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【10話】パーティーをクビになったと思ったら別の方にその場でスカウトされました

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 時刻は、ノアがパーティーをクビになる少し前へと遡る。

「――やあ」

 ギルドの受付に並び、職員に手を振る青年がいた。
 彼の名は、ロイル。目に見える武具の類は装備しておらず、非冒険者か、成り立ての新米冒険者と思われていることだろう。
 だが、ロイルは全く気にしない。

「冒険者になりたいんだけど、申請はここでいいのかな?」
「ギルドに来るのは初めてか? じゃあまずは申請用紙に名前と出自、有ったら戦闘経験の有無について書いてくれ。あと、左手の小指のサイズを測らせてもらうぞ」

 小太りの中年男性が対応する。言われたとおりに冒険者登録用紙を埋めていき、ロイルは小指のサイズを確認してもらう。

「ええっと? 名前はロイルでいいんだな? 戦闘経験の有無は……無しで間違いないか?」
「間違いないよ」
「……よし。ほらよ、これが冒険者証だ。身分の証明にもなるから、絶対に失くすんじゃないぞ」
「忠告ありがとう。指を落とさないように気をつけるよ」

 銅で出来た指輪を、職員から受け取る。
 ノアの時と同じように、スムーズに冒険者登録を終えることが出来た。あとは自分の実力に見合ったクエストを見繕うのだが……、

「待ってください……!」

 無事に登録が完了し、一息ついたのも束の間、ギルド内に女性の声が響く。何事かと振り返ると、大柄な男と細身の女性、それと困り顔の女性――ノアの姿があった。

「ボド! エリーザ! さ、さっき言ったことは取り消します! だからわたしをクビにしないでください!」

 懇願するのは、ノアだ。それから暫くやり取りが続くが、残念ながら、ノアの願いが聞き届けられることはなかった。

「あの人、フリーだよね?」
「は? ……ああ。あの様子だと、ついにパーティーをクビになったみたいだな。……まあ、仕方ないんじゃないか? だって魔力ゼロのノアちゃんだからなあ……」
「魔力ゼロ?」
「あの子はここじゃちょっとした有名人なんだよ。まあ、可哀そうな意味でだがな」

 小太りの職員は、ノアを見ながら溜息を吐く。

「聞いた話じゃ、生まれた時から魔力がゼロらしい。んで、彼等の荷物持ちをしてるから、【魔力ゼロ】とか【荷物持ち】のノアって呼ばれてるんだ」

 有名な冒険者には、二つ名が付く。
 けれどもそれは、いい意味だけではない。悪い意味でも付けられることがある。
 たとえばノアの場合、【魔力ゼロ】と【荷物持ち】として有名だ。

「ふーん、【魔力ゼロ】のノアね……僕にはそうは見えないけどな」

 遠目にノアの姿を観察し、次いでボドとエリーザへと目を向ける。そして、

「彼女をフリーにしてくれたみたいだし、とりあえずお礼だけでもしておこうかな」

 微笑み、そして視る。すると次の瞬間――

「――いでっ」

 なにもない場所で、ボドが派手に転ぶ。

「……ちょっと、ボド? 貴方大丈夫?」
「ちっ、足が急に動かなくなった……気がしたんだ」
「はあ? どういうことよ、それ?」
「うるせえな、俺が知りてえよ」

 ボドは自分の足を触ってみるが、何事もない。
 しかし確かに、足が動かなくなったのだ。

「……くそっ、見てんじゃねえよ、雑魚共が!」

 いつの間にか、ギルド内の視線を独り占めしていたボドは、羞恥を誤魔化す為に声を荒げる。この騒ぎのおかげか、ノアはこれ以上辱めを受けずに済んだ。

 早々に立ち上がり、周囲を睨み付けて威嚇したボドは、この空間から逃げ出すように足を動かし、ギルドの入口へと向かって……そしてまた転倒した。

「ぐっ、ぎっ、……足がっ、また動かねえ!!」
「ボド、貴方もしかして、昨日の戦闘で怪我でもしたの?」
「してねえよっ! この俺がホーンラビット如きに後れを取るかっ!!」

 エリーザの心配をよそに、ボドは怒りを放つ。
 全く見当もつかないが、これは確実に攻撃を受けている。そうとしか思えない。

「くそ、くそ、くそっ、どこのどいつだゴラアッ!? 俺様に喧嘩売ってんのかっ!!」

 足は、すぐに動くようになった。けれどもボドの怒りは収まらない。ギルド内にいるであろう何者かに向けて吠える。
 しかしながら、名乗りを上げる者はいない。

 そんな中、ロイルは迷いなくノアの許へと歩み寄る。
 涙で歪んだ視界の端に、何者かの足先が映り込むのを捉えたノアは、恐る恐る顔を上げる。するとそこには、初めて見る顔――ロイルがいた。

「こんにちは、ノアさん」
「ぐすっ、どうしてわたしの名前を……」

 涙で汚れた顔を見られまいと、ノアは再び顔を俯ける。がしかし、

「――ぁ」

 片膝をついたロイルが、ノアの顎に手を添えた。
 そしてゆっくりと、その顔を上げる。

「聞くつもりはなかったんだけど、彼等との会話が聞こえちゃってね。その時、きみの名前も、ってこと」

 ボドとエリーザは、これまで一度もノアの名前を呼んだことがない。小太りの職員から名前を聞いたからだが、正直に伝えても気分を害するだけだと考えた。
 だからロイルは嘘を吐く。

 もう片方の手の指をノアの目元にあて、優しくなぞり涙を拭っていく。
 その指使いに、ノアは全身を震わせた。

「あ、あっ、えっと……大丈夫ですっ」

 よたよたしながらも立ち上がり、ノアはお辞儀をする。
 得体の知れない人物との距離を取る為、ノアはその場から離れようとした。――だが、

「もしフリーならさ、僕とパーティーを組まない?」
「……へっ?」

 パーティーをクビになったばかりのノアの胸に、その言葉は深く響いた。
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