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急転
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加納が射殺された翌日の朝。
捜査会議は沈痛な雰囲気に包まれていた。
加納を射殺した巡査は防犯カメラの解析から、公園の中に入った所までは確認できた。しかし、そのあとの姿はプッツリと途絶えてしまった。どうやら、入念に下調べをしていたのか、防犯カメラの死角を縫って公園から出たのだろう、と推察された。
その場に居た捜査関係者全員が、加納の仇討ちのため、弔い合戦だ!と意気込み、捜査会議は最初の沈痛な空気とは一変して、勇ましい刑事たちの号令で幕を閉じた。
捜査会議のあと、河辺は月島と合流してこれからの方針について話し合った。
「それじゃあ、北島さんのことについては何も足取りが掴めていないということなのね?」
「あぁ、入念に下調べをしたんだろう。公園から出たあとの足取りはさっぱりだ。月島さんの方は?」
「あれから北島さんのことは見てないわ。もう、逃げてしまったみたい。」
「くそ!あと一歩のところまで迫っていたのに!」
河辺は苛立ちを隠せない。
「加納さんは、何も残していなかったの?」
「今、鑑識がいろいろ調べている。加納さんの所持品とか、家の捜索で何か出てくればいいんだけど。」
河辺の言葉では、それらも期待は出来なさそうで、月島も落胆を隠せなかった。
「そこで一つ考えたんだ。月島さんにやって欲しいお願いがあるんだ。」
「・・・私にできること?何でも言って。」
「それはね・・・」
河辺は周りに気をつけながら月島に耳打ちをする。
それに対して月島は目を見開いて驚きの表情を隠せないでいた。
私は、あの老刑事を始末したことに満足して、久しぶりに我が家に帰ることにした。
「ただいま。」
私が玄関で靴を脱いでいると、奥から美咲が出てきて「おかえりなさい、あなた。」と言ってきた。
よく考えたら、美咲は探偵を雇って私の身辺調査をしていたのだったな。どこまで知っているのかわからないが、今はそっと様子を見守ろう。
「美華は?」
「今日は塾に行ってるわ。」
「塾?ダメじゃないか、今日は水曜日なんだから。」
我ながらなんて白々しいことを言っているのか、私は心の中で自分自身に対して失笑した。
「そうね・・・」
美咲は感情をどこに置いてきてしまったかのように、素気なく応えた。
やはり彼女は何かを知っているようだ。それがどこまでなのかはわからないが、彼女もどうにかしなければならなさそうだ。
私はリビングのソファに腰をかけ、何気なくテレビをつける。
テレビでは、相変わらずくだらない下世話な情報番組が垂れ流されている。
やれ誰が付き合っているだの離婚しただの、美味しいものの特集だとか、どこまでもこの国の国民はめでたいものである。
しかし、コマーシャルが明けた時、私は凍りつくことになる。
速報と銘打って、司会者がとんでもないニュースを読み始めた。
「速報です!一部報道によりますと、水曜日の切り裂きジャックを名乗る犯行声明が届いたということです!」
何だと!?そんなもの、私は出してないぞ?
「犯行声明を読み上げます。」
水曜日の切り裂きジャックへ
私が誰かわかるか?
9人目を殺った真の切り裂きジャックだ。
お前の時代は終わった。
これからは私がお前に代わって
真の粛清を行う。
まずは、お前の大切なモノを粛清する。
これがお前が犯した罪への償いになる。
テレビの画面の中では、喧々囂々の大騒ぎになっている。大騒ぎしたいのは、こっちの方だよ!
誰だ?こんなことをするのは?いや、こんなことができるのは?
加納は始末した。奴では無い。では、月島か?いや、あの女がこんな気略を持ち合わせているとは考えられない。ならば誰だ?
