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夢の国サプライズ

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こうして成り行きで僕は5人の男達と、日替わりでお試しデートをすることになった。
これまでもそうだけど、何で僕はこうも押しに弱くて流されてばかりいるのだろう?
と、いうことで、今朝は早くから舞浜駅前で待ち合わせ。
堀田とちゃんと別れていないのに、他の男とデートするというのは何となく気がひけるが、堀田もすでに他の男とデートしているのだから、おあいこだと自分に言い訳して言い聞かせた。
「まだかなぁ」
と、突然僕は後ろから視界を遮断された。
「菅野君でしょ?」
「なんだよ、まだ何も言ってないじゃないか」
「もうこれで4回目ならいい加減わかるわ!」
全く、こいつはいつまでも進歩の無い奴だ。
「今日はありがとね、夢の国に付き合ってもらって」
「いや、別にかまわないけどこの程度のこと。本当に夢の国、初めてなの?」
「もちろん。だって同窓会の時に約束したじゃないか、森田君が案内してくれるって。だから今日は、楽しみで楽しみで、昨夜は一睡も出来なかったよ」
そりゃ、案内するとは言ったけどさ、あくまでもあの時は社交辞令というか、本気で菅野が福岡から出てくるとは思わなかったから。
「でも、僕も案内できるほど詳しくはないよ。だから、あまり期待しないでよね」
「あっ!7人の小人じゃん!全然小人って大きさじゃないな!」
そりゃそうだ、中に大人が入っているんだから。
「それじゃあ、どうやってまわろうか?何から行く?」
「それじゃあ、まずは悪魔城に行こうぜ!」
シンデレラ城ね。
僕はノリノリで普段からテンションの高い菅野と、まずはシンデレラ城へ向かった。菅野のテンションは、城に入ってから更にボルテージを上げていく。
城の中での菅野と言えば、進行役のキャストがドン引きするくらいのハイテンションで、他のゲストも巻き込んでの菅野劇場となってしまった。
あ~、顔から火が出るほど恥ずかしいとはこのことだ。ごめんなさい、キャストのお兄さん、こんなのを連れてきてしまって。
それにしても、菅野のプランは完璧だった。どのアトラクションに乗るのか、まさに分単位で計画されており、案内するはずの僕が逆に案内されてしまっていた。本当に菅野は夢の国初体験なのか?と疑ってしまうくらいだった。
「あ~、楽しいな~。さすが夢の国、期待値以上の楽しさだよ!」
僕には菅野の楽しみ方の方が、想定以上の反応だったよ。でも、夢の国でここまでテンションMAXで楽しんでくれるなら、一緒に来て本当に良かったかも。
「さ~て、残るはパレードを残すだけだなぁ。森田君、ちょっと場所取りしといて。俺、ちょっと用事があるから」
?何だろ、用事って?まぁ、いいや。
それにしても、もう3月とはいえ、早春の場所取りは寒さが堪える。日もとっぷり暮れてきたし、帰ったら早く温かいお風呂に入って寝よう。
そんなことを考えながら待っていると、菅野がちょうど戻ってきた。何やら荷物を抱えている。
「何それ?」
「へへぇ・・・ひ・み・つ♡」
ははぁん、さてはサプライズだな。果たしてこの僕を驚かせることができるかなぁ?
「あっ!パレード始まったぞ!」
菅野はまるで子供のように光のパレードを見て顔を輝かせていた。
世の中に、こんなに楽しそうな表情をしてパレードを楽しんでいる20歳がいるだろうか?
自然と僕も菅野に釣られて楽しくなってしまう。
そしてクライマックス、夢の国の空に花火が打ち上がり辺りを様々な色が鮮やかに染める。
「森田君」
花火とパレードに見惚れていた僕は、菅野に名前を呼ばれて僕は振り向く。すると、菅野は僕の方に膝まづき、僕に何かを差し出している。
それは、花火の輝きを受けて輝くローズドームだった。
「これって・・・」
これは僕でも知っている。美女と野獣の世界をモチーフにしたガラスの薔薇だ。
「森田君、返事はすぐにとは言わないから、これを受け取ってほしい。いや、心が決まるまで森田君に預かっていてほしい」
いつもヘラヘラしている菅野が、超絶シリアスな顔をして真剣に僕に語りかけている。
でっかいガラスのローズドームより、菅野のその真剣な眼差しが僕を何よりも驚かせた。悔しいけど、菅野のサプライズは大成功だ。
「・・・わかったよ。とりあえず、預からせてもらうよ」
周りの人たちの目がちょっと気にはなったけど、たぶん、他の人たちはパレードに釘付けで僕たちのことなど眼中に無いだろう。
僕は、菅野の真剣な想いを預かった。






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