67 / 88
【61】手にはフライパン
しおりを挟む
「これが地下通路……思っていたよりも明るいのね」
地下通路に足を踏み入れる。
もっと薄暗いと思っていたけど、光を発する魔道具が等間隔で設置されているおかげで、不便することはなさそうだった。
「そういえば王都にはなかったな」
「ええ。だからこの手の場所は初めてよ」
城下町を散策することはあったけど、地下街は存在しなかった。
けれどもフォルトナ共和国には無数の地下通路が存在し、その中にはお店を出しているところもあるらしいので驚きだ。
「行くぞ。転ぶなよ」
「心配しすぎよ」
と言いつつも、初めての地下通路なので慎重に歩を進める。
足元を見ながら階段を下りていく。それから今度は通路をゆっくりと歩いていく。すると、壁に変な塊があるのを見つけた。
どうやらロックよりも先にわたしの目に留まってしまったようだ。
「ねえ、ロック」
「……早速だな」
変な塊だと思っていたのは、駆除対象の根鼠だった。
一匹、壁に張り付いていたのだ。
「凄いわ、壁に張り付くなんて……」
「これが根鼠の特徴だからな」
話には聞いていたけど、まさか本当に所かまわず根を張ってしまうとは思わなかった。
「見て、こんなに近づいても逃げないわ」
恐る恐る傍まで近づいてみるけど、壁に張り付いた根鼠は全く動く気配を見せない。
眠っているわけではなく、けれども壁に根を張った状態なので逃げ出すことができないのだろう。
「あっ」
ロックは、躊躇なく根鼠を手掴みして引っ張る。
壁に張り付いていた根を力技で引き千切ると、地面に落として……踏み潰した。
「ひいっ」
思わず目を背ける。
「この程度で驚くな」
「だ、だって……幾らなんでも残酷すぎるわ!」
「こいつらは魔物だぞ。放置するわけにはいかない」
「そ、そうだけど……やり方をもう少し変えることはできないの?」
やり方とは、根鼠の駆除方法だ。
ロックは手掴みで根鼠を捕獲し、そのまま踏み潰した。そのやり方を実践しろと言われても、二の足を踏んでしまうだろう。
「数が少なければ、このやり方が一番、効率がいい。魔石も一匹ずつ確実に回収できるからな」
「わたしとしては、絶対に真似したくないやり方ね……」
踏み潰された根鼠の体から、ロックが魔石を回収する。
その様子を見ながら、わたしはため息を吐いた。
「戯言は時間の無駄だ。……ほら、そこにもいるぞ」
「え? ……あっ」
ロックに言われて振り向くと、根鼠をもう一匹発見した。こちらも壁に張り付いている。
「……やるしかないのよね」
冒険者として生きていくためには、これも必要なことなのだ。
やるか、やられるかだ。わたしは自分に言い聞かせる。
「よ、ようし……!」
身構える。
わたしが手に持っているのはフライパンだ。剣や杖を使うにはまだ早いとロックに言われて、それなら何を持っていけばいいのか訊ねたところ、これを渡された。
ひょっとして、わたしを馬鹿にしているのではないかと勘繰ったけど、地下通路に入って根鼠を前にしてみると、よく分かる。
フライパンは、根鼠の駆除には案外合っている。
「これも冒険者として生きていくためよ……! えいっ!」
後には引かない。
わたしは思い切りフライパンを振り抜いた。
すると、壁に引っ付いていた根鼠は逃げることなくフライパンの直撃に遭い、潰れてしまった。
「うぅ、嫌な感触……っ」
フライパンで壁を殴ったことで、手が痺れる。
しかもそれだけではない。根鼠の潰れた感触が手に伝わっていた。
「まだ終わってないぞ」
「……わ、分かっているわ」
床に落ちた根鼠の死骸に目を向ける。
そこから魔石を回収しなければならない。
「……すぐに洗浄魔法をかけてね」
「全部駆除したあとでな」
「っ」
まだ一匹なのに、全部終わるまでこのまま……。
ため息が止まらない。
「精々、吐かないように気をしっかり持つんだな」
「心配してくれるなら、次からはこの依頼を受けないようにしてちょうだい」
「もっと良い依頼があれば考える」
駆除は始まったばかりだ。
げんなりした表情のわたしを一瞥したあと、ロックは次なる獲物を探して周囲に目を光らせるのだった。
地下通路に足を踏み入れる。
もっと薄暗いと思っていたけど、光を発する魔道具が等間隔で設置されているおかげで、不便することはなさそうだった。
「そういえば王都にはなかったな」
「ええ。だからこの手の場所は初めてよ」
城下町を散策することはあったけど、地下街は存在しなかった。
けれどもフォルトナ共和国には無数の地下通路が存在し、その中にはお店を出しているところもあるらしいので驚きだ。
「行くぞ。転ぶなよ」
