上 下
119 / 219
第9章 勇者RENの冒険

第117話 道中

しおりを挟む

 勇者RENが聖教国を出てから早3週間が過ぎていた。

 俺は山脈を越え、小高い丘の上に立っていた。ついに目的地である街が見えてきたのだ。

「あれが、アレクサンドロスか」

 三方を山に囲まれ、西側は海に面したその街はわずかな平野部にみっちりと街が押し込まれているようだった。その街からはわずかに数本ばかり街道が走っているが、この街は陸路で移動するにはあまりにも不便すぎた。海に何艘も浮かんでいる大きな船がこの街の交易の殆どを担っているのが、一目見てわかるほどに街道には人が少ない。

「今日は久しぶりにベッドで寝れそうだな」

 はやくあの街を見て回りたい、そう思いながらも、今日は天気が非常によく晴れ渡っており、青空が広がっていたのだ。山脈の気候は移り変わりが激しかったため、もう少しだけでもこの穏やかさというものを味わいながらゆっくりと歩を進めていく。

 すると、山の中から人らしき者の叫び声と地響きのような音が耳に入った。

「ん? なんだ? こんな山奥で人の叫び声なんて……」

 取りあえず、急いでみるか……。

 俺は木々の天辺を一気にジャンプで超えながら、現場へと急ぐのだった。



「くっ! 決して馬車から出てはなりませぬぞ!」

 声を上げたのは初老の男だった。剣を構え、敵が近寄れぬよううなり声のようなものを出し、威嚇する。白髪で体も細く、どう見ても闘えるような男ではない。

 その男を取り囲むように襲っていたのは巨大な狼だった。しかも数頭がグルルル、と喉を鳴らし、初老の男を取り囲んでいた。

 狼は人間よりも大きく、体長は3メルを超えていた。青黒い体毛に覆われ、野生の目つきは鋭く人間を捕らえ、今にも襲いかかろうとしている。

 倒れた馬車の周りにはすでに殺されてしまった人間たちが、横になっており動かない。

「まだ生きてる人がいる。よし!」

 今まさに初老の男に向かって一匹の狼が襲いかかろうとしていた。俺はとっさに腰の剣を抜き、投げ放つ。剣は飛びかかった狼の頭部を貫通し、地面に突き刺さった。

「むぅっ? こ、これは?」

 初老の男が俺の方を振り向く。

 だが、その瞬間に狼たちが一斉に男に向かって飛び込んだ。

「喰らえっ! サンダーボルト!」

 手から発せられた雷の矢は数十本。それは狼たちの体を尽く貫通し、一瞬で焦がし尽くした。

「大丈夫か?」

 俺が声をかけると、初老の男は目を丸くして驚いていた。

 だが、戦闘はまだ終わってはいない。森の奥から一際大きな狼が出現したのだ。恐らくはコイツがボス狼という所だろう。

「た、旅のお方。すまん。巻き込んでしまった。ここはせめて私が盾になる。馬車の中にいる方を連れて逃げてくれ!」

 初老の男が俺に向かって叫ぶ。だが、そんな必要はもちろんない。

 俺はアイテム袋から聖剣を取り出し、正眼に構えた。

 そして、殺気を巨大狼に向かって放つ。巨大狼は獲物を狩る目をしていたが、狩られるのが自分だと気付いたのか、震えだし、その場から動けなくなった。

「実力差がわかるのか。賢いんだな。だが、人間を襲った奴は放ってはおけない。せめて……すぐに楽にしてやろう。」

 俺はその場から剣を横薙ぎに振り抜いた。剣から真空の刃が飛び、巨大な狼の首を突き抜けていった。

 やがて、ドウッっと首が落ち、胴体も横に倒れ込むのであった。

 さて、周りにはもう殺気を放つ魔物もいなそうだ。片づいたかな。

 俺はまだ震えながら目を丸くして口をパクパクさせている初老の男に近づくのだった。




「助けて頂いて本当にありがとうございました!」

 馬車から出てきた人はフードを深く被っており、顔は見えないが背は低く、声もまだ幼さの残る感じだった。恐らくだが、十代前半といった所だろう。

 女性はフードを外すと、金色の長い髪の毛が腰まで伸ばした小柄な女性だった。スッと通った鼻筋、大きく金色の目、可愛らしい小さな口、整った顔立ちはあと数年もすれば相当な美女になることは間違いなさそうだ。

 だが、最も特徴的だったのは頭の上に飛び出た大きな獣の様な耳だった。

「獣人の方でしたか。俺はRENといいます。ま、旅をしていたのですが、ちょうどよく通りかかってよかったです」

「まぁ! 旅のお方だったのですね? 私はリンと申します。この近くにある街、アレクサンドロスは獣人が多く集まる街でして、そこに住んでいるのです。このたびは助けて頂き本当にありがとうございました」

 リンと名乗った少女はぺこりと頭を下げた。

「あぁ、いえ。これはご丁寧に」

 耳がピョコピョコと動き、見ていると触りたくなる衝動に駆られてしまう。だが我慢だ。初対面の女の子を触りたいなんて犯罪臭がする。仮にも俺は勇者なのだ。人々に希望を与えるべき勇者がこんなこおとでは獣人の街からすぐに追い出されてしまうだろう。

「それにしても、お若いのに凄まじい強さですな。どこかで修行をされたので?」

 初老の男が尋ねてくる。

「えぇ、まぁワケあって修行中の身です。旅をしながら腕を磨いているところでして」

「ほぅ、その強さでまだ修行中とは……。このザッツ、感服しましたぞ」

「それよりも、亡くなった方たちの体を街へ運びましょう。このままではさらに魔獣を引き寄せてしまいますから」

 二人はすぐに協力してくれた。3人で亡くなられた方達を並べ、大きな布に包み、アイテム袋の中へ入れていく。この亡くなった方達の家族が待っているだろうから。

 そして、改めて3人で街へ向かって歩いて行くのであった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

人類最強は農家だ。異世界へ行って嫁さんを見つけよう。

久遠 れんり
ファンタジー
気がつけば10万ポイント。ありがとうございます。 ゴブリン?そんなもの草と一緒に刈っちまえ。 世の中では、ダンジョンができたと騒いでいる。 見つけたら警察に通報? やってもいいなら、草刈りついでだ。 狩っておくよ。 そして、ダンジョンの奥へと潜り異世界へ。 強力無比な力をもつ、俺たちを見て村人は望む。 魔王を倒してください? そんな事、知らん。 俺は、いや俺達は嫁さんを見つける。それが至上の目的だ。 そう。この物語は、何の因果か繋がった異世界で、嫁さんをゲットする物語。

4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~

TOYA
ファンタジー
~完結済み~ 「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」 この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。 その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。 生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、 生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。 だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。 それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく 帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。 いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。 ※あらすじは第一章の内容です。 ――― 本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

処理中です...