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【8話】もう荷物持ちはしたくないと伝えたらパーティーをクビになりました
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遂に、手持ちが尽きた。
それもこれも全てはボドとエリーザに従い続けたのが原因だ。
荷物持ち以外に役割を与えてもらえず、手を貸そうものなら怒鳴られる。そしてその日の分け前を没収される。この繰り返しでは当然の結果と言えるだろう。
アルゴール家を追い出されてから半年もの間、節約をしながらどうにか生活をしてきたが、それももう限界だ。このままでは明日の宿もままならない。
だからノアは、意を決し、己の思いを伝えることにした。
「――話ってなんだ、荷物持ち」
それは、いつものように談話室へと集まり、クエストの準備をしている最中のことだ。
話したいことがある、とノアが二人の前で口を開くと、ボドが面倒くさそうに足を組み、睨み付ける。
「あの、お二人の荷物についてなんですけど」
ボドと、その横に座るエリーザへと視線を向けた。二人は興味なさそうな態度だが、この機会を逃すわけにはいかない。
一度、深呼吸して、心を落ち着かせる。そして、
「……もう、持ちたくありません」
これ以上は無理だと、二人に告げた。
「は? 持ちたくねえって、本気で言ってんのか?」
「ほ、本気です……わたしは冒険者になりたくてここに来たんですっ、荷物持ちになるために冒険者になったわけじゃありません!」
言った。言ってしまった。
ボドとエリーザに、荷物を持ちたくないと言ってしまった。
声を荒げ、ノアは主張する。談話室で寛ぐ他の冒険者たちが、何事かと目を向けてくるが、そんなことはお構いなしだ。
「俺たちの荷物を持ちたくねえって、じゃあこれからお前は何をするってんだ」
「た、戦いますっ、わたしも二人と一緒に……魔物狩りをしたいです!」
パーティーに加入しての半年間、覚えたスキルは氷系の攻撃魔法【アイシクル】一つのみ。しかもノアの魔力の値はゼロのままなので、スキルを発動することは出来ない。
荷物持ちによる分け前だけでは暮らしていけないのは無論のこと、冒険者として成長するためには、やはり自分で魔物を狩らなければならない。結論に至るまで、ノアは半年もかかってしまった。
だが、ボドは鼻で笑う。
「魔力ゼロの出来損ないのくせに、いっちょ前に口だけは達者になりやがったな?」
テーブルを足で蹴り押し、立ち上がる。
次いで、エリーザも溜息を吐きながら椅子から腰を上げた。
「んじゃ、今日までお疲れさん。あとは自由に野垂れ死にな」
「……え、え?」
その台詞の意味を理解するのに、ノアは僅かに時間を要した。
「あの、それってもしかして……クビってことですか?」
「……はぁ、言わねえと分かんねえのか? ほんとにどこまでも鈍いクソ野郎だな……チッ」
「仕方ないじゃない。だってこの子、魔力ゼロなんだから」
魔物との戦闘中、良かれと思って手を貸しても、邪魔になるから大人しくしてろと怒鳴られた。ポイズンマウスの毒を浴びた際も、自業自得だと毒消草の一つももらえなかった。
ついてくるのが遅いと叱られ続け、小突かれることもしばしば……。それでも、荷物持ちをしている間は、どんなにへまをしてもクビにだけはならなかった。
それなのに、荷物持ちをしたくないと言った途端、ノアはクビになった。
つまりそれは、荷物を持つ以外の使い道がないと言われたのと同じだ。
立ち去る二人の背中を見送り、ノアは急に涙が込み上げてくる。
これが、わたしのしたかったことなのかと。魔力ゼロの自分には、何の価値もないのかと。
荷物持ちを拒否した以上、もうここには手を差し伸べてくれる者もいないだろう。
己の価値をあらためて認識し、ノアはその悔しさと不甲斐なさから、我慢できずに涙を零すのだった。
それもこれも全てはボドとエリーザに従い続けたのが原因だ。
荷物持ち以外に役割を与えてもらえず、手を貸そうものなら怒鳴られる。そしてその日の分け前を没収される。この繰り返しでは当然の結果と言えるだろう。
アルゴール家を追い出されてから半年もの間、節約をしながらどうにか生活をしてきたが、それももう限界だ。このままでは明日の宿もままならない。
だからノアは、意を決し、己の思いを伝えることにした。
「――話ってなんだ、荷物持ち」
それは、いつものように談話室へと集まり、クエストの準備をしている最中のことだ。
話したいことがある、とノアが二人の前で口を開くと、ボドが面倒くさそうに足を組み、睨み付ける。
「あの、お二人の荷物についてなんですけど」
ボドと、その横に座るエリーザへと視線を向けた。二人は興味なさそうな態度だが、この機会を逃すわけにはいかない。
一度、深呼吸して、心を落ち着かせる。そして、
「……もう、持ちたくありません」
これ以上は無理だと、二人に告げた。
「は? 持ちたくねえって、本気で言ってんのか?」
「ほ、本気です……わたしは冒険者になりたくてここに来たんですっ、荷物持ちになるために冒険者になったわけじゃありません!」
言った。言ってしまった。
ボドとエリーザに、荷物を持ちたくないと言ってしまった。
声を荒げ、ノアは主張する。談話室で寛ぐ他の冒険者たちが、何事かと目を向けてくるが、そんなことはお構いなしだ。
「俺たちの荷物を持ちたくねえって、じゃあこれからお前は何をするってんだ」
「た、戦いますっ、わたしも二人と一緒に……魔物狩りをしたいです!」
パーティーに加入しての半年間、覚えたスキルは氷系の攻撃魔法【アイシクル】一つのみ。しかもノアの魔力の値はゼロのままなので、スキルを発動することは出来ない。
荷物持ちによる分け前だけでは暮らしていけないのは無論のこと、冒険者として成長するためには、やはり自分で魔物を狩らなければならない。結論に至るまで、ノアは半年もかかってしまった。
だが、ボドは鼻で笑う。
「魔力ゼロの出来損ないのくせに、いっちょ前に口だけは達者になりやがったな?」
テーブルを足で蹴り押し、立ち上がる。
次いで、エリーザも溜息を吐きながら椅子から腰を上げた。
「んじゃ、今日までお疲れさん。あとは自由に野垂れ死にな」
「……え、え?」
その台詞の意味を理解するのに、ノアは僅かに時間を要した。
「あの、それってもしかして……クビってことですか?」
「……はぁ、言わねえと分かんねえのか? ほんとにどこまでも鈍いクソ野郎だな……チッ」
「仕方ないじゃない。だってこの子、魔力ゼロなんだから」
魔物との戦闘中、良かれと思って手を貸しても、邪魔になるから大人しくしてろと怒鳴られた。ポイズンマウスの毒を浴びた際も、自業自得だと毒消草の一つももらえなかった。
ついてくるのが遅いと叱られ続け、小突かれることもしばしば……。それでも、荷物持ちをしている間は、どんなにへまをしてもクビにだけはならなかった。
それなのに、荷物持ちをしたくないと言った途端、ノアはクビになった。
つまりそれは、荷物を持つ以外の使い道がないと言われたのと同じだ。
立ち去る二人の背中を見送り、ノアは急に涙が込み上げてくる。
これが、わたしのしたかったことなのかと。魔力ゼロの自分には、何の価値もないのかと。
荷物持ちを拒否した以上、もうここには手を差し伸べてくれる者もいないだろう。
己の価値をあらためて認識し、ノアはその悔しさと不甲斐なさから、我慢できずに涙を零すのだった。
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