「心配しすぎよ」
と言いつつも、初めての地下通路なので慎重に歩を進める。
足元を見ながら階段を下りていく。それから今度は通路をゆっくりと歩いていく。すると、壁に変な塊があるのを見つけた。
どうやらロックよりも先にわたしの目に留まってしまったようだ。
「ねえ、ロック」
「……早速だな」
変な塊だと思っていたのは、駆除対象の根鼠だった。
一匹、壁に張り付いていたのだ。
「凄いわ、壁に張り付くなんて……」
「これが根鼠の特徴だからな」
話には聞いていたけど、まさか本当に所かまわず根を張ってしまうとは思わなかった。
「見て、こんなに近づいても逃げないわ」
恐る恐る傍まで近づいてみるけど、壁に張り付いた根鼠は全く動く気配を見せない。
眠っているわけではなく、けれども壁に根を張った状態なので逃げ出すことができないのだろう。
「あっ」
ロックは、躊躇なく根鼠を手掴みして引っ張る。
壁に張り付いていた根を力技で引き千切ると、地面に落として……踏み潰した。
「ひいっ」
思わず目を背ける。
「この程度で驚くな」
「だ、だって……幾らなんでも残酷すぎるわ!」
「こいつらは魔物だぞ。放置するわけにはいかない」
「そ、そうだけど……やり方をもう少し変えることはできないの?」
やり方とは、根鼠の駆除方法だ。
ロックは手掴みで根鼠を捕獲し、そのまま踏み潰した。そのやり方を実践しろと言われても、二の足を踏んでしまうだろう。
「数が少なければ、このやり方が一番、効率がいい。魔石も一匹ずつ確実に回収できるからな」
「わたしとしては、絶対に真似したくないやり方ね……」
踏み潰された根鼠の体から、ロックが魔石を回収する。
その様子を見ながら、わたしはため息を吐いた。
「戯言は時間の無駄だ。……ほら、そこにもいるぞ」
「え? ……あっ」
ロックに言われて振り向くと、根鼠をもう一匹発見した。こちらも壁に張り付いている。
「……やるしかないのよね」
冒険者として生きていくためには、これも必要なことなのだ。
やるか、やられるかだ。わたしは自分に言い聞かせる。
「よ、ようし……!」
身構える。
わたしが手に持っているのはフライパンだ。剣や杖を使うにはまだ早いとロックに言われて、それなら何を持っていけばいいのか訊ねたところ、これを渡された。
ひょっとして、わたしを馬鹿にしているのではないかと勘繰ったけど、地下通路に入って根鼠を前にしてみると、よく分かる。
フライパンは、根鼠の駆除には案外合っている。
「これも冒険者として生きていくためよ……! えいっ!」
後には引かない。
わたしは思い切りフライパンを振り抜いた。
すると、壁に引っ付いていた根鼠は逃げることなくフライパンの直撃に遭い、潰れてしまった。
「うぅ、嫌な感触……っ」
フライパンで壁を殴ったことで、手が痺れる。
しかもそれだけではない。根鼠の潰れた感触が手に伝わっていた。
「まだ終わってないぞ」
「……わ、分かっているわ」
床に落ちた根鼠の死骸に目を向ける。
そこから魔石を回収しなければならない。
「……すぐに洗浄魔法をかけてね」
「全部駆除したあとでな」
「っ」
まだ一匹なのに、全部終わるまでこのまま……。
ため息が止まらない。
「精々、吐かないように気をしっかり持つんだな」
「心配してくれるなら、次からはこの依頼を受けないようにしてちょうだい」
「もっと良い依頼があれば考える」
駆除は始まったばかりだ。
げんなりした表情のわたしを一瞥したあと、ロックは次なる獲物を探して周囲に目を光らせるのだった。
0
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
私がいなければ。
月見 初音
恋愛
大国クラッサ王国のアルバト国王の妾腹の子として生まれたアグネスに、婚約話がもちかかる。
しかし相手は、大陸一の美青年と名高い敵国のステア・アイザイン公爵であった。
公爵から明らかな憎悪を向けられ、周りからは2人の不釣り合いさを笑われるが、アグネスは彼と結婚する。
結婚生活の中でアグネスはステアの誠実さや優しさを知り彼を愛し始める。
しかしある日、ステアがアグネスを憎む理由を知ってしまい罪悪感から彼女は自死を決意する。
毒を飲んだが死にきれず、目が覚めたとき彼女の記憶はなくなっていた。
そして彼女の目の前には、今にも泣き出しそうな顔のステアがいた。
𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷
初投稿作品なので温かい目で見てくださると幸いです。
コメントくださるととっても嬉しいです!
