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並木道 帰り道

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付き合うことになった自分達は、一緒に店を出た。
自分は、誰かに自慢したくて、以前、何度か行ったことのあるゲイバーに彼を連れて行った。
軽くお酒を飲みながら、お互いの事を話した。
彼が今日は、久しぶりに残業が無くて、たまたま来たこととか、仕事が休日出勤したり仕事を持ち帰るほど忙しいとかを話してくれた。
でも、自分がいちばん嬉しかったのは、彼が名前を教えてくれたことだった。
彼の下の名前は、某人気アイドルグループのメンバーと同じだから、Jと呼んでくれと教えてくれた。
店のママにお披露目したら、もう用事は済んだので自分達は帰路についた。
「今夜はずっと一緒にいたいな」
と、彼は言い、俺の部屋に来なよと誘ってくれた。
自分は少々躊躇ったものの、彼と同じ気持ちだったので、お持ち帰りされることにした。
電車から、彼の昔の職場が見えた時、彼は「あそこが俺の職場だった所。今はS市に移転してしまったけどね」
と、自分の勤務先や仕事のことまで教えてくれた。
自分は、まだ会ったばかりなのに、そんなパーソナルな情報まで教えて大丈夫なのかな?と思ったけど、少しずつ彼のことを知ることが嬉しかった。
加えてS市は自分の住んでいる街だったこともあって、自分は勝手に、より一層彼との縁を感じてしまった。
電車を2回乗り換えて、T駅で降りた。
「少し歩くよ」
彼は言った。
その街は、古い団地が立ち並ぶ街で、整然と整備されていた。
駅前から伸びる並木道は、緩いスロープを描いていて、空を見上げると、木々の葉の隙間から、月が優しく街並みを照らしていた。
通りには、自分達2人以外、誰もいない。
まるで、世界に2人ぼっちになったみたいだった。
駅から15分近く歩いただろうか。彼の部屋は、彼の勤務先の社宅だった。
彼の部屋は、ごく一般的な1K。部屋の広さは6畳くらいだったと記憶している。
彼の部屋で最も印象的だったのは、熱帯魚の水槽だった。
自分は、熱帯魚といえばグッピーしか知らないので、また一つ、彼について知ることが嬉しかったし、熱帯魚を飼っている彼が眩しく見えた。
彼は、2人でしたいことを話してくれた。カラオケ行こう、ボーリング行こう、友だちにも紹介するよ。
でも、いちばん嬉しかったのは、旅行に行こうという話しだった。
「どこに行きたい?」と彼に聞かれた自分は、以前テレビで観た紅葉の袋田の滝を思い出して、袋田の滝を見に行きたいと返事をした。
すると彼は「袋田の滝は自分の故郷の近くで、年に4回見頃があるから4回とも案内するよ」と、言ってくれた。
ひとしきりイチャイチャしたところで、2人してシャワーを浴びて、寝ることにした。
自分は、彼氏という存在にずっと抱きしめられて寝るということが、こんなに幸せなことなんだ、と初めて知った。
これまで、人生に絶望して死にたいと思ってばかりの人生だった。
それを彼は、たった一晩で変えてくれた。
自分は、この日、生まれて初めて、生まれてきて良かった、死なずに生きてて良かった、と心底思って眠りについた。
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