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こうもり
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藤井亮一から、加納の身辺調査をするように指示を受けてから3日目。
大河原の調べで、加納についてある程度の情報がわかってきた。
どこに住んでいるのか。
家族は無く、独り身であること。
そして、最も興味深いのは、その捜査方法だった。
加納の検挙率は周囲の者に比べて非常に高く、かなり優秀な成績だということ。
しかし、周囲の評判は、目的のためには手段を選ばないという手法が強い反発を招いており、決して良くは無かった。
中には、加納は検挙のためには殺人も厭わない、と冗談めかして笑って話す同僚もいたりした。
実際には、暴力だったり、脅迫、金を使った捜査などが多く、その手段と数は枚挙に暇が無かった。
もし、それらが真実なら、証拠を押さえれば加納が藤井亮一の周りを嗅ぎ回ることを辞めさせることも可能かもしれない。
そう、それが藤井亮一から俺に与えられたミッションなのだ。
最近、加納は単独行動をすることが多い。
普段は部下を連れてまわっているのに、1人であれこれと嗅ぎ回っているのだろうか。
早く加納の弱みを見つけて、藤井亮一に辿り着くことを阻止しなければ。
この3日間、加納を監視していたが、ただ闇雲に歩いているだけのようだった。
誰かに聴き込みをしている素振りも無いし、誰かと接触した様子も無い。
いったい、加納は何をしているのだろう。
と、大河原が加納のあとを追って人気の無いガード下の角を曲がった時、角で隠れていた加納と鉢合わせしてしまう。
「楽しいか?」
加納はそう言うと、あっという間に大河原の体は宙を舞って地面に叩きつけられた。
「言え!お前は何者だ!?誰の指示で俺を尾行していた!?答え次第ではお前の腕をへし折るぞ!!」
加納の剣幕に、大河原はすっかり萎縮してしまい降伏した。
「北島・・・ってフリーのライターです。」
大河原は、何とか藤井亮一の本名を出さないことで、ささやかな抵抗を試みた。
「そんなことは分かっているんだよ。俺が知りたいのは、奴の本名と素性だ。早く言わないと、お前の右腕が再起不能になるぞ。」
加納は尚も大河原の腕を締め上げる。
「わ、分かりました、言うから離してください!」
大河原は遂に観念した。大河原は、自分が探偵であることと、藤井亮一の指示で加納を監視し弱みを握ろうとしていたことを白状した。
「そうか、お前は藤井亮一が殺人を犯している現場に遭遇して脅したが、逆に利用される立場になってしまったんだな。」
大河原は頷いた。
「それで、その決定的な証拠はどこにある?」
「それは・・・金と引き換えに処分してしまいました。」
「まだそんな嘘を吐く余裕があるのか?」
加納の腕に込められた力が再び強くなる。
「いててて、本当です、信じて下さい!」
大河原の口から、これまでに無い苦痛に歪む、悲鳴に近い声があがる。
「まぁいい。いいか、その藤井亮一という奴に伝えておけ。必ず、どんな手段を使ってでも証拠を掴んでお前を挙げてやるとな!」
加納から解放された大河原は、一目散にその場をあとにした。
「で、私のことをペラペラと白状したということか?」
町外れの廃ビルの屋上で、藤井亮一は大河原を鋭い視線で睨みつけて言った。
「まぁ、唯一の救いは私に結びつく決定的な証拠を提供しなかったことだ。それで、例の証拠は本当に処分してあるんだろうな?」
「えぇ・・・それは本当です。」
大河原は、震えを抑えられずにそれだけ答えるのが精一杯だった。
これから一体どうなるのだろう?それを考えるだけでも大河原は怖かった。
くそ・・・こんなことになると最初から分かっていたら、こんな仕事、受けるんじゃなかった。
「そうか、それを聞いて安心した。それじゃあ、そろそろ最も厄介な証拠を処分するか・・・さぁ、そこから飛び降りろ。」
藤井は顎で大河原に屋上から飛び降りるように促す。
「そんな、俺を殺せば・・・加納の奴が黙ってはいないですよ!どうか、助けてください、もう二度とあなたの前に現れませんから!」
大河原は膝まづいて懇願する。
「大丈夫だ。私も加納にとってもお前は用済みだ。2度も同じ事を言わせるな!早く堕ちろ!!」
藤井はナイフをちらつかせて大河原を脅す。
どちらにしろ、ここで死ぬことを悟った大河原は、屋上の縁に立った。大河原の目からは止めどなく涙が溢れ、鼻水が止まらなかった。
