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世界の果て

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彼と別れてから、いろんな男と付き合いました。
裏切られたり、嘘つかれたり、二股されたり、いろいろありました。
この人いいなぁ、程度の恋なら何回もありました。
でも、それでも彼のことは1日として思い出さない日はありませんでした。
以前、Twitterで、「運命の人は2人いる 1人目は別れの辛さを教えてくれる 2人目は永遠の愛を教えてくれる」というツイートを見ました。
彼が1人目なら、いつか2人目が現れてくれる。
そんなことを夢見ながら、年月は流れていきます。
いつしか年月は流れて、彼と別れてから17年が経過しました。
2人目は、なかなか現れてくれません。
いつしか、自分はこう思うようになりました。
あゝ、もうあんなに幸せなことは無いんだろうな。もう、あんなに誰かを愛することなんてないんだろうな、と。
たった2ヶ月の恋愛を、どうして17年も引き摺るのか。

そんなある日、ふと、ある考えが思い浮かびます。
このまま、袋田の滝を見ずに死ぬのだろうか?
2人目が現れたら一緒に行こうと思っていたけど、その可能性は年とともに低くなっていく。
ならば行ける時に行こうではないか。
紅葉が見頃の11月半ばに行く計画を立てました。
上野から常磐線の特急に乗って水戸へ向かいました。
水戸からは、水戸と郡山を結ぶ水郡線に乗り換えます。
途中、台風で橋が落ちてしまっていたため、バスに乗り換えて袋田まで行きます。
そこから今度は袋田の滝行きのバスに乗り換えです。
周囲の山々は、すっかり色付いています。紅葉がとても綺麗です。
バスが山道をゆっくりと登って行きます。
ゆっくりと、でも確実に、自分は袋田の滝へと向かっている。
はたして、袋田の滝を見た時、自分は何を思うのだろう?期待半分、不安半分でした。
バスが終点に着きました。そこからあと少し歩けば、もう滝は目の前です。袋田の滝の辺りは、麓よりもさらに紅葉が鮮やかになっていました。
たくさんの観光客の間を縫うように歩いて滝へと急ぎます。
渓流の岸沿いの、土産物店が立ち並ぶ一角を抜けると、展望台へのエレベーター乗り場がありました。
エレベーターの扉が開くと、滝の流れる音が聞こえてきました。
滝の音に導かれるようにして自分は歩きました。
初めて見る紅葉の袋田の滝は、雨のせいもあって水も多くて、想像以上に大きかった。
あゝ、遂に辿り着いたのだな。17年もかかったけど、遂に辿り着いたのだな。
感慨深い気持ちが込み上げてきます。
滝の周りは一面の紅葉の宝箱のようで、紅葉と滝のコントラストは自然の織りなす芸術でした。
でも、初めて見た紅葉の袋田の滝の感想は、それほどでもなかった、でした。
もっと、ずっと釘付けになって眺めていられるとか、泣くほど美しいのかと思っていたけど、期待しすぎたのかな。
なぜだろう。










そうか、隣に彼が足りないんだ。大きなパズルの、最後のいちばん大切なワンピースが足りないんだ。
もし、隣に彼がいたら、目の前の景色はまた違って見えたのかな。
もし、彼がいたら・・・春と夏と冬の袋田の滝も見せてくれたのかな。見てみたかったな、彼のエスコートで。
そんなことを考えながら、自分は滝をあとにしました。

翌日、自分は大子町散策をしました。
街中を散策してみたり、朝ドラ「花子とアン」のロケ地にもなった旧上岡小学校に足を運んだりしました。
奥久慈には、七福神を祀った寺院があって、札所巡りをすることができるのですが、せっかく来たのだから御朱印でもいただくことにしようと思いました。
いくつかまわって、毘沙門天が祀られている性徳寺に到着しました。
そこの御朱印を見て、自分は再び彼との縁を感じることになります。
ここの御朱印には、彼の名前の漢字が含まれていたからです。
彼の名前はここの観音様に由来があるのかな?と思いました。
彼は、本当にこの近くの出身だったのかもしれないな。
彼の存在が、また近くに感じられました。
2019年11月16日のことでした。
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