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初めての喧嘩

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一緒に暮らし始めて半年が過ぎようとしていた。
「福山さん、どうでした?」
健康診断の結果票と睨めっこしていた俺に、川口青年が声をかけてきた。
「んー?ちょっと悪玉コレステロールの値が多くて、C判定だ。お前は?」
俺は川口青年の結果票を取り上げようとすると、彼は闘牛士が牛をかわすかのようにヒラリと結果票をひるがえした。
「ダメですよ、プライバシーの侵害ですよ」
「なんだよ、人の奴は見ておいて」
「まぁ、心配しないで下さい。大丈夫ですから」
「そうだな、お前はいつも健康そのものって感じだもんな」
俺の言葉に川口青年は小さく微笑んだ。
「そういえば、来週の水曜日だけど、お前仕事休みだろ?一緒に休み取って、どこか行かないか?」
「あー、行きたいけどその日は予定があるんですよね」
「そうか、残念だな。じゃあ俺も有給取るのやめるか」
「ところでさっき、あっきーからRINEがあったんですけど、来月あたり、また食事でもしませんか?って」
川口青年は、すっかり秋山さんに懐いてしまったようで、毎日のように電話で話している。今では俺を介せず直接連絡を取り合っている。よほど馬があったんだろうな。
「そうだな、OKだって返事しといて」 
「福山さんは、何とも思わないんですか?」
「何が?」
「俺と秋山さんが仲良いこと」
「どうして?いいことじゃないか」
俺が怪訝な態度で返事をすると、川口青年は小さく鼻で溜息を吐いて、自分の部屋へと引き揚げて行った。
何だ?どういう意味だ?

次の週の水曜日。俺が家に帰ると、川口青年はまだ戻っていなかった。
用事が長引いているのかな?俺は軽く考えていた。 
夜、10時を過ぎても川口青年は帰って来なかった。
RINEをしても一向に既読は付かず、俺は彼の身に何かあったのではないかと、少しづつ心配になってきた。
そして、いつの間にか俺は彼を待ちながらソファで寝落ちしてしまった。
どれくらい寝ていただろう。物音で俺は目が覚めた。
ふと時計を見ると、夜中の1時を回っていた。
「帰ったのか?遅かったじゃないか。連絡したんだぞ」
「すいません」
川口青年の表情は、どこか暗い影を帯びている。
「どこに行ってたんだ?」
「・・・秋山さんに会ってました」
何だって?こんな時間まで?
「どういうことなんだ?会うのはかまわないが、こっちから連絡してもいつまでも既読も付かないし、心配するじゃないか!俺がどれだけ心配したと思っているんだ!」
「そんな声を荒げないでくださいよ。少し放っておいてくださいよ、保護者じゃあるまいし」
「何だと!?散々心配かけておいてその言い方はなんだ!」
「はいはい、わかりました、すいませんでした」
吐き捨てるように言うと、川口青年は自分の部屋に逃げるように入ってしまった。 
なんなんだ?それにしても、秋山さんも秋山さんだ。こんな時間まで引き留めておいて。少し抗議しておかないといけないだろう。
俺は、秋山さんにRINEを送って抗議した。秋山さんからは、すぐに返信が返ってきた。
『すいません、少しそっとしておいてあげてくれませんか?いずれ本人からきちんと話すと思いますので』
どういう意味だ?2人だけでコソコソと、俺を除け者にして。
俺の苛立ちは、さらに高まった。
しかし、肝心の川口青年はなぜか不貞腐れて部屋に立て籠ってしまっている。
まさか、浮気?
いや、そんなはずがあるわけない。
しかし・・・。
いずれ本人から話すと思う、というのはどういう意味なんだ?クソッ!
こんな時は酒でも飲んで寝てしまうのが1番いい。俺にはそれしか思い浮かばなかった。

翌朝、俺はいつものようにアラームの音で目が覚めた。しかし、寝覚めは最悪で、頭だけでなく体も重くて布団からなかなか出ることができずにいた。
酒を飲んで寝てはみたものの、目が覚めたら全て問題が解決したわけでもなく、昨日のモヤモヤを引きずったままだった。
そこに川口青年が俺を起こしにきた。
「福山さん、朝ごはんできてますよ、早く起きてください」
まるで昨夜のことなど何も無かったかのように普段どおりの川口青年を見て、俺は昨夜のことが現実に起きたことなのか、それとも夢だったのか、一瞬分からなくなった。
「昨夜のことだけど」
「すいません、俺、今朝は早く行かないといけないんで先に行きます」
それだけ言い残すと、川口青年は俺の気持ちを取り残してさっさと行ってしまった。
今夜、帰ってきたら話してくれるだろうか。
俺はそれに期待した。しかし、その日の夜も、彼が昨日のことを説明することは無かった。
話す義務は彼にある。俺はそう思って彼からの言葉を待った。しかし、次の日も、またその次の日も、彼の口からあの日のことを聞くことは無かった。
そして、そのうち俺はそのことを忘れてしまった。


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