上 下
136 / 219
第9章 勇者RENの冒険

第134話 1回戦 第1試合 REN VS 黒騎士

しおりを挟む


 グラナーダ帝国。ここでは闘技場の戦士に最大限の栄誉を称える国であった。大陸のど真ん中に位置する帝国は四方を敵国に囲まれていると言って良い地形にある。それゆえ、昔から争いが絶えなかったのだ。

 そこで、個人の武に磨きをかけることを推奨し、闘技場で武勇を馳せた者には無条件で貴族の位すら与えられた。逆に言えば、貴族の息子といえど、武勇を示すことが出来なければ家の取り壊しともなる、厳しい制度である。

 それゆえ、貴族達はこぞって高価な武器、防具を購入し、武芸を修練するのが慣わしとなっている。

 だが、平民から比類無き強さを持ったアーロンという少年が現れると、状況は一辺するのだった。

 王は毎年行われている年に一度のトーナメントで4連覇をしたアーロンに伯爵の地位を授け、地位、金、名誉を手に入れたアーレンは金にモノを言わせ、最高の武具を揃えさせた。それが黒騎士の名前の由来となった鎧と武器である。

 今、帝王は白い雲のようなモニターを通して黒騎士を見ていた。この白い雲のようなモニターはこの世界のあちこちに出現し、今や、世界中の誰もが注目する一大イベントとなっていたのだ。

「皆はどう思う? 一回戦の相手は同じ人間族と決まったようだが……」

 帝王は口の周りに蓄えた長い髭を撫でながら臣に問う。

「全く問題ないかと。むしろ、一回戦の突破は確実なものとなったのではないでしょうか?」

 帝王の隣に控えていた宰相の男が答えた。

「ふむ、実は余もそう思っていた。人外の者共ならば、初見では防ぎにくい攻撃を持っているやも知れぬ。だが、相手が人間とならば初見殺しの攻撃など知れたものよ。さすれば……」

「はっはっは、あの装備が破られるなど想像もつきませぬな」

「「ガッハッハッハッハッハッハ」」

 二人は顔を上に向け高らかに笑い始めた。

 他の並んでいた貴族達も皆、笑い始め、黒騎士の勝利を疑う者は一人としていなかった。それほどまでに黒騎士の築いた強さへの信頼は厚かったのであった。



 闘技場内は俺と黒騎士を残し、他の戦士達は退場していった。

 舞台は静けさに包まれた。俺はただ正面に構えた黒騎士と睨み合っている。

 黒騎士は剣を抜いた。鞘だけでなくその刀身まで黒くなっていた。それが光を反射し、妖しいまでの刃紋が揺らめいている。

「己の不幸を呪うがいい。俺という強敵を相手にしたのだ。1回戦負けは決して恥ではない。必然なのだ!」

 黒騎士がなにやら語り出す。

「見よ! この剣を! この世で最も硬い物質であるアダマンタイト。それにブラックドラゴンの鱗と牙を混ぜ合わせ、作り上げた傑作中の傑作だ! この世に切れぬ物などない! この鎧も同じ硬度を誇っている。貴様がどのような武器を持っていようとも攻撃が通ることはないのだ……。クックック、先ほどの礼もある。苦しめてから葬り去ってやろうではないか」

 ほんとに口の減らない男だな。自分の強さに酔ってるのか? それとも武具の自慢でもしたいのか? さっぱりワケがわからんし、知りたくもない。

 俺は会話するのも馬鹿馬鹿しいので黙って開戦の合図を待つ。

「クッハッハッハ! 何も言い返さない所を見るといよいよ怖じ気づいたようだな! 俺がその気になれば貴様などものの数秒であの世行きなのだ! だが、慈悲深い俺は貴様に懺悔する時間をくれてやろうではないか! まずは両腕を叩き落としてやろう! その次は両足だ! すぐには殺してやらぬ。貴様の後悔する顔をたっぷりと拝ませてもらうまでなぁ!」

 まだ始まらないのか……。

「それにしても貴様も運のない男よ! 獣人なんぞの身代わりに出場し一回戦から俺と当たるとはな! まぁ、元の獣人が出てきた所で結果は変わることなどないがな。グワーハッハッハッハッハ!」