あぁ、人間って、こんなに涙が出るものなんだな。どうして涙と一緒に鼻水が出るのだろう?涙だけなら綺麗なのに。
大河原は最後にそんな事を思いながら、空中に足を踏み出した。
大河原の調べで、加納についてある程度の情報がわかってきた。
どこに住んでいるのか。
家族は無く、独り身であること。
そして、最も興味深いのは、その捜査方法だった。
加納の検挙率は周囲の者に比べて非常に高く、かなり優秀な成績だということ。
しかし、周囲の評判は、目的のためには手段を選ばないという手法が強い反発を招いており、決して良くは無かった。
中には、加納は検挙のためには殺人も厭わない、と冗談めかして笑って話す同僚もいたりした。
実際には、暴力だったり、脅迫、金を使った捜査などが多く、その手段と数は枚挙に暇が無かった。
もし、それらが真実なら、証拠を押さえれば加納が藤井亮一の周りを嗅ぎ回ることを辞めさせることも可能かもしれない。
そう、それが藤井亮一から俺に与えられたミッションなのだ。
最近、加納は単独行動をすることが多い。
普段は部下を連れてまわっているのに、1人であれこれと嗅ぎ回っているのだろうか。
早く加納の弱みを見つけて、藤井亮一に辿り着くことを阻止しなければ。
この3日間、加納を監視していたが、ただ闇雲に歩いているだけのようだった。
誰かに聴き込みをしている素振りも無いし、誰かと接触した様子も無い。
いったい、加納は何をしているのだろう。
と、大河原が加納のあとを追って人気の無いガード下の角を曲がった時、角で隠れていた加納と鉢合わせしてしまう。
「楽しいか?」
加納はそう言うと、あっという間に大河原の体は宙を舞って地面に叩きつけられた。
「言え!お前は何者だ!?誰の指示で俺を尾行していた!?答え次第ではお前の腕をへし折るぞ!!」
加納の剣幕に、大河原はすっかり萎縮してしまい降伏した。
「北島・・・ってフリーのライターです。」
大河原は、何とか藤井亮一の本名を出さないことで、ささやかな抵抗を試みた。
「そんなことは分かっているんだよ。俺が知りたいのは、奴の本名と素性だ。早く言わないと、お前の右腕が再起不能になるぞ。」
加納は尚も大河原の腕を締め上げる。
「わ、分かりました、言うから離してください!」
大河原は遂に観念した。大河原は、自分が探偵であることと、藤井亮一の指示で加納を監視し弱みを握ろうとしていたことを白状した。
「そうか、お前は藤井亮一が殺人を犯している現場に遭遇して脅したが、逆に利用される立場になってしまったんだな。」
大河原は頷いた。
「それで、その決定的な証拠はどこにある?」
「それは・・・金と引き換えに処分してしまいました。」
「まだそんな嘘を吐く余裕があるのか?」
加納の腕に込められた力が再び強くなる。
「いててて、本当です、信じて下さい!」
大河原の口から、これまでに無い苦痛に歪む、悲鳴に近い声があがる。
「まぁいい。いいか、その藤井亮一という奴に伝えておけ。必ず、どんな手段を使ってでも証拠を掴んでお前を挙げてやるとな!」
加納から解放された大河原は、一目散にその場をあとにした。
「で、私のことをペラペラと白状したということか?」
町外れの廃ビルの屋上で、藤井亮一は大河原を鋭い視線で睨みつけて言った。
「まぁ、唯一の救いは私に結びつく決定的な証拠を提供しなかったことだ。それで、例の証拠は本当に処分してあるんだろうな?」
「えぇ・・・それは本当です。」
大河原は、震えを抑えられずにそれだけ答えるのが精一杯だった。
これから一体どうなるのだろう?それを考えるだけでも大河原は怖かった。
くそ・・・こんなことになると最初から分かっていたら、こんな仕事、受けるんじゃなかった。
「そうか、それを聞いて安心した。それじゃあ、そろそろ最も厄介な証拠を処分するか・・・さぁ、そこから飛び降りろ。」
藤井は顎で大河原に屋上から飛び降りるように促す。
「そんな、俺を殺せば・・・加納の奴が黙ってはいないですよ!どうか、助けてください、もう二度とあなたの前に現れませんから!」
大河原は膝まづいて懇願する。
「大丈夫だ。私も加納にとってもお前は用済みだ。2度も同じ事を言わせるな!早く堕ちろ!!」
藤井はナイフをちらつかせて大河原を脅す。
どちらにしろ、ここで死ぬことを悟った大河原は、屋上の縁に立った。大河原の目からは止めどなく涙が溢れ、鼻水が止まらなかった。
あぁ、人間って、こんなに涙が出るものなんだな。どうして涙と一緒に鼻水が出るのだろう?涙だけなら綺麗なのに。
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