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第6章 アナザージャパン編
第67話 モフモフ
しおりを挟む辺りは一面、石だらけの世界。所々に石を背の高さまで積み上がっており、その上に火が灯っている。その石灯籠があちこちに配置されており、幻想的な光をもたらしていた。
天を見回したが、太陽はない。この火の灯りだけがこの世界の光なのだろうか?
「とりあえず、歩いてみるか」
行く当てもないので、とりあえず進むしかない。視界は石だらけだが、何か見えてくるかもしれないしな。
30分ほど歩くと、川が見えてきた。川の岸には石灯籠の灯りが立ち並んでおり、川を火の色に照らしている。
反対側は見えない。
「んー、渡るには……、バリヤーで足場作って跳ねていくしかないか」
よっと。
バリヤーを足の先にだけ出し、飛び跳ねるように川を渡っていく。
「しっかし、なんて広い川だ。向こう岸がうっすらとしか見えないぞ」
川をどんどん渡っていくと、向こう岸に何やら闘いがあるようだった。激しく光ったり、風が吹いたり、フラッシュのような稲光が光ったりしている。
一体何だろう? モンスター同士で闘っているのか?
近寄ってみるか……、あれは?
闘っていたのは赤い肌の鬼が数匹と大きな白い狐だった。
赤鬼は巨大で10メルはありそうだ。次々に巨大な金棒で狐を攻撃している。
一方、狐は魔法で迎撃している。が、赤鬼を倒しきれないようだ。風魔法でダメージを負った赤鬼に後方からヒールをかける鬼がいるようだ。
なるほど、確かに狐は強いが、集団で襲われると話が変わる。
赤鬼が金棒を振り回す、それが、狐にヒットすると顔を苦痛に歪める。
そして、後ろに回っていた鬼からの一撃を狐はまともに喰らってしまった。
白い狐は倒れた。後方に構えていた魔術師の鬼は黒い霧を出現させる。そして、狐を黒い霧に捕らえこんだ。
「あれは?」
あれほどの大きな黒い霧を扱える術士がいるのか!
黒い霧は俺の分析だと、まず、体をエネルギーに変えているようだ。複数の個体からエネルギーを溜めることも出来る。そして、他の世界とパイプと繋げ、体を再構築するように出現させる。こんな所だ。
魔術師の鬼は、強力な狐のパワーを取り込んだのだろう。
赤鬼達は近くにあった岩を破壊し始めた。
「いったい何をしているんだ?」
すると、岩陰から飛び出す小さい影があった。
それは子狐だった。
あの大きな狐は子供を守るために闘っていたのか。どうしよう? 助けるべきなのだろうか? 本来であれば、俺は部外者だ。助けない方がこの世界の摂理を壊さないで済む。だが、あのかわいい見た目の子供を大きな鬼達が囲んで倒そうとする、その姿がどうしようもなくいたたまれない。
ここからあの子狐までは、まだ距離がある。間に合うだろうか?
鬼達は子狐を葬るべく金棒を振り上げた。
急ぎでダッシュしながらバリヤーを子狐にかける。
「届け!」
振り下ろされる金棒。動けない子狐。ドスン! と低い音が地響きと供に広がった。
土煙が晴れていく。鬼達は目を見開いて驚いた。金棒は子狐に届かなかったのだ。
白い膜に覆われ、守られた子狐も何が起こったのかわからないように目をパチクリとさせている。
「よし、間に合った!」
腰に下げたアイテム袋から刀を抜き、鬼達に振りかぶる。
鬼達は急に出てきた俺に驚き、動けないでいる。
チャンスだ! 今のうちに刀を振り、鬼達の首を全て狩り落とすのだった。
ズゥゥン。轟音を響かせながら鬼達が倒れていく。
後は、後ろで構えていた魔術師タイプのみ。
魔術師の鬼は俺の登場に驚きつつもファイアーボールの魔法を使ってきた。
見たこともないような大きさだ。恐らくレベルが相当高いマジシャンなのだろう。
だが、こんなのはハーデスが使った魔法に比べれば数分の一程度の威力しかない。
バリヤーを張り、ファイアーボールがぶつかると爆炎を上げて燃え上がるが、俺には届かない。
魔術師の鬼は仕留めたつもりだったようで、ニヤリと笑っていた。が、俺の姿を確認すると驚愕の表情を浮かべた。
「こいつで終わりだ!」
俺の動きに全くついてこれない鬼を通り抜けるように切り裂く。
最後の一体も危なげなく倒すことができたな。
自分の技に感心していると、足下からグルルル、と喉を鳴らす声が聞こえてくる。
「お? 助かったようだな」
子狐は俺をまだ警戒しているように喉を鳴らしながら睨んでくる。
だが、その痩せ細った体といくつもの傷を体に抱えていた。このまま放置しては、すぐに死んでしまう可能性が高い。
「よしよし、安心しろ。俺は敵じゃないぞ? ほれ、水をお飲み」
手からポーションを出す。流れ落ちる水に子狐は警戒を少し解き、チロッと舐めてくれた。
かわいいなコイツ。でも拾っていくわけにはいかないし……。
やがて、子狐が完全に警戒を解くと、俺の出すポーションをゴクゴクと飲み始めた。
うんうん、これで、体も元通りだろう。
そんなことを思っていると、子狐の体が光に包まれた。
うん? 眩しいな! なんだ?
光が収まっていく。俺はうっすらと目を開けると、子狐の体はすっかり傷もなくなっていた。のだが……、
「あれ? 尻尾が増えてる?」
ひい、ふう、みぃ、と数えていくと九本もの尻尾があり、それをクジャクの様に広げて見せてくるのであった。
「おお! お前、九尾の狐だったのか! それにしても凄い魔力の放出だ!」
以前とは完全に見違えるほどに、毛並みはキラキラと輝き、毛がフサフサになっている。
思わず、ゴクリと喉が鳴ってしまった。
モフモフしたい……、だけど噛みつかれたらやだしなぁ……。
そんなことを思っていると、子狐は俺の脚に頭を擦りつけてじゃれついてきた。
「クゥーン」
ゆっくり手を伸ばすと、俺の手をペロペロと舐め出す。
「い、いいのか? 触っても?」
「ワン!」
と勢いよく吠える子狐。
よし、じゃあ、少しだけ……、
モフモフ……、もうちょっと……、モフモフモフモフ。
あぁ、なんて柔らかい毛並みなんだ。指がこんなに気持ちいいなんて!
止まらないっ! モフモフ……。もう俺を止められるのは誰もいない! モフモフモフモフ……。
「ワンワン!!」
子狐が撫でられるのを嬉しそうに喜び、軽く吠えてくる。
「なんて可愛い奴なんだ……」
俺の気が完全に緩み、モフモフに没頭していると、俺の手が光り出した。
「ん? なんだこりゃ?」
気付くと、手の甲に不思議な模様が浮かび上がり、子狐の額にも同じ模様が浮かんでいるのであった。
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