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【54】落ちた帝国
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「何故だ……?」
それは純粋な疑問だった。
「何故、魔人が……まだ、生きているのだ……!?」
その老人は、声を荒げる。
視線の先に映るのは、羊頭の魔人の姿だ。
「奴はあのとき、あの冒険者が始末したはずじゃ……だというのに何故!」
「陛下! これ以上留まるのは危険です! 今すぐに脱出を!」
メルがロックに『溺愛』スキルを打ち明けた頃。
ヴァントレア帝国は危機に瀕していた。
「――あぁ、愉悦が過ぎる。この景色は実に滑稽で愉快と言えるね」
その声は、羊頭の魔人が発したものだ。
帝国領土内の人間で、その台詞を耳にする者はいない。人間たちは、この魔人を討伐することはおろか、近づくことすらできずに防戦一方だからだ。
彼の名は、アヴィ・レ・ギルデオル。伯爵位の魔人だ。
モルドーラン王国で王子同士が醜く争ったかと思えば、帝国では魔物の軍勢に攻め込まれて壊滅寸前に追い込まれていた。
いったい何が起きているというのか。
最初は、ギルデオル一人が姿を現した。
自慢の帝国兵と冒険者たちに命を出し、即座にその首を獲ることを期待した。
だが、その期待は大きく裏切られることとなる。
まず一つ目。
帝国兵同士が殺し合いを始めた。
確かあのとき、あの冒険者は言っていた。
ギルデオルは死人を操る……と。
そして二つ目。
帝国領土内には、既に数百を超える魔物が潜んでいた。
何者かの手引きによって、帝国は内側から一気に崩壊させられたのだ。
その最たる原因、それこそが、アレクの母だった。
既に死人となっていたアレクの母が、秘密裏に帝国内で死人を増やし、ギルデオルの手下をそこら中に忍ばせるように仕向けていたのだ。
故に、今がある。
ギルデオルが合図をすると、魔物の軍勢が大挙して押し寄せた。帝国の内外から攻め込まれてしまっては、もはや逃げることもままならない。
「ぐっ、おのれえ……ふざけた魔人どもめが……! このワシを帝王と知っての狼藉か……ッ!!」
「陛下! 早くこちらへ! 陛下ッ!!」
兵士に扇動されて、帝王とその息子たちは我先にと逃亡を試みた。
それから僅か半日足らずで、ヴァントレア帝国は落とされた。
ギルドに立てこもり、最後まで戦い続けた冒険者たちの必死の抵抗も空しく、ギルデオルが中空から放った黒炎魔法で建物ごと燃やし尽くされてしまった。
そして結果、逃げ遅れた帝国民や冒険者たちは、ギルデオルの捕虜となった。
「……さあて、さあて」
空になった玉座に腰掛けるのは、もちろん羊頭の魔人――ギルデオルだ。
もはや歯向かう者が居なくなった帝国の中心で、彼は声も高らかに宣言し、そして嗤う。
「今日から僕が帝王だ。よろしく頼むよ、人間諸君?」
それは純粋な疑問だった。
「何故、魔人が……まだ、生きているのだ……!?」
その老人は、声を荒げる。
視線の先に映るのは、羊頭の魔人の姿だ。
「奴はあのとき、あの冒険者が始末したはずじゃ……だというのに何故!」
「陛下! これ以上留まるのは危険です! 今すぐに脱出を!」
メルがロックに『溺愛』スキルを打ち明けた頃。
ヴァントレア帝国は危機に瀕していた。
「――あぁ、愉悦が過ぎる。この景色は実に滑稽で愉快と言えるね」
その声は、羊頭の魔人が発したものだ。
帝国領土内の人間で、その台詞を耳にする者はいない。人間たちは、この魔人を討伐することはおろか、近づくことすらできずに防戦一方だからだ。
彼の名は、アヴィ・レ・ギルデオル。伯爵位の魔人だ。
モルドーラン王国で王子同士が醜く争ったかと思えば、帝国では魔物の軍勢に攻め込まれて壊滅寸前に追い込まれていた。
いったい何が起きているというのか。
最初は、ギルデオル一人が姿を現した。
自慢の帝国兵と冒険者たちに命を出し、即座にその首を獲ることを期待した。
だが、その期待は大きく裏切られることとなる。
まず一つ目。
帝国兵同士が殺し合いを始めた。
確かあのとき、あの冒険者は言っていた。
ギルデオルは死人を操る……と。
そして二つ目。
帝国領土内には、既に数百を超える魔物が潜んでいた。
何者かの手引きによって、帝国は内側から一気に崩壊させられたのだ。
その最たる原因、それこそが、アレクの母だった。
既に死人となっていたアレクの母が、秘密裏に帝国内で死人を増やし、ギルデオルの手下をそこら中に忍ばせるように仕向けていたのだ。
故に、今がある。
ギルデオルが合図をすると、魔物の軍勢が大挙して押し寄せた。帝国の内外から攻め込まれてしまっては、もはや逃げることもままならない。
「ぐっ、おのれえ……ふざけた魔人どもめが……! このワシを帝王と知っての狼藉か……ッ!!」
「陛下! 早くこちらへ! 陛下ッ!!」
兵士に扇動されて、帝王とその息子たちは我先にと逃亡を試みた。
それから僅か半日足らずで、ヴァントレア帝国は落とされた。
ギルドに立てこもり、最後まで戦い続けた冒険者たちの必死の抵抗も空しく、ギルデオルが中空から放った黒炎魔法で建物ごと燃やし尽くされてしまった。
そして結果、逃げ遅れた帝国民や冒険者たちは、ギルデオルの捕虜となった。
「……さあて、さあて」
空になった玉座に腰掛けるのは、もちろん羊頭の魔人――ギルデオルだ。
もはや歯向かう者が居なくなった帝国の中心で、彼は声も高らかに宣言し、そして嗤う。
「今日から僕が帝王だ。よろしく頼むよ、人間諸君?」
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