきた。
おっと、こいつを喰らうわけにはいかない。
大きく後方へジャンプして後退する。
ここだ……。
ボクは腕に力と魔力を込めていった。力こぶはみるみるうちに肥大化していき、爪は魔力を纏って鮮やかな煌めきを伴う。
バッジも警戒して自らは攻めてこない。あの大盾に魔力を込めつつ身を屈めている。
思ったとおりだ。アイツは自分の盾を過信している。ならば……、
「おーっと、キュイジーヌが力を込めています! 大盾を破壊するために大きな攻撃をしかけようというのでしょうか?」
「確かにそうかもしれませんね。力だけでなく、魔力も相当に込めてますよ。爪の輝きからしても今までで一番の攻撃になりそうです」
離れた所から猛ダッシュでバッジとの距離を詰めた。
バッジは盾を構えたまま微動だにしない。
「喰らえっ! ボクの渾身の一撃をッッッ!!!」
爪を真っ直ぐに伸ばし、大盾に向かって突進。爪があの大盾に吸い込まれるように伸びていく。
ズガアアアアアァァァァァァッッッ!!!
凄まじい爆音と共に、大盾が刺さっていた床石が爆発するように砕け散る。
「凄まじい一撃だーーーーーッッッ!!! 果たしてバッジは大丈夫なのか!? 土煙が激しくて舞台が確認できません!!」
「想像以上に破壊力のある攻撃です! あの大盾といえど今回ばかりは危なかもしれませんね!」
ボクの自慢の爪は粉々に砕け散った。憎々しいことにあの大盾は無事なまま、バッジを守り抜いたのだ。バッジはボクの放った一撃の衝撃に耐えるため、盾にくっついて固まっている。
まさにここだッ! ここが勝負時だ!
ボクは折れた爪を補修もせず、そのまま上から大盾を掴んだ。
「ぬぅ!? こなくそっ!」
バッジは大盾にかかったボクの手を追い払うべく剣を突き出してきた。
ボクの手に剣が突き刺さっていく。
凄まじい痛みが電撃のようにボクの体を駆け巡る。だが……、
「もらったよっ!」
ボクの手には剣が突き刺さったまま、大盾をしっかりと掴んだまま、その大盾の横へ身体を乗り出した。
「むっ!? お、お主ッ!」
ボクのとっておき中のとっておき。体内にある魔力を全てこの一撃にかける。
口を大きく開き、その中からボクの最大の魔法を放つ。大盾は今もボクの手に掴まれたまま動かせないだろう。
勝利を確信し、ボクは魔法を放った。
ヘルフレアー。ボクの持つ闇魔法の最大の技。最初に放ったクインテットフレアーよりもさらに上位の闇の炎。直撃すればこの世の者であればだれだろうとも灰燼に帰すだろう。これを口から直接吐き出すことによって勢いが増し、バッジの体を消し炭一つ残らず焼き尽くすのだ。
ボクの魔法はバッジを直撃した。凄まじい爆炎がバッジを中心として上がり、充分な手応えを感じたのだ。
「勝ったッ!!! ボクの勝ちだッ! クッハハハハハッ!!!」
ボクは溢れる喜びを抑えきれず、高らかに笑い声を上げるのだった。
***
キュイジーヌのヤツが何かをしかけてくるのはわかっていた。もちろん、力こぶをより増して、魔力を込めた一撃に耐えなければならぬ。問題はその次だ。
ワシはギュッと自慢の大盾をにぎり、セットした魔石に魔力を込めた。
これで相当な一撃にも耐えるはずじゃ。
肝心なのはその先。一体どういった攻撃をしかけてくる?
ワシは鍛冶屋だ。戦いの中に身をずっと置いてきた訳ではない。こういうときに自らの経験不足が恨めしい。キュイジーヌの次の一手が読めないのだ。
ワシは用心しつつも亀のように盾に身を隠す。そして、その時は来た。
キュイジーヌの動きはまるで見えなかった。気がつけば凄まじい爆発音と共に、ワシの盾に衝撃が走る。目一杯の力で盾をなんとか抑え込み、その一撃に耐えた時だった。
盾をつかまれる感触。
しまった。キュイジーヌの目的は盾を掴み、あわよくば奪い取ることか!
気づいた時にはすでに盾の上部をがっしりと掴まれていた。あわててその手に剣を突き出す。だが、キュイジーヌはそれを避けようともしなかった。まるでわかっていたかのように。
ワシの剣はキュイジーヌの手に深々と刺さりこんだ。しかし、キュイジーヌは盾を掴んだ手を離すことはなかった。
そして、勝利を確信したような喜んだ顔がワシの大盾の横から身体を乗り出したのだ。
ワシに悪寒が走り、背中が恐ろしく冷たく感じる。そして、頭の中に流れ出したのは走馬灯。今までの自分の人生の記録が一瞬のうちに流れ出したのだ。
人は自分が危機に陥ると、過去の記憶から対処法を探すべく、自らの記憶を見る。それが走馬灯という現象。ワシは見た。その瞬間にワシの全ての記憶を。
咄嗟にワシは動いた。盾を離し、うずくまるように背を向け、あわよくば地面の下にでも隠れるべく身を屈めたのだった。
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