その時、突然電話が鳴った。
「はい、藤井でございます・・・え?何ですって!?」
美咲が受話器を握りしめたまま、その場に崩れ落ちた。
「どうした?何があったんだ!?」
私が美咲の肩に手を置いて問いただすと、美咲はポツリと呟いた。
「美華が・・・」
美咲はそう答えるのが精一杯らしかった。
私は、美咲から受話器を奪い取り、電話の向こう側の声に耳を澄ませた。
「おまえの娘を預かった。取り返したければ、全ての始まりの場所に一人で来い。我こそがシンの切り裂きジャックだ。」
それだけ言うと、電話は切れた。ボイスチェンジャーで声は加工されていて、誰の声かは判別出来なかった。
「あなた・・・警察に・・・」
美咲はすっかり狼狽してしまって、微かに震えた声で懇願した。
「それはダメだ!そんなことをしたら美華が危ない。私が1人で行く。必ず美華を取り戻してくるから、気をたしかに持って待っていてくれ、いいね。」
私は美咲に言い聞かせると、急いで全てが始まった場所へと向かった。
捜査会議は沈痛な雰囲気に包まれていた。
加納を射殺した巡査は防犯カメラの解析から、公園の中に入った所までは確認できた。しかし、そのあとの姿はプッツリと途絶えてしまった。どうやら、入念に下調べをしていたのか、防犯カメラの死角を縫って公園から出たのだろう、と推察された。
その場に居た捜査関係者全員が、加納の仇討ちのため、弔い合戦だ!と意気込み、捜査会議は最初の沈痛な空気とは一変して、勇ましい刑事たちの号令で幕を閉じた。
捜査会議のあと、河辺は月島と合流してこれからの方針について話し合った。
「それじゃあ、北島さんのことについては何も足取りが掴めていないということなのね?」
「あぁ、入念に下調べをしたんだろう。公園から出たあとの足取りはさっぱりだ。月島さんの方は?」
「あれから北島さんのことは見てないわ。もう、逃げてしまったみたい。」
「くそ!あと一歩のところまで迫っていたのに!」
河辺は苛立ちを隠せない。
「加納さんは、何も残していなかったの?」
「今、鑑識がいろいろ調べている。加納さんの所持品とか、家の捜索で何か出てくればいいんだけど。」
河辺の言葉では、それらも期待は出来なさそうで、月島も落胆を隠せなかった。
「そこで一つ考えたんだ。月島さんにやって欲しいお願いがあるんだ。」
「・・・私にできること?何でも言って。」
「それはね・・・」
河辺は周りに気をつけながら月島に耳打ちをする。
それに対して月島は目を見開いて驚きの表情を隠せないでいた。
私は、あの老刑事を始末したことに満足して、久しぶりに我が家に帰ることにした。
「ただいま。」
私が玄関で靴を脱いでいると、奥から美咲が出てきて「おかえりなさい、あなた。」と言ってきた。
よく考えたら、美咲は探偵を雇って私の身辺調査をしていたのだったな。どこまで知っているのかわからないが、今はそっと様子を見守ろう。
「美華は?」
「今日は塾に行ってるわ。」
「塾?ダメじゃないか、今日は水曜日なんだから。」
我ながらなんて白々しいことを言っているのか、私は心の中で自分自身に対して失笑した。
「そうね・・・」
美咲は感情をどこに置いてきてしまったかのように、素気なく応えた。
やはり彼女は何かを知っているようだ。それがどこまでなのかはわからないが、彼女もどうにかしなければならなさそうだ。
私はリビングのソファに腰をかけ、何気なくテレビをつける。
テレビでは、相変わらずくだらない下世話な情報番組が垂れ流されている。
やれ誰が付き合っているだの離婚しただの、美味しいものの特集だとか、どこまでもこの国の国民はめでたいものである。
しかし、コマーシャルが明けた時、私は凍りつくことになる。
速報と銘打って、司会者がとんでもないニュースを読み始めた。
「速報です!一部報道によりますと、水曜日の切り裂きジャックを名乗る犯行声明が届いたということです!」
何だと!?そんなもの、私は出してないぞ?
「犯行声明を読み上げます。」
水曜日の切り裂きジャックへ
私が誰かわかるか?
9人目を殺った真の切り裂きジャックだ。
お前の時代は終わった。
これからは私がお前に代わって
真の粛清を行う。
まずは、お前の大切なモノを粛清する。
これがお前が犯した罪への償いになる。
テレビの画面の中では、喧々囂々の大騒ぎになっている。大騒ぎしたいのは、こっちの方だよ!
誰だ?こんなことをするのは?いや、こんなことができるのは?
加納は始末した。奴では無い。では、月島か?いや、あの女がこんな気略を持ち合わせているとは考えられない。ならば誰だ?
その時、突然電話が鳴った。
「はい、藤井でございます・・・え?何ですって!?」
美咲が受話器を握りしめたまま、その場に崩れ落ちた。
「どうした?何があったんだ!?」
私が美咲の肩に手を置いて問いただすと、美咲はポツリと呟いた。
「美華が・・・」
美咲はそう答えるのが精一杯らしかった。
私は、美咲から受話器を奪い取り、電話の向こう側の声に耳を澄ませた。
「おまえの娘を預かった。取り返したければ、全ての始まりの場所に一人で来い。我こそがシンの切り裂きジャックだ。」
それだけ言うと、電話は切れた。ボイスチェンジャーで声は加工されていて、誰の声かは判別出来なかった。
「あなた・・・警察に・・・」
美咲はすっかり狼狽してしまって、微かに震えた声で懇願した。
「それはダメだ!そんなことをしたら美華が危ない。私が1人で行く。必ず美華を取り戻してくるから、気をたしかに持って待っていてくれ、いいね。」
私は美咲に言い聞かせると、急いで全てが始まった場所へと向かった。
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