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【78】弟子の告白
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拒絶している。
涙が止まらない。泣くのはこれが初めてだった。
どうして、どうしてだ。
俺がしくじらなければ、メルを失うことはなかった。
あのときと同じように、ロックは心を絶望に支配されようとしていた。
すると、
「ろ、……っく」
「――ッ!? メル!!」
声が聞こえた。
メルが目覚めたのだ。
だが、これは痛みで一時的に目を覚ましたに過ぎない。
既に体は二つに斬り裂かれてしまい、回復魔法も追い付くことはないだろう。
あとはただ、死が訪れるのを待つだけだ。
「……こに、いる……の……?」
「喋るな、傷が酷い」
「う、……うぅ」
無意味だ。
もう、助からない。
そんなことは分かっている。ロックはもちろん、メルだって理解しているはずだ。
しかしだからこそ、メルは口を開く。これが最期であれば、そうしなければならないと思っているから。
「ごめ……ん、なさい……。で……き、あい、……効かなかっ、た……」
メルの『溺愛』は、ギルデオルには効果が無かった。
そのことを謝っているのだろう。
しかし、ロックは首を横に振る。
「奴自身も死人だったんだ」
だから仕方ないと。
メルは自分にできることを精一杯やったのだと。
ロックは声を震わせながらもしっかりと伝える。
「ふ、ふふ……そ、っか……」
目を開けてはいるが、焦点が定まらない。
実際に見えてもいないのだろう。
その目を、その瞳を、ロックは視た。――『心眼』を発動したまま、メルの目を視た。
「こんなことに……なるんだ、ったら、……もっと、はやく……言う、……だった……」
「なんだ、何を言いたい? 俺はここにいる。お前の声を聞いてるぞ」
言わずとも分かっている。
でも、声に出すからこそ、伝わることもある。
故に、メルは声を絞り出す。
胸に秘めた想いを口にするために。
「……き、よ」
掠れた声で囁く。
そしてもう一度、
「ろ、っく……あなたの、ことが……だいすき……」
「っ」
瞼が閉じた。
もう、声は聞こえない。
「大好き……だと……」
もう、その瞼が開くことはない。
メルの声を聞くこともない。
「大馬鹿野郎が……俺には『心眼』があるんだ。お前のクソみたいなスキル、効くわけないだろ……ッ」
ロックには『心眼』がある。
だからこそ、メルの『溺愛』の効果を受けることがなかった。
そして今、ロックは『心眼』を発動したまま、メルの『溺愛』の効果を正面から受け止めた。
しかし、何も変わらない。
変わるはずがない。何故ならば、
「そんなもん無くたって……俺はもう、お前のことが……」
ロックは、既にメルに夢中だった。
好きで好きでたまらなかった。
全てを愛おしく思っていた。
だから今更なのだ。
二人の気持ちを確認し合うために、ロック曰くクソみたいなスキルを使う必要などなかったのだ。
「絶望しているところ悪いんだけど、そろそろフィナーレと行こうかな! 全ての力を取り戻した僕、アヴィ・レ・ギルデオル伯爵による、元英雄の虐殺ショーを始めようじゃないか!」
ロックが絶望する姿を堪能し終えたのだろう。
ギルデオルが、両手を広げて恭しく首を垂れる。
一方、ロックはゆっくりと立ち上がり、ギルデオルと向き合った。
相も変わらず『心眼』の効果でどす黒い感情が流れ込んでくる。
しかしそれももう怖くない。
一番大切な存在を失った今、恐れることは一つもなかった。
だが、一つだけ。
ロックは一つだけ、絶望から抜け出す方法を知っている。
もちろん、それが上手くいく保証はどこにもない。
誰もしたことがないのだから何が起こるかも定かではない。
きっと、何も起こることはないのだろう。
常識的に考えれば、誰もがそう思うはずだ。
けれども、ロックは構わない。
たとえそれが一縷の望みだったとしても、試すことができるのであれば、何だってしてみせる。
だからロックは、決意する。
目の前の魔人の首を獲り、メルを救ってみせると。
「……時間が惜しい。かかってこい」
