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第6章 アナザージャパン編
第69話 謁見
しおりを挟む「さて、誰か話のわかる奴はいないか? 俺は話しをしにきたんだ」
だが、鬼達は誰も答えない。目を吊り上げ、凄まじい形相で俺を睨むだけだ。
「やれやれ、実力行使するつもりはなかったんだけどな。このままだと押し通ることになるぞ? それでもいいのか?」
鬼達は黙っていた。誰も動かない。いや、俺が少しばかり魔力を解放しているために、動けないのだろう。
俺が歩く。すると、鬼達は武器を構えながらも左右に分かれていった。
「賢明な判断だな。ボスのところまで案内してくれれば、最高なんだが」
「ワン!」
コンには万が一を考えてバリヤーを張っている。ま、この程度の鬼達なら、全く攻撃は通らないだろう。
「行こうか、コン」
割れていく人波の中を悠々と歩いていくと、本殿が見えてくる。
その本殿の前には一際大きな体の鬼が待っているのであった。
「ふぅむ、何用だ? あの門番を倒すとは只者ではあるまい?」
「すまんな、俺は話しをしに来たんだが、問答無用で襲ってきたため、反撃させてもらった」
「そうか。私は大王様の補佐を務めている、益鬼と申す。それで大王様に用とは? さっぱり貴様には心当たりがない」
「あぁ、話が通じそうで良かったよ。俺はソウ。実は俺は日本から来たんだが、どうも黄泉の世界から魔物を送り出してる奴がいそうでね。そいつを突き止めたいんだ」
「ふぅむ、少しここで待っててくれ。大王様に話してくる」
目の前の男は大王とやらの補佐だろうか。直接、話をできる立場なのだろう。
「助かるよ。あと、リザレクション! さっきの門番も生き返らせておいた。これで文句はないだろ?」
「ふむ、良いか皆の者。決して手を出すなよ!」
益鬼は去って行ったが、俺を包囲する鬼達はそのままだ。ま、仕方あるまい。ここは待つしかないか。
「大王様が直接、お前と話しをされるそうだ」
益鬼は五分ほどで戻ってきてそう言った。
俺はすぐに案内され、大王を謁見することになったのだった。
*
「ほぅ、お前がソウという地球人か。だが、その魔力……。とても人間とは思えないが」
謁見の間。階段の上には金色に光るゴージャスな椅子があり、そこに腰をかけている男が大王ということか。確かに、強者の纏うオーラを感じる。持っている魔力量が他の鬼とは桁違いのようだ。
「あなたが大王か。俺の名前はソウ。これでもれっきとした人間さ」
大王への口の利き方が気に入らないのか、周りの者たちがざわつき始める。
「よい、皆の者。静粛にせよ。この者は人間と言っておるが、神格、それも特大のものを持っておる。そうだな?」
「ん? 鑑定術でも持ってるのか? 確かに俺は大魔神の肩書きがある。ま、名乗ることなんてないがね」
周囲がさらにざわめく。
「よいか! 皆の者。この人間はワシと同格、いやそれ以上かも知れぬ。よけいな口や手を出した者は極刑に処するぞ!」
「やっと周囲が落ち着いたな」
「それで? ワシにして欲しいこととは何だ? さっきの話ならワシは知らんぞ? 心当たりもまるでない」
「そうか。なら人間界にちょっかいを出す輩がいるようでね。そいつを探してはもらえないだろうか? この前なんてスタンピードが起きて大変だったんだよ」
「ふむ、確かに先日この黄泉から大量に物の怪がいなくなったが、地上に召喚されておったのか。だが、ワシがお前の言うことをただで聞いてやるワケにはいかんな」
「ま、そうだよな。何か困ってることとかないかね? 俺が手伝えることがあれば、それと引き換えってのはどうだ?」
「グッフッフ、話が早い。ワシと決闘をしてもらおう。ワシが負ければお前の言うことを聞いてやろう。だが、ワシが勝ったらお前はワシの部下になってもらう。どうだ?」
「なんだか、俺に不利な条件だが……、まぁ、いいだろう。俺が振った話だしな」
「よぉーーし! 決定だ!!! 闘いの準備をする! 今から一時後、正面の広場で待つがいい!」
会場にいた鬼達が一気にざわめき、動き始めた。
しっかし、どいつもこいつも目がイキイキとしてるな。ボスが闘うのを見たいのかな? ボスが負けるなんて微塵も思っちゃいないんだろう。だが、俺もここまで生き延びてきた自負がある。負けられないな。
密かな決意を胸に、広場へと歩を進めていく。
*
広場で待っていると、周りには次々に会場が設けられていき、30分と立たずに、特設の闘技場まで設けられてしまった。
白く輝く石を何枚も並べた闘技場の周りには椅子がズラリと並び、万を超える人数を収容できそうだ。そして、魔術師の鬼達が数十人で闘技場に結界を張っていく。
なるほど、俺たちの闘いの余波が及ばないようにするわけか。
感心している間にも、超満員の観客席からは歓声が沸き上がった。
大王が入場してきたのだ。
「「「ワァ~~~~~~ッッッ!!!」」」
凄まじい音量、音圧に着ている服がビリビリと揺れる。
観客の足踏みがまるで入場曲のように響き、大王はゆっくりと闘技場へ入場した。
そして、俺に向かって手をクイッと寄せ、”かかってこい”と言わんばかりのアピール。
観客席は大盛り上がり。
凄まじい人気ぶりだな。さすが、不敗の閻神。こりゃ、俺も気を引き締めないとな。
「ワンッワンッ!!」
コンが俺を見ながら吠える。
「あぁ、大丈夫だ。行ってくる」
コンは心配しているというよりも、やってしまえ! と言っているに違いない。
両手で自分の頬をパン! と一発叩き、俺も闘技場へと歩き始めた。
とたん、会場からは凄まじいブーイングが飛んでくる。
「「「ブーーー! ブーーーッ! ブーーーッ!」」」
まるで悪役にでもなった気分だ。どうせなら徹底的にやってやろうじゃないか!
おれは観客席に向かって両手で中指を立てながら、舌を出し、ノリノリで悪役役を演じながら入場する。
「よくワシの決闘を受けたな、若き人間よ! ワシこそは生涯無敗! 鬼族の神と称えられし、閻大王なり! 鬼族は強き者に従うのが慣わし。ワシにモノを頼みたいのであれば、倒して見せよ!」
またしても凄まじい歓声が沸き起こる! その歓声と足踏みに地面までブルブルと震えだした。
「俺はソウ。人間だが、大魔神の肩書きを持っている。閻神と大魔神。どちらが強いのか、ハッキリさせてやろう! いざ、尋常に! レディ……ゴーーー!!!」
俺が駆け出すと同時に大王も駆け出す。
俺たちの激突が今、始まるのであった。
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