16 / 29
九十九要の証言
しおりを挟む
こんにちは、九十九です。今日は、わざわざお時間を作っていただきありがとうございます。
なんか、無理言ってしまったようで申し訳ありません。
美樹ちゃんが政臣のことで刑事さん達に事情を聞かれた、と聞いて、俺もお話しした方がいいのではと思ったので。
皆んな、政臣のことを良くは言っても、悪く言う奴はいないでしょう?
たしかに、あいつのことを悪く思う奴はそうそういないでしょう。
あいつは面倒見もいいし、誰にでも等しく接するし、本当に気持ちがいいくらいいい奴ですからね。
でも、本当にそんな完璧な奴がいると思いますか?
俺、知っているんですよ。ていうか、たぶん俺しか知らないことかもしれないですけど。
あの日、浜村って奴が死んだって夜のことなんですけど、俺、見たんですよ、政臣を五反田で。
そうです、刑事さん達が知ってのとおり、五反田は浜村っていう政臣とトラブってた奴が住んでる所ですよね?
その日は、政臣は大崎のホテルで同窓会に参加していたというじゃないですか。でも、俺はハッキリとあいつのことを五反田で見たんです!
大崎と五反田なんて、本当に目と鼻の先じゃないですか?
適当に理由つけて外出したら、人を1人殺して帰ってくるなんて、一時間もかからないと思いませんか?
どうしてこんな重要なことを今まで警察に話さなかったかって?
それは・・・美樹ちゃんが、もしかしたらあいつが殺人犯かもしれないなんて知ったら悲しむんじゃないかと思ったので。
俺は、美樹ちゃんのことが好きなんです。まぁ、美樹ちゃんの方は俺なんか眼中に無いんですけど。
だから、今までこのことは胸の奥にしまっておいていたんです。
でも、それじゃあいけないんじゃないかって段々と思い始めてきて、思い切ってお話しすることに決めたんです。
今まで黙っていてすいません。
はい、ではその日のことをできるだけ詳しくお話しします。
その日、俺は接待で五反田の西口にある「鬼殺し」という、駅から7、8分の所にある居酒屋で、取引先の担当者さん達と一緒に呑んでいました。
接待が終わったのは、たしか・・・だいたい21時くらいだったと思います。
店の前で接待先の人達をタクシーに乗せて見送って、俺は上司と一緒に駅へと向かいました。
上司は地下鉄で帰ると言うので、五反田駅で解散することになりました。
上司を駅の出入り口まで見送って、自分はJRの改札の方へと向かいました。
その時です、俺が政臣を見かけたのは。
ちょうどあいつが駅前のタクシー乗り場でタクシーに乗るところでした。
一瞬ではありますが、あれはたしかに政臣に間違いありません。俺は、視力にはけっこう自信があるんです。
だから一瞬だったとはいえ、他の誰かと親友を見間違えるなんてことがあるはずがないんですよ。
政臣を乗せたタクシーは、そのまま大崎の方向へと走り去っていきました。
その時はそのまま、たいして気にも留めなかったんですけど、あとでその政臣とトラブってた人が死んで政臣のことで警察が聞き込みに来た時に、自分の見たものの意味がわかりました。
その時に、五反田で政臣を見たことを話していれば良かったと、今にしては思うけど、美樹ちゃんのことを想うと、言い逃してしまったというか、とにかくタイミングを逸してしまったのです。
我ながらバカだなぁ、とは思いますが、悪意を持って隠していたのでは無いことだけは分かって下さい。
あの・・・この証言で、政臣の立場ってかなり不利になるものなのでしょうか?
