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第8章 聖教国にて
第112話 宰相の目論見
しおりを挟む三度目の王宮内。俺は認識阻害の魔法を使い、忍び込んでいた。
一体、誰が戦争を続けるべく動いているのか。それを確認しなければならない。
以前、勇者一行と戦闘のあった部屋に黒い霧を繋げ、そこから侵入していく。
王宮内は戦争の準備に入っているだけあって、兵士たちがせわしなく準備に動き回っていた。
さすがに三度目ともなれば、侵入することにも慣れてきたな。
俺は、すぐにサーチの魔法を使い、会議を行っているであろう部屋を探していく。すると、すぐに整列して動かない反応が並んでいる部屋を感知した。
「ん? ここに人間が集まっている場所がある。恐らくはここで話し合っているはず。行ってみるか」
俺は足早にその場所を目指し急いで向かった。
会議室は宰相と軍務大臣、それから軍務を任される貴族達が進軍の計画を練っていた。
「では、第一陣を軍務大臣である、ヴェーグナー卿、第二陣をハーリッシュ卿にお願いする。以後、細かい作戦については軍務大臣であるヴェーグナー卿の預かりとする。よろしいかな?」
「異議などあろうはずもない。魔界なぞすぐに攻め滅ぼしてくれよう」
俺は会議室の外から聞き耳を立てていた。
ヴェーグナーとやらはなんだか自信を持っているようだが、どうしてなんだ? 相次ぐ王族の失踪に対してなんとも思わないのか?
会議が終わったようで、貴族達が立ち上がろうとする。
マズい、このままでは戦争が始まってしまう。ここにいる連中は皆、記憶を消してしまわなければ!
バタン! と扉を押し開け、中に飛び込む。中にいた貴族達の視線が一気に俺に集まった。
「何やつだ? 捕らえろ!」
貴族が叫ぶよりも先に、俺は辺りを防音バリヤーで包み込んだ。最早、このフィールドからは音が漏れることはない。
貴族達の怒号が巻き散る中、俺は会議室へ黒い霧を放った。
「なんだ? この霧は! 早くその男を捕らえろ! いや、切り捨てても構わん。やれっ!」
宰相の命令に貴族達が一斉に剣を抜く。
だが、俺の魔法のほうが遙かに早くこの場の全員を捕らえた。
「すまんが、ここで戦争を起こさせるわけにはいかないんだ。記憶を全て消させてもらおう」
俺はここにいる要人たちの記憶を奪い、宰相だけは尋問するべく、捕らえるのであった。
さて、用事は終わったが……。公爵の姿が見えないな。どこに行ってるんだ?
公爵は会ったことがあるため、サーチですぐに居場所を特定できた。とりあえず合っておくか。
おかしいな? どんどん王宮から離れていっている。こんな所に公爵がいるのか?
来たところは王宮から離れた所にある塔のような建物だった。
「なんだこれは?」
その塔は静かにたたずんでおり、見張りの兵達が完全に武装している。その警備も厳重で幾人もの兵たちが詰めているのであった。
ふむ、公爵は自分の護衛の兵を連れて行ったはずだ。こいつらもその兵なのだろうか? 現状は分からないことだらけだ。
俺は、認識阻害の魔法を使い、公爵がいる最上階の所まで一気にジャンプした。
ちょうど開いていた窓から内部へ侵入を果たすと、そのまま目立たない場所に隠れる。
「ん? 今何か入ってきたか?」
「調べてみるか」
勘のいい兵が二人ほど、こちらへ向かってくる。
「うーん、なんだったんだ? 異常はなさそうだな」
「鳥か何かだったんだろう。おし、戻るか」
気配を殺し、何とかやり過ごしたが、雰囲気が普通の警備とは違う気がする。
見張りがいなくなったところで進んでいくと、俺は思わず息を飲んだ。
目に入ったのは太い鉄の棒が並ぶその奥に、酷い怪我を負った公爵が両腕を鎖に繋がれ、俯いていたのだ。
「……っ!」
思わず声が漏れそうになってしまった。あの会議にいなかったのは捕まっていたからだったのか。
俺は見張りの兵がいないことを確認すると、認識阻害の魔法を解いた。そして、公爵へ小さい声で囁きかけていく。
「公爵。意識はありますか?」
だが、公爵は俯いたまま反応がない。
仕方が無い。このまま助けだそう。ホーリーソードで鉄格子を切り、音がしないようにそっと鉄の棒を置く。素早く公爵の両腕に巻かれた鎖を断ち切ると、公爵が倒れ込むように傾いてくる。なんとか優しく受け止め、ヒールとキュアーを使用した。
「……む……、君は?」
「シュヴァルツヴァイン公爵。今は静かにお願いします。まずはここから脱出しましょう」
「あ、あぁ。娘だけでなく、ワシの命まで救ってくれたのか。君は……。ありがとう。……本当にありがとう」
公爵の目から涙がしたたり落ちる。
「御礼は後で。今、空間転移の魔法を出します。これに乗って公爵邸まで行きましょう」
「うむ。助かる」
俺は黒い霧を出し、公爵邸まで繋げると、公爵をここから脱出させることに成功するのだった。
***
「本当に君には驚かされるよ。助けてくれて本当にありがとう」
深々と頭を下げる公爵。
「それにしても何故、あのような場所に?」
「ふむ。どこから話せばよいものか……。実は……今、王族が皆、失踪してしまったのじゃ」
それはよーく知ってます。犯人は俺ですから。
「それでの、あの宰相が実権を握るべく、軍務大臣と協力しクーデターを起こしたのじゃ。そして、戦争反対派であるワシを捕らえ、王族失踪の罪を押しつけたというわけじゃ」
「なんてことを……」
「うむ……。しかし、お主の魔法は凄まじいの。娘がお主のことを聖者の再来だと言っておった。じゃがワシも確信した。お主こそ、この聖教国を救う聖なる神の使いだとな」
「えっ? そ、そんなことは……」
実際、創造神から力まで押しつけられ、この世界の管理を任されているなんて言えるわけもないしな。まいったな。
「謙虚な男じゃの。お主にならば娘だって安心して任せられそうなんじゃがのぅ」
「そ、それはいけませんよ。家の格も違いすぎます。第一、メティさんのお気持ちを無視するのはよくありませんよ」
「ふぅむ、そうか。まぁよい。ワシはこれから領地へ戻り、あの宰相と一戦交えてでも、戦争を止めねばならん。碌な御礼も出来ぬまままた出かけることになってしまうが許してくれ」
公爵は人間が出来ている上にこの国のことを想ってる。あの宰相も捕らえて正解だったな。
「分かりました。ですが、王宮内に少しだけ妨害工作をしましたので戦争は少しだけ先延ばしになっているかと思います」
「さ、さすがじゃの! しかし、ワシはこうして狙われた以上、警備を手薄なままにはしておけん。兵を連れ、なんとしても戦争派の連中を止めてみせよう」
「では、俺はこの街に留まり、怪しい動きがないか見ていますね」
「うむ。お主には世話になってばかりじゃの。助かる」
公爵は頷くと、すぐに準備に取りかかるのであった。
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