it's a beautiful world.

あらんすみし

文字の大きさ
上 下
14 / 20

こうもり

しおりを挟む
藤井亮一から、加納の身辺調査をするように指示を受けてから3日目。
大河原の調べで、加納についてある程度の情報がわかってきた。
どこに住んでいるのか。
家族は無く、独り身であること。
そして、最も興味深いのは、その捜査方法だった。
加納の検挙率は周囲の者に比べて非常に高く、かなり優秀な成績だということ。
しかし、周囲の評判は、目的のためには手段を選ばないという手法が強い反発を招いており、決して良くは無かった。
中には、加納は検挙のためには殺人も厭わない、と冗談めかして笑って話す同僚もいたりした。
実際には、暴力だったり、脅迫、金を使った捜査などが多く、その手段と数は枚挙に暇が無かった。
もし、それらが真実なら、証拠を押さえれば加納が藤井亮一の周りを嗅ぎ回ることを辞めさせることも可能かもしれない。
そう、それが藤井亮一から俺に与えられたミッションなのだ。
最近、加納は単独行動をすることが多い。
普段は部下を連れてまわっているのに、1人であれこれと嗅ぎ回っているのだろうか。
早く加納の弱みを見つけて、藤井亮一に辿り着くことを阻止しなければ。
この3日間、加納を監視していたが、ただ闇雲に歩いているだけのようだった。
誰かに聴き込みをしている素振りも無いし、誰かと接触した様子も無い。 
いったい、加納は何をしているのだろう。
と、大河原が加納のあとを追って人気の無いガード下の角を曲がった時、角で隠れていた加納と鉢合わせしてしまう。
「楽しいか?」
加納はそう言うと、あっという間に大河原の体は宙を舞って地面に叩きつけられた。
「言え!お前は何者だ!?誰の指示で俺を尾行していた!?答え次第ではお前の腕をへし折るぞ!!」
加納の剣幕に、大河原はすっかり萎縮してしまい降伏した。
「北島・・・ってフリーのライターです。」
大河原は、何とか藤井亮一の本名を出さないことで、ささやかな抵抗を試みた。
「そんなことは分かっているんだよ。俺が知りたいのは、奴の本名と素性だ。早く言わないと、お前の右腕が再起不能になるぞ。」
加納は尚も大河原の腕を締め上げる。
「わ、分かりました、言うから離してください!」
大河原は遂に観念した。大河原は、自分が探偵であることと、藤井亮一の指示で加納を監視し弱みを握ろうとしていたことを白状した。
「そうか、お前は藤井亮一が殺人を犯している現場に遭遇して脅したが、逆に利用される立場になってしまったんだな。」
大河原は頷いた。
「それで、その決定的な証拠はどこにある?」
「それは・・・金と引き換えに処分してしまいました。」
「まだそんな嘘を吐く余裕があるのか?」
加納の腕に込められた力が再び強くなる。
「いててて、本当です、信じて下さい!」
大河原の口から、これまでに無い苦痛に歪む、悲鳴に近い声があがる。
「まぁいい。いいか、その藤井亮一という奴に伝えておけ。必ず、どんな手段を使ってでも証拠を掴んでお前を挙げてやるとな!」
加納から解放された大河原は、一目散にその場をあとにした。

「で、私のことをペラペラと白状したということか?」
町外れの廃ビルの屋上で、藤井亮一は大河原を鋭い視線で睨みつけて言った。
「まぁ、唯一の救いは私に結びつく決定的な証拠を提供しなかったことだ。それで、例の証拠は本当に処分してあるんだろうな?」
「えぇ・・・それは本当です。」
大河原は、震えを抑えられずにそれだけ答えるのが精一杯だった。
これから一体どうなるのだろう?それを考えるだけでも大河原は怖かった。
くそ・・・こんなことになると最初から分かっていたら、こんな仕事、受けるんじゃなかった。
「そうか、それを聞いて安心した。それじゃあ、そろそろ最も厄介な証拠を処分するか・・・さぁ、そこから飛び降りろ。」
藤井は顎で大河原に屋上から飛び降りるように促す。
「そんな、俺を殺せば・・・加納の奴が黙ってはいないですよ!どうか、助けてください、もう二度とあなたの前に現れませんから!」
大河原は膝まづいて懇願する。
「大丈夫だ。私も加納にとってもお前は用済みだ。2度も同じ事を言わせるな!早く堕ちろ!!」
藤井はナイフをちらつかせて大河原を脅す。
どちらにしろ、ここで死ぬことを悟った大河原は、屋上の縁に立った。大河原の目からは止めどなく涙が溢れ、鼻水が止まらなかった。
あぁ、人間って、こんなに涙が出るものなんだな。どうして涙と一緒に鼻水が出るのだろう?涙だけなら綺麗なのに。
大河原は最後にそんな事を思いながら、空中に足を踏み出した。














しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隅の麗人 Case.1 怠惰な死体

久浄 要
ミステリー
東京は丸の内。 オフィスビルの地階にひっそりと佇む、暖色系の仄かな灯りが点る静かなショットバー『Huster』(ハスター)。 事件記者の東城達也と刑事の西園寺和也は、そこで車椅子を傍らに、いつも同じ席にいる美しくも怪しげな女に出会う。 東京駅の丸の内南口のコインロッカーに遺棄された黒いキャリーバッグ。そこに入っていたのは世にも奇妙な謎の死体。 死体に呼応するかのように東京、神奈川、埼玉、千葉の民家からは男女二人の異様なバラバラ死体が次々と発見されていく。 2014年1月。 とある新興宗教団体にまつわる、一都三県に跨がった恐るべき事件の顛末を描く『怠惰な死体』。 難解にしてマニアック。名状しがたい悪夢のような複雑怪奇な事件の謎に、個性豊かな三人の男女が挑む『隅の麗人』シリーズ第1段! カバーイラスト 歩いちご ※『隅の麗人』をエピソード毎に分割した作品です。

友よ、お前は何故死んだのか?

河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」 幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。 だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。 それは洋壱の死の報せであった。 朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。 悲しみの最中、朝倉から提案をされる。 ──それは、捜査協力の要請。 ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。 ──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

ゾンビ探偵

勇出あつ
ミステリー
パンデミック後人類はほろびかけ、バグと呼ばれるゾンビたちによって世界は荒れ果てた。 そんななか難攻不落の集落であるはずの津井原で怪奇事件が立て続けに起きる。 バグのしわざか人間のしわざか、あるいはだれかがウィルスを持ち込んだのか。 逮捕された容疑者たちは自分の命をかけて犯人さがしの議論をすることになる。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

クオリアの呪い

鷲野ユキ
ミステリー
「この世で最も強い呪い?そんなの、お前が一番良く知ってるじゃないか」

この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
 幾度繰り返そうとも、匣庭は――。 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。 舞台は繰り返す。 三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。 変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。 科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。 人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。 信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。 鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。 手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

悪い冗談

鷲野ユキ
ミステリー
「いい加減目を覚ませ。お前だってわかってるんだろう?」

処理中です...