 肩を上下させて笑い始める黒騎士。もう呆れてものも言えない。

 その時、開戦の火蓋が突如、切って落とされた。

「では一回戦、REN VS 黒騎士! レディ、ゴーーーーーー!!!」

 黒騎士は未だに高笑いをしたままだった。

 俺は縮地という技で一瞬にして奴の懐へ入り込むと、手のひらを黒い鎧に当てた。

 そして、魔力を通し、鎧の奥にある身体に向かって放つ。

 黒騎士は笑って上を向いたまま、後方へ倒れ込んでいった。

「……お前のような雑魚にかけている時間などない。俺にはやるべきことがあるんでね」

「「は?」」

 実況と解説者のリンとローファンは口を開けたままポカーンとその様子をただ見ていた。

 というか、黒騎士はもう戦闘不能なのに誰も試合を止めてくれない。

「おい! いつまで呆けている。試合は終わりだ!」

 俺は実況席に向かって口を開くと、二人ともハッと気付いたようだ。

「し、試合終~~~了っっっ!!!」

 やれやれ、やっと気付いたか。では俺は帰らせてもらうか。

 来た道を引き返すと、ようやく観客席から歓声が沸き起こるのだった。

「いや~っ、一瞬の試合でしたね! ローファンさん!」

「えぇ、驚きました! あれは間違いなく獣人族の得意とする攻撃です! 魔力を体内で練り込み、鎧を打つのですが、その威力は鎧を貫通して本体へ至るという奥義の中の奥義! まさか人間であるRENが使うとは思いもよりませんでした!」

「それにしても、私はRENの動きすら見えなかったのですが、あれは一体どういったことなんでしょう?」

「あれは縮地を応用した移動技ですね。縮地というのも獣人族が得意とするもので、体重移動を巧く使い、一瞬にして相手との間合いを詰めるのです。起こりが自然な身体の動きなので、非常に反応しづらいんですよね」

「なるほど~~~! さすがローファンさんの解説は解りやすいですね! それでは第二試合の準備に入ります」

 俺は案内の天使に連れられ、控室へ向かった。

 その途中に黒いタキシードをピシッと着こなした者が壁によりかかっていた。ヴァンパイア族代表、キュイジーヌだ。

「やぁ、君、強いんだね?」

 キュイジーヌは優しく微笑みながら俺に話しかけてきた。

「そんな余裕で話している暇があるのか? 次はお前と当たるのかも知れないのだぞ?」

「問題ないさ。僕に勝てる者がいるなんて思いつかないしね」

「大した自信だな? 油断してると足元を掬われるぞ?」

「油断なんてしないさ。僕らヴァンパイアは強い者の血を取り込むことでより強くなれるんだ。君の血はさぞや極上のワインなんだろうなって思ったら居ても立ってもいられなくてね。思わず話しかけてしまったわけさ」

「俺をエサ扱いするとはな」

「あれ? 怒っちゃった? んー、別に怒らせるつもりじゃないんだ。少しだけ血をもらえないかな? って思っただけだよ。どう? 今なら僕の知識を分けてもいいってさえ思ってるんだけど」

「すまないが、俺にはやるべきことがある。お前と遊んでいる暇はないんだ」

「むぅ~~~、連れないんだねぇ。ま、いいや。先は長いんだし。気が変わったら声かけてね! いつでも歓迎するよ!」

 キュイジーヌは言いたいことだけ言うとこの場から去っていくのであった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

人類最強は農家だ。異世界へ行って嫁さんを見つけよう。

久遠 れんり
ファンタジー
気がつけば10万ポイント。ありがとうございます。 ゴブリン?そんなもの草と一緒に刈っちまえ。 世の中では、ダンジョンができたと騒いでいる。 見つけたら警察に通報? やってもいいなら、草刈りついでだ。 狩っておくよ。 そして、ダンジョンの奥へと潜り異世界へ。 強力無比な力をもつ、俺たちを見て村人は望む。 魔王を倒してください? そんな事、知らん。 俺は、いや俺達は嫁さんを見つける。それが至上の目的だ。 そう。この物語は、何の因果か繋がった異世界で、嫁さんをゲットする物語。

4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~

TOYA
ファンタジー
~完結済み~ 「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」 この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。 その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。 生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、 生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。 だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。 それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく 帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。 いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。 ※あらすじは第一章の内容です。 ――― 本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

処理中です...