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第9章 勇者RENの冒険

第147話 ジークの過去

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 ジークは人間族としてこの世に生を受けた。今から千年も前のことである。

 その頃、大陸には人間族と対立するアンデッドがいた。アストラルキング。精神生命体であるこの者は人間族の国家を滅ぼしながら、その肉体や骨を奪い取り、死霊軍団を築き上げ、勢いを増していった。

 人間族の国も周りの国々と協力体制を築き、このアンデッドの軍を迎え撃っていた。

 だが、敵は強大すぎた。アストラルキングは次々と攻め入る兵士達をアンデッド化し、自らの軍勢へと変えていったのだ。

 そして、この人類の危機たる時にこそ、生まれた勇者がジークであった。

 名もない村の出身であったジークは天からの声を聞き、アンデッド討伐へ向けて旅立った。

 しかし、強大すぎる敵を倒す術がなく、途方に暮れたある日のこと。再び神と出会い、アストラルキングを倒すための剣を授けられた。その黄金に輝く剣は持つ者に強力な強化魔法を与え、たとえ霊体であっても死を与える事ができる剣だった。

 そして、見事にアストラルキングを激闘の末、打ち倒し、人間は絶滅を免れた。

 その後、ジークは焼け野原に立ち、小さいながらも国作りを始めた。その国は豊かになった。何せ、ジークは英雄であり、敵などいなかったのだ。外敵がいないということは、すなわち平和ということ。その噂を聞きつけた人々により国が形作られ、現在の帝国となり、ジークは初代の皇帝となったのであった。



   ***



「ふぅむ、しかし、その初代皇帝であるジークが未だに生きていたのですね」

「あぁ、そうだ。ジークが神より授けられし剣、”ヴォルグスネーガ”こそその元凶となったのだ。ヴォルグスネーガは神の造りし剣。使用する者に代償を求める代わりに強大な力を与える剣だったのだ」

「代償? ですか……」

「そうだ。その代償とは”吸収”。あの剣はジークの魔力を常に吸い続けるだけでなく、周りの人間達からも強欲に魔力を吸い続ける。ジークの周りにいる人々は魔力を吸い尽くされ、早死する者が続出したそうだ」

 聞いていたヴァーバリーの喉がゴクリと音を立てる。

「ジークの身体はヴォルグスネーガにより常に強化され続け、身体が朽ち果てた今でもリッチとして存在している。我が祖先はあの剣に生かされ続けているのだ。ジークの大切な人々を殺し、ジークの身体を奪い、今も周りの生物を殺し続ける剣を与えた神という存在を、彼は恨みつづけているのだ」

 ヴァーバリーはこの話を聞いたことを後悔した。建国の父とだけ誰もが耳にするジークの華やかなストーリーとはかけ離れた現実。そして本人がスクリーンの中で、今も闘っていた。どこへもぶつけようのない怒りや悔しさが自分の身体を震わせる。

「陛下。ジーク様は死に場所を求めているのでしょうか? それとも……本当に神への報復を……」

「恐らくは両方だろう。言い伝えには彼が幾度となく、強敵と闘いに行った記録が残っている。それは最強の伝説として残っているが、真実では自らを殺してくれる存在を探し求めていた、と」

 この国でジークの伝説を知らぬ者などいない。それだけに今、まさに目の前で闘っている存在が信じきれない。

 ジーク様……。

 ヴァーバリーはジークの行く末をじっと見つめるのであった。



   ***



「さぁ、舞台ではイヴリスがまた詠唱を始めています! 一体どのような魔法が飛び出すのでしょうか! ローファンさんはどう見ますか?」

「恐らくは召喚魔法ではないかと思われます。それにしても大きな魔方陣です! イヴリスほどの大悪魔ですからどんな使役獣が飛び出すのか注目しましょう!」

「今、ここに我の魔力と引き換えに集え! 我がしもべ達よ! サモン・デーモン!!!」

 イヴリスの周りに現れたのは全身を黒い衣服で包んだ男が3体だった。

「あっーっと、イヴリスが召喚したのはデーモンでしょうか? しかも一度の詠唱で3体もの使役獣を呼び出すのは初めて目の当たりにします!」

「リサさん! 呼び出された召喚獣ですが、注目してほしいのはあの身なりです! ピシッとした異国の貴族服に身を包んでいまるよね? 彼らは、普通のデーモンではありません! 通常の悪魔と言われるデビルの上位存在がデーモン。彼らはそのさらに上位の存在、デーモン・ロードと呼ばれる悪魔達です!」

「な、なんとっ! デーモン・ロードですかぁ! わ、私、初めて目にしますよ!」

「それはそうでしょう! よほどのことがない限り、彼らはこの世界に現界できないのです! そして、そのよほどのことを難なく成し遂げるのがイヴリスという存在なのです!」

「通常のデーモンですら現界すると災害級と言われてますが、なんとデーモン・ロードとは! もう舞台でこれから何が起こるのか? 全く予想がつきませーーーん!」



 ジークはデーモン・ロードを一瞥すると、目の光りを増し、一つ頷いた。

「召喚魔法か。よかろう。ワシも召喚魔法は得意でな。ご自慢のデーモン・ロードとやらの力を見せてもらいたいと思っておった所よ」

「あら? もう敗戦が濃厚になって焦ってるのではなくて? オマエ達! あのスケルトンを粉々に砕いておしまいっ!」

「「「はっ!!! イヴリス様!」」」

 3体の悪魔達がジークに襲いかかる。

「ほっほっほ。血の気の多い奴らじゃのぅ! だが、ワシの詠唱を止められるかの?」

「ほざけっ!」

 3体の悪魔達はジークを取り囲み、一斉に攻撃を始めるのだった。


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