上 下
22 / 219
第3章 エルフの国にて

第22話 グリフォン戦

しおりを挟む
(ミーナ視点)

 めちゃくちゃな旅が始まってしまった。

 普通、長距離の移動は馬を買ったり、乗り合いの馬車を使って移動するものだ。

 しかし、ソウはお金をもっていない。私たちと出会ったときは本当に1セタももっていなかったのだ。どうやって暮らしてきたのだろう?

 お金がないということは、馬や馬車で移動はできない。二人で徒歩で歩いていって、私が疲れたら背負ってくれるのかと思っていたら、そうではなかった。

 なんとソウはいきなり私を背負うと、凄まじいスピードで走り始めたのだ!

 そのスピードは馬車を置き去りにし、走る馬を追い抜き、追いかけてこようとした狼の群れすらついてくることは出来なかったのだ。

「ちょっと、ソウ! そんなにスピードだしてたら疲れるんじゃないの?」

「はっはっは、まさか。これくらいで疲れるような鍛え方はしてないさ」

 太陽が照っているせいか、しばらくしてくると彼の汗が背中に出てくる。それも彼はキュアーの魔法で流してしまい、一向に止まる気配すらない。

 広い背中。温かい背中。頼りになるってこういうことを言うのかな?

 ずっとこの背中に抱きついていたくなる。

 馬を乗りついで十日もかかる国境の街まで一日でついてしまいそうな勢いだ。

 そこから私の住んでいた世界樹の森まで、さらに距離はあるけれど。

 そんなことを呑気に考えているときだった。

「クエェェェッ」

 遠くから聞こえる鳥の声。だけどこの声量は普通の鳥じゃない。

「ソウっ! この声は……」

「ん? おぉ! 見てみなよ! ほら、でっかい鳥が飛んでるよ!」

 全く緊張感の欠片もないソウの声にあきれつつも、私はソウに危険が近づいていることを伝えたかった。

「ソウっ! この声は鳥じゃないの! ほら、あんなに遠くにいるのに大きく見えるってことは……」

「んー、なんだろうね? ちょっと寄り道しよっか」

「え? なんでそうなるのよ! 危険だから迂回しましょうって言ってるのよ!」

「んー、ミーナのレベル上げにちょうどいいんじゃないかな?」

「へっ? 私が戦うの?」

「あぁ、アシストはするからさ。安心してやっつけちゃってよ!」

「う、ウソでしょ? ……だってあれ、頭はワシだけど……、体は獅子なのよ!? あれグリフォンなのよ? ねぇ、勝てるわけないじゃない! あんなの討伐するには軍隊が出動する必要があるわ! 緊急事態よ!」

「またまた、大げさな。大丈夫だって」

「ちょっ! 近づいていかないでよ! 今なら逃げれるでしょ? グリフォンは縄張り意識が強いのよ?」

「ミーナ、大丈夫、俺がついてる。ミーナは魔法だけ遠くから当ててくれないか?」

「え? わ、わかったわ」

 ソウの頼もしい言い方に思わずわかったと返事をしちゃったけれど……。

 近くなってきた。やっぱり大きい!

 頭から尻尾まででも優に5メルはある。そして、翼を広げるとその両翼の長さは10メルを超える大きさだ。

 グルルルルル、と喉を鳴らし、縄張りに入ってきた私たちを威嚇してくる。

「よし、魔法で先制してくれ。俺が続くから」

「えぇ、精霊よ、グリフォンに火の玉を!」

 グリフォンの前にファイアーボールが現れ、襲いかかる。グリフォンにヒットしたが、全く効いた様子はない。しかし、激昂して叫び声を上げた。

「ギィイイイアアアアアアアアアッッッ!!」

「くっ、やったわよ!ソウ!」

「あぁ、上出来だ!」

 ソウは走るスピードを緩めることはなかった。一直線にグリフォンを目指してひた走る。

「くっ、ぶつかるっ!」

 そう思ったときにはすでに、ソウは手に光る剣を持っていた。

 すれ違い様にグリフォンの首を横薙ぎにし、そのまま後方へと通り抜けていく。

 一瞬の出来事だった。

 私が振り返って後ろを見ると、グリフォンの首がズルリと横にずれるように落ちていく。

 ズウウゥゥン。という音と供にグリフォンは倒れ、ソウは何事もなかったかのように走っていく。

「あっ、この湧き上がる力は……!」

「お? おめでとう! レベルアップだね!」

「うん、ってかすごい、一気に300まで上がってるなんて! 信じられないっ!」

「そりゃよかった。二人で倒したから経験値も半分入ったってところかな」

「えぇ、あの敵を二人で倒すなんて常識外れもいいところだけど、そのおかげでレベルもこんなに上がるなんて……」

「おっし、ちょうどいい。ほら、グリフォンの群れがいるみたいだ。全部倒していこう」

「え? ぜ、全部? う……うそでしょ?」

「あぁ、ミーナはどんどん魔法当てていってね。俺はすれ違う奴を倒していくからさ」

「……。う、うん」

 ソウってば常識外れだとは思っていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。

 グリフォンはパーティーでの討伐ランクBに当たる強敵なのだ。

 その群れに突っ込んでいくなんて、自殺行為に等しい。

 でもソウといるとなぜだか安心できた。

 私は私の出来ることをするだけ。

 目の前に現れる敵に魔法を当てれば、後はソウがどうにかしてくれる。

 私は驚くことなく、グリフォンに確実に魔法を当てていく。

 一匹目、二匹目、……、八匹目、九匹目。

「よし、その調子だ。いいぞっ、魔法の威力も相当上がってるんじゃないか?」

 その通りだった。最初はダメージが通っているのか怪しかったけれど、今はグリフォンの頭部に確実にダメージが通っている。目に当たれば目は潰れ、毛は黒焦げになり、また、血を流している。

 今はレベルを悠長に確認している暇がないのが残念だ。

 きっと私はすごく強くなってる気がする。

 それもソウのおかげ。彼のことを考えると胸が苦しくなる。

 なんだろう? この気持ち。百年以上生きてきた私に初めて湧き上がってくるこの気持ちは……。

「ふぅ、片づいたな。お疲れさん」

 ソウは止まることなく走り続けている。

「少しは休まないの?」

「あぁ、言ったろ? エルフの国でパーティーが近いんだ。間に合わせなきゃな!」

「その私の国でパーティーって一体なんなの?」

「それはついてからのお楽しみってやつさ!」

 エルフは派手に騒ぐなんてことは滅多にない。森と暮らし、ひっそりと生きるのを好しとする者が多いのだ。

 うーん、怪しい。

 だけどニコニコするソウを見ると、不思議と私も気持ちが楽になる。

 きっと、彼とならどんな困難だって簡単に乗り越えられそうだから。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。

karashima_s
ファンタジー
 地球にダンジョンが出来て10年。 その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。  ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。 ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。  当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。  運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。  新田 蓮(あらた れん)もその一人である。  高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。 そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。 ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。 必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。 落ちた。 落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。 落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。 「XXXサバイバルセットが使用されました…。」 そして落ちた所が…。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

処理中です...