その台詞を合図に、ロックとギルデオルの二度目の戦闘が始まった。
涙が止まらない。泣くのはこれが初めてだった。
どうして、どうしてだ。
俺がしくじらなければ、メルを失うことはなかった。
あのときと同じように、ロックは心を絶望に支配されようとしていた。
すると、
「ろ、……っく」
「――ッ!? メル!!」
声が聞こえた。
メルが目覚めたのだ。
だが、これは痛みで一時的に目を覚ましたに過ぎない。
既に体は二つに斬り裂かれてしまい、回復魔法も追い付くことはないだろう。
あとはただ、死が訪れるのを待つだけだ。
「……こに、いる……の……?」
「喋るな、傷が酷い」
「う、……うぅ」
無意味だ。
もう、助からない。
そんなことは分かっている。ロックはもちろん、メルだって理解しているはずだ。
しかしだからこそ、メルは口を開く。これが最期であれば、そうしなければならないと思っているから。
「ごめ……ん、なさい……。で……き、あい、……効かなかっ、た……」
メルの『溺愛』は、ギルデオルには効果が無かった。
そのことを謝っているのだろう。
しかし、ロックは首を横に振る。
「奴自身も死人だったんだ」
だから仕方ないと。
メルは自分にできることを精一杯やったのだと。
ロックは声を震わせながらもしっかりと伝える。
「ふ、ふふ……そ、っか……」
目を開けてはいるが、焦点が定まらない。
実際に見えてもいないのだろう。
その目を、その瞳を、ロックは視た。――『心眼』を発動したまま、メルの目を視た。
「こんなことに……なるんだ、ったら、……もっと、はやく……言う、……だった……」
「なんだ、何を言いたい? 俺はここにいる。お前の声を聞いてるぞ」
言わずとも分かっている。
でも、声に出すからこそ、伝わることもある。
故に、メルは声を絞り出す。
胸に秘めた想いを口にするために。
「……き、よ」
掠れた声で囁く。
そしてもう一度、
「ろ、っく……あなたの、ことが……だいすき……」
「っ」
瞼が閉じた。
もう、声は聞こえない。
「大好き……だと……」
もう、その瞼が開くことはない。
メルの声を聞くこともない。
「大馬鹿野郎が……俺には『心眼』があるんだ。お前のクソみたいなスキル、効くわけないだろ……ッ」
ロックには『心眼』がある。
だからこそ、メルの『溺愛』の効果を受けることがなかった。
そして今、ロックは『心眼』を発動したまま、メルの『溺愛』の効果を正面から受け止めた。
しかし、何も変わらない。
変わるはずがない。何故ならば、
「そんなもん無くたって……俺はもう、お前のことが……」
ロックは、既にメルに夢中だった。
好きで好きでたまらなかった。
全てを愛おしく思っていた。
だから今更なのだ。
二人の気持ちを確認し合うために、ロック曰くクソみたいなスキルを使う必要などなかったのだ。
「絶望しているところ悪いんだけど、そろそろフィナーレと行こうかな! 全ての力を取り戻した僕、アヴィ・レ・ギルデオル伯爵による、元英雄の虐殺ショーを始めようじゃないか!」
ロックが絶望する姿を堪能し終えたのだろう。
ギルデオルが、両手を広げて恭しく首を垂れる。
一方、ロックはゆっくりと立ち上がり、ギルデオルと向き合った。
相も変わらず『心眼』の効果でどす黒い感情が流れ込んでくる。
しかしそれももう怖くない。
一番大切な存在を失った今、恐れることは一つもなかった。
だが、一つだけ。
ロックは一つだけ、絶望から抜け出す方法を知っている。
もちろん、それが上手くいく保証はどこにもない。
誰もしたことがないのだから何が起こるかも定かではない。
きっと、何も起こることはないのだろう。
常識的に考えれば、誰もがそう思うはずだ。
けれども、ロックは構わない。
たとえそれが一縷の望みだったとしても、試すことができるのであれば、何だってしてみせる。
だからロックは、決意する。
目の前の魔人の首を獲り、メルを救ってみせると。
「……時間が惜しい。かかってこい」
その台詞を合図に、ロックとギルデオルの二度目の戦闘が始まった。
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