上 下
121 / 219
第9章 勇者RENの冒険

第119話 リンの初冒険

しおりを挟む


「わ、私は冒険なんて初めてですわ! 緊張いたします!」

「はっはっは、最初はだれだってそういうものですよ。レベルさえ上がれば、昨日の狼だって敵ではないでしょう。ま、気楽にやってみましょう」

「しかし……、本当に大丈夫なのでしょうね?」

 心配症なのか、ザッツは全身フルプレートメイルに包まれていた。顔すらも完全に覆われており、今から戦争にでもいくかのような出で立ちである。

 リンは後ろからナイフを投げて貰うということで、投げナイフを20本と防御力がついたローブを着ていた。何でも防刃、防打、防突、防魔の付与がなされた、国宝もののローブらしい。さすが領主の娘。いいものお持ちだ。

 肌に当たる涼しい風を感じていると、前に魔物らしきものが現れた。

「どうやら魔物がいましたよ。では、俺が抑えますので、ナイフを当てて下さいね」

 魔物は緑色で小型の生き物、ゴブリンだろう。3匹ほどいるな。初心者の登竜門的モンスターである。最初の敵として不足はない。

 俺は鉄の剣を抜いて、ゴブリンを威嚇する。間違っても攻撃を当ててしまえばすぐに死んでしまうだろう。だからわざと当たらないように剣を振り回し、近づけないようにする。

「さ、今のうちに!」

「は、はいっ! えいっ!」

 リンはナイフを投げたが当たらない。続けて3本ほど投げたがどれも全く掠りもしなかった。

「あー……」

 しまった。言葉に詰まってしまう。これほどナイフ投げが出来ないとは……。こりゃ確かに練習してから来た方がよかったかな?

 後悔してももう遅い。仕方が無い。プランBだ。

「ナイフを持ったまま前に出して構えてくれ!」

「えっ、こ、こうですか?」

 リンは細い腕を目一杯伸ばしてナイフを構えた。

 俺はゴブリンを一匹ずつ羽交い締めにし、その構えた所に走っていき、リンの構えたナイフでゴブリンを傷つける。

「よし、これでオッケー」

 用済みのゴブリンはその辺の木に思いっきり叩きつけるように投げると、グシャッと潰れ死んだ。

「へ?」

 リンは呆気にとられた顔をしているが、まだ戦闘は終わっていない。続けて2匹を同時に抱え、同じようにリンの構えたナイフで傷つけたら木に投げ捨てる。よし、これで戦闘終了だ。

「ひゃっ! な、なんだか……力が湧いてきました!」

 リンは手を震わせながらジッと見つめた。

「おめでとう! レベルアップだ」

 親指を立てて祝福する。

「お嬢様! 誠でございますか! こ、こんなに簡単にレベルがあがるとは……」

 ザッツさんも相当驚いているようだ。

「ザッツさんも次はやってみましょうか」

「むぅ! 是非お願いしますぞ」

 軽く聞いてみただけのつもりが凄まじい喰い付きだ。ならば……。

 また魔物を探して少し歩いていると、今度はイノシシのような生物が見えた。体は大きく、人間の背丈の倍もありそうなほどに大きい。

「お? こりゃ丁度良さそうなのがいましたよ! 捕まえてきますね!」

 俺は走って大イノシシに飛び乗ると素手で頭部を殴りつける。何度か殴っていると足取りがフラフラになってきた。

 よし、ここらで持ち上げるか。

 大イノシシの背骨を掴んだまま、遠心力をかけ、ひっくり返すように持ち上げた。大イノシシはまだ俺に殴られたのが効いているようで足はビンと天に向かって真っ直ぐになっている。

「じゃ、二人とも! ナイフでも投げてくれ。刺さったら止めを刺すから!」

 大声で言うと、顔を真っ青にしていた二人は我に返ったようで、慌ててナイフを取り出し、大イノシシに向かって投げてくれた。さすがに大イノシシは巨体だったため、難なくナイフが刺さる。

「じゃ、止めでも刺しますか」

 安物の鉄の剣は普通に大イノシシを切ろうとしても分厚く硬い毛に阻まれてしまうだろうが、魔力を通すことによって性質を変えることが出来るのだ。

 俺の魔力を通すと金色に光り、パチッパチッと電気が弾ける音がなりつつ、小さい雷のようなものが剣から走る。

「それっ」

 大イノシシの首はあっさりと切り落とされ、地面に落ちた。アイテム袋でまるごと回収し、完了というわけだ。すこぶる簡単な作業だ。

 二人はというと、急激にレベルが上がったせいか、手をブルブルを震わせながら地面に座り込んでいた。

「はわわわわ……」

「なななななっ……、こんなことが!」

二人とも自分の世界に入ってしまっているようだ。

「大丈夫だったかな? んじゃ、次行ってみよう!」

 俺は二人に簡単にヒールをかけ、さらに奥へと進んでいく。

 すると、何やら大きな影が辺りを覆いながら進んでくるのが見えた。

「これは……?」

 空を見ると竜の頭部を持った翼の大きい魔物、ワイバーンが飛んでいた。

「うそっ! 山脈の奥にしかいないワイバーンがなぜこんなところに?」

 リンの顔がみるみる青く変化していく。

「ありえない! 私は60年もこの辺りにいるが、ワイバーンがでるなど!」

 ザッツも目を丸くして口を開けたまま、玉のような汗をダラダラと流している。

 なにやら、大げさに言っているようだが、ただの空飛ぶトカゲである。

「んじゃ、次はアレ行ってみましょうか!」

「「へっ???」」

 二人の口は空いたままだが、こんなレベルアップのチャンスを逃がすわけにはいかない。

「むんっ!」

 ワイバーンに向かって手をかざし、魔法を発動させる。

 ワイバーンの周りに雷が発生し、命中した。だが、もちろん生きている。

 よしよし、一番弱いサンダーの魔法だからな。死ぬんじゃないぞ?

 ワイバーンが驚き、ホバリングと止まったところで……。

「こうだっ!」

 俺が剣を振ると稲妻を帯びた衝撃波が飛んでいく。その衝撃波はワイバーンの翼を直撃、貫通した。ワイバーンは今や、飛ぶこともできず、落下し始めるのだった。

 よし、この場に落ちてきそうだな。うん、この辺りで受け止めれば……。

 俺は高くジャンプし、ワイバーンの体を受け止める。といっても、ワイバーンにとっては凄まじい衝撃だったのだろう。すでに虫の息になっているようで首はピクリとも動かない。

 これはチャンスだ。

「リン、ザッツ! ナイフで止めを刺してくれ!」

 二人は大きく口を開けたままだったが、なんとかナイフを取り出し、投げつけてくれた。

 二人のナイフはレベルアップの効果もあり、ワイバーンの体を突き抜け、遙か彼方まで飛んでいく。

 うまくいった! 止めを刺されたワイバーンは生き物ではなくモノ扱いとなる。モノとなればアイテム袋に回収可能になるのだ。その巨体はするするとアイテム袋に吸い込まれていくのだった。

 だが、問題が起きてしまった。

「きゃあああっっっ!」

「ぬふうううっっっ!」

 二人を襲ったのは急激すぎるレベルアップの快感。あまりにもレベル差がありすぎたせいであろう。二人は身悶えてしまい、その場から動けるようになるまで一時間近くもかかってしまうのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...