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【71】妾の子
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国王の号令により、王国軍が一斉に駆け出した。いよいよ戦闘開始だ。
「死をも恐れぬ我が軍勢よ! オレ様に続け!」
一番槍を務めるのは、マルス様だ。
冒険者としての経験は無いけど、それでも実力は申し分ない。相対する魔物の群れを、次々に蹴散らしていく。
その背中を追いかけ、撃ち漏らしを確実に仕留めるのが、エリック様と帝国の王子たちだった。
馬車で同乗しているときに聞いた話によると、エリック様は一度王国転覆を企てた罪で牢屋送りになっていたけど、ある日突然釈放されることになった。
その話を聞いたとき、すぐに察した。
わたしのスキル『溺愛』の効果が切れたのだろう。影響下にある状態で死罪にならなくてよかった。
今は魔人討伐と帝国奪還で忙しないけど、無事に王国へと戻ることができれば、お二人に謝罪しなければならない。
そのときは、『溺愛』についても話した方がいいかもしれない。そうすることで、これまでの不可解な状況に納得してもらえるはずだから。
ただ、許してはもらえないだろうな……とわたしは一人頭の中でため息を吐いた。
「考え事か」
そんなわたしの様子に気付いたのか、隣を走るロックが声をかけてくれた。
わたしたちは王国軍とは別行動を取っている。表から堂々と攻め入るのがマルス様たちで、裏手から帝城内部へ潜り込み、魔人ギルデオルを直接叩くのがわたしたちだ。
「ええ。少し先の未来についてね」
「いいことだ」
わたしの返事を聞いたロックは、それを「いいこと」と言った。
「未来を考えるということは、生きる気があるってことだ」
「未来に絶望したとしても?」
「乗り越えればいいだけの話だ」
「わたし、そんなに強くないけど」
「お前は一人じゃないだろ」
ロックの言葉に、わたしは小さく頷く。
何気ない一言かもしれない。けれどもわたしは、これまでにも彼に何度も助けてもらっている。
たとえ未来が絶望しかなかったとしても、彼と一緒なら確かに乗り越えられる気がするのが不思議だ。
口は悪いけど、どうしてこんなにも魅力的に映ってしまうのだろう。
「……ロック。ひょっとして貴方、『魅了』スキルとか持っていたりしない?」
「何を言ってるんだ」
「ふふ、冗談よ」
ロックとわたしは、城内を進んで行く。
おぼろげだけど内部構造を覚えていたロックは、それほど迷うことなく王の間がある場所へと歩を進める。
「止まれ、何かいる」
「っ、あれって……」
するとここで、柱の陰に隠れる青年を見付けた。
帝国民の生き残りだろうか、ずっと城内で隠れていたのかもしれない。
「貴方、そんなところに居ると危ないわ」
声をかける。
幸いなことに、城外には万を超える王国軍がいる。今なら逃げることも不可能ではないだろう。
「魔物に見つかる前に、今すぐ逃げなさい」
「待て」
青年の傍へと駆け寄ろうと一歩前に出たところで、ロックに腕を掴まれた。
どうして止めるのかと振り向く。
ロックの表情は、信じられないものを見ているかのようだった。
「やあ、ロック。久しぶりだね?」
「……アレク」
それもそのはず、わたしが話しかけた青年は、随分と前に死んだはずの人間だからだ。
「きみにまた会えて嬉しいよ」
そう言って、アレクはニッコリを笑っていた。
「死をも恐れぬ我が軍勢よ! オレ様に続け!」
一番槍を務めるのは、マルス様だ。
冒険者としての経験は無いけど、それでも実力は申し分ない。相対する魔物の群れを、次々に蹴散らしていく。
その背中を追いかけ、撃ち漏らしを確実に仕留めるのが、エリック様と帝国の王子たちだった。
馬車で同乗しているときに聞いた話によると、エリック様は一度王国転覆を企てた罪で牢屋送りになっていたけど、ある日突然釈放されることになった。
その話を聞いたとき、すぐに察した。
わたしのスキル『溺愛』の効果が切れたのだろう。影響下にある状態で死罪にならなくてよかった。
今は魔人討伐と帝国奪還で忙しないけど、無事に王国へと戻ることができれば、お二人に謝罪しなければならない。
そのときは、『溺愛』についても話した方がいいかもしれない。そうすることで、これまでの不可解な状況に納得してもらえるはずだから。
ただ、許してはもらえないだろうな……とわたしは一人頭の中でため息を吐いた。
「考え事か」
そんなわたしの様子に気付いたのか、隣を走るロックが声をかけてくれた。
わたしたちは王国軍とは別行動を取っている。表から堂々と攻め入るのがマルス様たちで、裏手から帝城内部へ潜り込み、魔人ギルデオルを直接叩くのがわたしたちだ。
「ええ。少し先の未来についてね」
「いいことだ」
わたしの返事を聞いたロックは、それを「いいこと」と言った。
「未来を考えるということは、生きる気があるってことだ」
「未来に絶望したとしても?」
「乗り越えればいいだけの話だ」
「わたし、そんなに強くないけど」
「お前は一人じゃないだろ」
ロックの言葉に、わたしは小さく頷く。
何気ない一言かもしれない。けれどもわたしは、これまでにも彼に何度も助けてもらっている。
たとえ未来が絶望しかなかったとしても、彼と一緒なら確かに乗り越えられる気がするのが不思議だ。
口は悪いけど、どうしてこんなにも魅力的に映ってしまうのだろう。
「……ロック。ひょっとして貴方、『魅了』スキルとか持っていたりしない?」
「何を言ってるんだ」
「ふふ、冗談よ」
ロックとわたしは、城内を進んで行く。
おぼろげだけど内部構造を覚えていたロックは、それほど迷うことなく王の間がある場所へと歩を進める。
「止まれ、何かいる」
「っ、あれって……」
するとここで、柱の陰に隠れる青年を見付けた。
帝国民の生き残りだろうか、ずっと城内で隠れていたのかもしれない。
「貴方、そんなところに居ると危ないわ」
声をかける。
幸いなことに、城外には万を超える王国軍がいる。今なら逃げることも不可能ではないだろう。
「魔物に見つかる前に、今すぐ逃げなさい」
「待て」
青年の傍へと駆け寄ろうと一歩前に出たところで、ロックに腕を掴まれた。
どうして止めるのかと振り向く。
ロックの表情は、信じられないものを見ているかのようだった。
「やあ、ロック。久しぶりだね?」
「……アレク」
それもそのはず、わたしが話しかけた青年は、随分と前に死んだはずの人間だからだ。
「きみにまた会えて嬉しいよ」
そう言って、アレクはニッコリを笑っていた。
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