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【102】
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ナーナルが部屋に引き籠ってからしばらく。
ドアが開いて出てきたと思えば、何やら紙束を手に持っていた。
「見て、エレン。招待状を作ってみたの」
二つ目の果実水を作り終えて休憩していたエレンに、ナーナルが紙束を見せる。
それには招待状と書かれてあった。日時も記載されている。
「なるほど、面白い手を考えたな」
「でしょう? 開店当日は、この招待状を持っている人だけが入ることができるの。時間の指定もしているし、そうすればわたしたちが慌てふためくこともないはずよ」
とりあえずで拵えたのは、十枚の招待状。これを二人に近しい人たちに配ることになる。
「全部で十名か、誰に配るかだが……」
「まずはロニカよね。ここは絶対に外せないわ」
「あいつは招待状を渡さなくても来るぞ」
「ダメよそんなの。ちゃんと招待したいもの」
そう言ってエレンを見ると、肩を竦めて口の端を上げていた。
「もしかして、今のも冗談だったのね? もう……」
またもや見抜けなかった。
ナーナルは少し頬を膨らませるが、すぐに機嫌を直す。
「ロニカは確定として、残り九名だけれど……ゼントさんにも来てほしいわ」
ゼントには、二人ともに助けてもらった恩がある。ロニカは嫌がるかもしれないが、親子揃って招待するのも有りだろう。
「異論なしだ。これで残り八名か」
二人して招待する人の名簿を作っていく。
しかしいざ作り始めると、招待したい人が多いことに気付いた。招待枠が十名では到底足りるものではない。
「……エレン、お世話になった人が多すぎると思わない?」
「そうだな。今更ながらに気付いたが、俺たちは色んな人に助けられていたみたいだ」
王都からローマリアに着いてから、まだそれほど長くはない。けれども二人は、この地で文字通り数え切れない人たちとの関わりを持つこととなった。
故に、悩んでしまう。
十名に絞るなど、できるはずがない、と。
「……招待状、増やそうかしら」
「いや、それ以上になると、当日俺たちが回しきれなくなる可能性がある」
「そうよねえ」
「先に名前の出た人たちから順番に、十名を招待することにしたらどうだ」
そう言われて、ナーナルは名簿の十番目までを確認する。
ロニカとゼントはそのままで、昨日出会ったばかりのクリアの名前や、帰国中のキルファンの名前などもある。
「うん。悩んでいるばかりだと時間が勿体ないものね。そうしましょう」
これで決まりだ。
開店当日、この十名に対して最高の持て成しをできるように、しっかりと準備を整える必要がある。
そうと決まれば、のんびりなどしていられない。
「ところで、開店するのはいいとして、建物がまだだろう。どこでお店をするべきか……」
「ここでいいじゃない」
「ここ? 俺たちの家だが……」
「ええ。お店で提供するメニューを堪能してもらえればいいのだから、場所はどこでも構わないでしょう?」
「一理あるが、それなら部屋の片付けもしないといけないぞ」
「もちろんよ。でもその前に、招待状を配ってからね! さあ、行きましょう!」
そう言って、ナーナルは善は急げとばかりにエレンの手を掴み、招待状を反対の手に持ち、城下町へと繰り出すのだった。
ドアが開いて出てきたと思えば、何やら紙束を手に持っていた。
「見て、エレン。招待状を作ってみたの」
二つ目の果実水を作り終えて休憩していたエレンに、ナーナルが紙束を見せる。
それには招待状と書かれてあった。日時も記載されている。
「なるほど、面白い手を考えたな」
「でしょう? 開店当日は、この招待状を持っている人だけが入ることができるの。時間の指定もしているし、そうすればわたしたちが慌てふためくこともないはずよ」
とりあえずで拵えたのは、十枚の招待状。これを二人に近しい人たちに配ることになる。
「全部で十名か、誰に配るかだが……」
「まずはロニカよね。ここは絶対に外せないわ」
「あいつは招待状を渡さなくても来るぞ」
「ダメよそんなの。ちゃんと招待したいもの」
そう言ってエレンを見ると、肩を竦めて口の端を上げていた。
「もしかして、今のも冗談だったのね? もう……」
またもや見抜けなかった。
ナーナルは少し頬を膨らませるが、すぐに機嫌を直す。
「ロニカは確定として、残り九名だけれど……ゼントさんにも来てほしいわ」
ゼントには、二人ともに助けてもらった恩がある。ロニカは嫌がるかもしれないが、親子揃って招待するのも有りだろう。
「異論なしだ。これで残り八名か」
二人して招待する人の名簿を作っていく。
しかしいざ作り始めると、招待したい人が多いことに気付いた。招待枠が十名では到底足りるものではない。
「……エレン、お世話になった人が多すぎると思わない?」
「そうだな。今更ながらに気付いたが、俺たちは色んな人に助けられていたみたいだ」
王都からローマリアに着いてから、まだそれほど長くはない。けれども二人は、この地で文字通り数え切れない人たちとの関わりを持つこととなった。
故に、悩んでしまう。
十名に絞るなど、できるはずがない、と。
「……招待状、増やそうかしら」
「いや、それ以上になると、当日俺たちが回しきれなくなる可能性がある」
「そうよねえ」
「先に名前の出た人たちから順番に、十名を招待することにしたらどうだ」
そう言われて、ナーナルは名簿の十番目までを確認する。
ロニカとゼントはそのままで、昨日出会ったばかりのクリアの名前や、帰国中のキルファンの名前などもある。
「うん。悩んでいるばかりだと時間が勿体ないものね。そうしましょう」
これで決まりだ。
開店当日、この十名に対して最高の持て成しをできるように、しっかりと準備を整える必要がある。
そうと決まれば、のんびりなどしていられない。
「ところで、開店するのはいいとして、建物がまだだろう。どこでお店をするべきか……」
「ここでいいじゃない」
「ここ? 俺たちの家だが……」
「ええ。お店で提供するメニューを堪能してもらえればいいのだから、場所はどこでも構わないでしょう?」
「一理あるが、それなら部屋の片付けもしないといけないぞ」
「もちろんよ。でもその前に、招待状を配ってからね! さあ、行きましょう!」
そう言って、ナーナルは善は急げとばかりにエレンの手を掴み、招待状を反対の手に持ち、城下町へと繰り出すのだった。
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