そうですよね。
友人としては、政臣の潔白を信じて願っていますけど。
九十九要は、2人に深々とお辞儀をして店を出ていった。
「どうだ?あの九十九という男の証言、信じるに値すると思うか?」
小川は体を椅子の背もたれに預けて呟いた。
「わからない。だが、検証する必要はあるだろう。ただ、何でこのタイミングで証言をしたのか、本当にタイミングを逃しただけなのかは疑問だ」
「と、言うと?」
「九十九要の行動原理には、いつも東海林美樹の存在があるように感じる。穿った見方かもしれないが、もしかしたら東海林美樹の関心を引きたい為に、このタイミングを選んだとも取れる」
「まぁ、我々としては新しい証言を得ることになったわけだ。同窓会の参加者や、会場のスタッフ、防犯カメラの映像も確認する必要があるな。あっ、あと政臣が五反田までタクシーを使ったのなら、政臣を乗せたタクシーも探さないといけないな」
小川は天井を見上げて大きくため息をついた。
「いずれにしても、これまで完璧だと思われた政臣君のアリバイの一部に、小さな穴が開いたわけだ。我々としては、あまり好ましくない事態になったが、このまま捜査を継続することで問題無いよな?」
「あぁ、俺だって警察組織の責任者だ、身内のことだからと言って見逃すわけにはいかない。例えそれが可愛い甥っ子だとしてもだ」
なんか、無理言ってしまったようで申し訳ありません。
美樹ちゃんが政臣のことで刑事さん達に事情を聞かれた、と聞いて、俺もお話しした方がいいのではと思ったので。
皆んな、政臣のことを良くは言っても、悪く言う奴はいないでしょう?
たしかに、あいつのことを悪く思う奴はそうそういないでしょう。
あいつは面倒見もいいし、誰にでも等しく接するし、本当に気持ちがいいくらいいい奴ですからね。
でも、本当にそんな完璧な奴がいると思いますか?
俺、知っているんですよ。ていうか、たぶん俺しか知らないことかもしれないですけど。
あの日、浜村って奴が死んだって夜のことなんですけど、俺、見たんですよ、政臣を五反田で。
そうです、刑事さん達が知ってのとおり、五反田は浜村っていう政臣とトラブってた奴が住んでる所ですよね?
その日は、政臣は大崎のホテルで同窓会に参加していたというじゃないですか。でも、俺はハッキリとあいつのことを五反田で見たんです!
大崎と五反田なんて、本当に目と鼻の先じゃないですか?
適当に理由つけて外出したら、人を1人殺して帰ってくるなんて、一時間もかからないと思いませんか?
どうしてこんな重要なことを今まで警察に話さなかったかって?
それは・・・美樹ちゃんが、もしかしたらあいつが殺人犯かもしれないなんて知ったら悲しむんじゃないかと思ったので。
俺は、美樹ちゃんのことが好きなんです。まぁ、美樹ちゃんの方は俺なんか眼中に無いんですけど。
だから、今までこのことは胸の奥にしまっておいていたんです。
でも、それじゃあいけないんじゃないかって段々と思い始めてきて、思い切ってお話しすることに決めたんです。
今まで黙っていてすいません。
はい、ではその日のことをできるだけ詳しくお話しします。
その日、俺は接待で五反田の西口にある「鬼殺し」という、駅から7、8分の所にある居酒屋で、取引先の担当者さん達と一緒に呑んでいました。
接待が終わったのは、たしか・・・だいたい21時くらいだったと思います。
店の前で接待先の人達をタクシーに乗せて見送って、俺は上司と一緒に駅へと向かいました。
上司は地下鉄で帰ると言うので、五反田駅で解散することになりました。
上司を駅の出入り口まで見送って、自分はJRの改札の方へと向かいました。
その時です、俺が政臣を見かけたのは。
ちょうどあいつが駅前のタクシー乗り場でタクシーに乗るところでした。
一瞬ではありますが、あれはたしかに政臣に間違いありません。俺は、視力にはけっこう自信があるんです。
だから一瞬だったとはいえ、他の誰かと親友を見間違えるなんてことがあるはずがないんですよ。
政臣を乗せたタクシーは、そのまま大崎の方向へと走り去っていきました。
その時はそのまま、たいして気にも留めなかったんですけど、あとでその政臣とトラブってた人が死んで政臣のことで警察が聞き込みに来た時に、自分の見たものの意味がわかりました。
その時に、五反田で政臣を見たことを話していれば良かったと、今にしては思うけど、美樹ちゃんのことを想うと、言い逃してしまったというか、とにかくタイミングを逸してしまったのです。
我ながらバカだなぁ、とは思いますが、悪意を持って隠していたのでは無いことだけは分かって下さい。
あの・・・この証言で、政臣の立場ってかなり不利になるものなのでしょうか?