誤字脱字報告してくださると助かります。
不定期更新です。
表紙のお借り元▼
https://www.pixiv.net/users/3524455
𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷
愛だ恋だと変化を望まない公爵令嬢がその手を取るまで
永江寧々
恋愛
聖フォンス学園──貴族の貴族による貴族のための学校。
共学だが、その他の男子生徒などまるで存在しないかのように令嬢達の心は生徒会メンバーである四人の男に向けられていた。
アリス・ベンフィールドも聖フォンス学園に通う生徒の一人であり、王子であるヴィンセル・ブラックバーンにときめく一人。
化粧も自己表現も苦手なアリスは他の令嬢たちのように自分の魅せ方を知らず、自己主張できない地味な少女。
誰からも何も受け取らない王子の“ハジメテ”になりたくて毎日のように王子を追いかける令嬢たちを遠目に見るだけで、追いかけるのは妄想の中だけ。
自分磨きを怠らない令嬢達と違ってアリスは自分磨きより妄想を趣味としていた。妄想の中では自分は誰よりも輝いているし、王子とも上手くいっている。馬車の中、部屋の中──そこだけがアリスの心のオアシスだった。
ベンフィールド公爵の娘として何不自由なく生きてきたアリスだが、そんなアリスの人生にも小さな問題はある。
それは、たった一人の親友であるティーナ・ベルフォルンがヴィンセル王子に恋をしているということ。
自分より美しく我の強い親友にある日「ヴィンセルが好きなの」と告げられ、アリスは「私も」とは言えず自分の本心を隠した。
隠し事はなしと交わした約束を破っていることを気にしていたある日、ティーナのお願いで四人に近付くキッカケができたが、仲良くなったのはヴィンセルではなく別の人物で──
ゲイ疑惑があるほど女を近付けさせない女嫌いと噂のヴィンセルとぶつかったことで急接近するアリスは王子から真実を知らされ、選んでもらえるのだが喜ぶことはできず……
地味なだけだったアリスの人生が華のある人たちとの関わりによって少しずつ変わっていく。
大食い美少年、ツンデレ幼馴染、サイコパスシスコン兄、そして嗅覚過敏王子──まだ恋をしたことがないアリスが選ぶ相手は──
これは恋か憧れか──
逆ハーレムか、逆ハーレムなので苦手な人はご注意ください。
※9/29が最終話アップとなります。
※2021年2月に投稿していたものですが、詰んでしまって放置していた物を書き直し再投稿しています。
こちらもどうぞお付き合いいただけますと幸いです。
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
【完結】王子たちに溺愛される悪役令嬢
アイアイ
恋愛
ある日、普通の現代の女子高生・藤堂美羽は突然、なぜか中世ファンタジー世界に転生してしまった。そして、自分がなんと悪役令嬢エルミラとして生まれ変わっていることを知る。
エルミラは元の記憶を持ちながら、彼女がなぜ悪役として設定されたのかを理解する。彼女の前世の記憶が役立つかと思いきや、エルミラの運命は思わぬ方向に進むことになる。
最初は周囲の人々から警戒されるエルミラだったが、彼女の明るく元気な性格が次第に王宮の人々を惹きつけていく。特に王子たちには、その魅力的な笑顔と行動力がじわじわと心を打っていった。
1人目の王子、クラウスは優しくて紳士的な性格で、エルミラに最初に親しみを示した。彼は彼女の元気さに触発され、王宮内の様々な問題にも協力してくれるようになる。
2人目の王子、レオンは冷静沈着で知識豊富な王子で、エルミラの頭の良さと度胸に惹かれていく。彼は彼女と共に政治的な問題に取り組む中で、彼女の力量を認め始める。
そして3人目の王子、アルベルトは明るく活発な性格で、エルミラとはいつも笑顔で競い合う仲になる。彼は彼女の笑顔に癒され、彼女と共に冒険に出かけることもある。
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
悪役令嬢は婚約破棄されたが諦めきれない
アイアイ
恋愛
エリザベス・ヴァルデンは、舞踏会の夜会場の中央に立っていた。煌びやかなシャンデリアの光が、彼女の黄金色の髪を一層輝かせる。しかし、その美しさの裏には、不安と緊張が隠されていた。
「エリザベス、君に話がある。」
彼女の婚約者であるハロルド・レイン伯爵が冷たい声で話しかけた。彼の青い瞳には決意が宿っている。エリザベスはその瞳に一瞬、怯えた。
「何でしょうか、ハロルド?」
彼の言葉を予感していたが、エリザベスは冷静さを保とうと努めた。
「婚約を破棄したい。」
会場中が一瞬にして静まり返った。貴族たちはささやき合い、エリザベスを一瞥する。彼女は胸の内で深呼吸し、冷静に返事をした。
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる