箱入り息子はサイコパス

広川ナオ

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第2章 敏腕プロデューサーと売れっ子アイドル

20 僕だけなんだ

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 リカリカチャンネルはこの1年間で劇的な変化を遂げた。

 【リカリカ】がウィーチューバーとして活動を始めたのはおよそ2年前。彼女が高校生になって間もない頃だった。
 チャンネル開設当初の名前は《RikaRika Live》としており、美容やゲームなど、自分が興味のあるものをテーマにしながら不定期にライブ配信を行っていた。当時はまだウィーチューバーと呼べるほど本格的な活動はしてなかった。

 活動開始から1年が経った頃のチャンネル登録者数は約9000人。まだまだ知る人ぞ知るという感じのしがない女子高生ウィーチューバーだった。

 しかし、この頃から彼女のチャンネルは劇的な変化を遂げていく。

 正式なチャンネル名を現在の《RikaRika Channel》に変更してから僅か半年の間に、チャンネルは早くも当初の年間目標に掲げていた登録者10万人を突破した。
 その後も破竹の勢いは留まることを知らず、9ヶ月後には20万人を突破。この頃からファンの間で〝リカナー〟という、いわゆるが浸透し始めた。ラジオ番組などの聴者を指す〝リスナー〟と【リカリカ】の名前をブレンドして生み出された造語である。

 そして心機一転から1年後、チャンネル開設2周年を迎える直前に、チャンネル登録者はついに50万人を超えた。この数字は事務所に所属してない個人のウィーチューバーとしては相当なものだろう。
 
 以上が、今日に至るまでのリカリカチャンネルの大まかな沿革である。



 この1年間の彼女の急成長ぶりは、まさに鯉が滝を登る勢いだ。さしずめ彼女の場合は華やかな錦鯉といったところか。
 彼女と出会って間もない頃の僕は、まさか【リカリカ】がこれほどの大躍進を遂げるとは思ってなかった。

 無論これほどの成功をもたらした要因はいくつも挙げられる。動画のクオリティが高かったとか、ターゲットである同年代の若年層にうまく刺さったとか、益体もないことを言えば単純に運が味方してくれたとか。しかし一番の成功要因は【リカリカ】のアイドルとしての天性の素質と、それを引き出すための企画や演出が上手くマッチしたことだろう。加えるなら、SNSなどを利用した拡散効果が大きく貢献したという点も個人的に譲りたくないところだ。

 今や彼女はウィーチューブ界の中でも名の売れた存在となりつつある。まさに名実共に女子高生アイドルウィーチューバーだ。この勢いで成長していければ、もしかすると近いうちに本格的なビジネス案件が舞い込んでくるかもしれない。企業から広告のオファーを受けたり、ウィーチューバーのイベントへの出演を依頼されたり。そうなると個人でのマネジメントは難しくなるから、どこかのウィーチューバー事務所に籍を置くことも視野に入れる必要があるだろう。そこまで行けば【リカリカ】もいよいよ本物のタレントの仲間入りだ。

 すごいな、夢はどんどん広がっていく。
 栄光へと続く架け橋を、彼女は今まっすぐに駆け上がっている。まさに順風満帆。彼女の顔と名前がお茶の間に浸透する日が来るのも近いかもしれない。



 そんな彼女のリアルを知っていることが、なんだか誇らしくなってくる。



 ——そう、僕だけなんだ。彼女の正体を知っているのは。

 世間の人間は他に誰も知らないのだろう。
 彼女が都内にある西南高校という学校に通っていることも。
 自宅が杉並区の住宅街にあるということも。
 本名を緑川エリカということも。

 知らないのだ、誰も彼も。僕だけが彼女のすべてを知っている。

 なんだか不思議だ。そんなことを考えていると、自分が選ばれし特別な人間のように思えてくる。別に彼女の素性を知っていたところで、僕にとっていかなる利益にもならないのだけど。

 でも〝特別〟って言葉の響きには、やっぱりなんかぞくっと来るものがあるんだ。
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