そうですよね。
友人としては、政臣の潔白を信じて願っていますけど。
九十九要は、2人に深々とお辞儀をして店を出ていった。
「どうだ?あの九十九という男の証言、信じるに値すると思うか?」
小川は体を椅子の背もたれに預けて呟いた。
「わからない。だが、検証する必要はあるだろう。ただ、何でこのタイミングで証言をしたのか、本当にタイミングを逃しただけなのかは疑問だ」
「と、言うと?」
「九十九要の行動原理には、いつも東海林美樹の存在があるように感じる。穿った見方かもしれないが、もしかしたら東海林美樹の関心を引きたい為に、このタイミングを選んだとも取れる」
「まぁ、我々としては新しい証言を得ることになったわけだ。同窓会の参加者や、会場のスタッフ、防犯カメラの映像も確認する必要があるな。あっ、あと政臣が五反田までタクシーを使ったのなら、政臣を乗せたタクシーも探さないといけないな」
小川は天井を見上げて大きくため息をついた。
「いずれにしても、これまで完璧だと思われた政臣君のアリバイの一部に、小さな穴が開いたわけだ。我々としては、あまり好ましくない事態になったが、このまま捜査を継続することで問題無いよな?」
「あぁ、俺だって警察組織の責任者だ、身内のことだからと言って見逃すわけにはいかない。例えそれが可愛い甥っ子だとしてもだ」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発
斑鳩陽菜
ミステリー
K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。
遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。
そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。
遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。
臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。
声の響く洋館
葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。
彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。
双極の鏡
葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。
事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
魔法使いが死んだ夜
ねこしゃけ日和
ミステリー
一時は科学に押されて存在感が低下した魔法だが、昨今の技術革新により再び脚光を浴びることになった。
そんな中、ネルコ王国の王が六人の優秀な魔法使いを招待する。彼らは国に貢献されるアイテムを所持していた。
晩餐会の前日。招かれた古城で六人の内最も有名な魔法使い、シモンが部屋の外で死体として発見される。
死んだシモンの部屋はドアも窓も鍵が閉められており、その鍵は室内にあった。
この謎を解くため、国は不老不死と呼ばれる魔法使い、シャロンが呼ばれた。
冷凍少女 ~切なくて、会いたくて~
星野 未来
ミステリー
21歳の青年『健(タケル)』は、未来に希望を見出せず、今日死のうと決めていた。この最後の配達の仕事が終わったら、全て終わりにするはずだった。
でも、その荷物をある館に住む老人に届けると、その老人が君に必要と言って家に持ち帰るように話す。理解ができなかったが、健の住むアパートで荷物を解くと、そこには、冷凍になった16歳の少女『日和(ひより)』の姿があた。
健と日和は、どこかふたりとも淋しい者同士。いつしか一緒に生活するようになり、心が打ち解けて行く。そして、ふたりの間に淡い『恋』が生まれる。
しかし、ある日、健が出張で外泊した時に、一人留守番をしていた日和に事件が起こる。その凄まじい光景に、健は天に叫んだ……。
切なく、儚いふたりの恋と、日和の秘密と謎、そして、あの老人『西園寺』という男とは…。
このミステリーの謎は、あなたの心の中に答えがある……。
君はなぜこの世界に生まれてきたの…?
僕はなぜ君に出会ってしまったんだろう…。
この冷たい世界でしか、生きられないのに…。
切なくて……、会いたくて……。
感動のラストシーンは、あなたの胸の中に……。
表紙原画イラストは、あままつさんです。
いつもありがとうございます♪(*´◡`*)
文字入れ、装飾、アニメーションは、miraii♪ です。
仏眼探偵 ~樹海ホテル~
菱沼あゆ
ミステリー
『推理できる助手、募集中。
仏眼探偵事務所』
あるとき芽生えた特殊な仏眼相により、手を握った相手が犯人かどうかわかるようになった晴比古。
だが、最近では推理は、助手、深鈴に丸投げしていた。
そんな晴比古の許に、樹海にあるホテルへの招待状が届く。
「これから起きる殺人事件を止めてみろ」という手紙とともに。
だが、死体はホテルに着く前に自分からやってくるし。
目撃者の女たちは、美貌の刑事、日下部志貴に会いたいばかりに、嘘をつきまくる。
果たして、晴比古は真実にたどり着けるのか――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる