37 / 88
【34】メルはどこ?
しおりを挟む
王都の大広場へと、場面は変わる。
ここでは今日、マルスとメルの婚約発表が行われる予定だ。
しかし、マルスは焦っていた。
「どこだ……どこにいる? メル……お前はいったいどこに消えてしまったのだ……?」
メルの姿が、どこにも見当たらない。
王都中を王国の兵士たちが探しているが、メルの情報が一つも入ってこない。
「嘘だ、これは冗談だ、ありえない、このオレに黙って姿を消すなど絶対にありえない。きっと何者かに連れ去られたに違いない、そうだ、それが答えだ、今すぐにそいつを探して息の根を止めなければ、どこに行けば見つかる……」
延々と自問自答し、マルスはぐしゃぐしゃと両手で頭を掻き毟る。綺麗に整えていた御髪は見るも無残な状態に変わっている。
これが、メルの『溺愛』の効果だ。
一度でもメルと目を合わせてしまえば、『溺愛』から逃れることはできない。
たとえそれが一国の王子だとしても。
「ま、マルス様、そろそろお時間ですが……如何いたしましょうか」
「黙れ! 貴様……死にたいのか!」
「っ、失礼しました!」
マルスに睨まれた兵士は、すぐさまその場を立ち去る。
こんなことで殺されてしまってはたまらない。
しかしながら、幾ら待てども一向にメルは現れない。
このままでは本当にマルス一人で婚約発表をしなければならなくなる。
「くっ、くそっ、なんという無様で惨めなのだ……! これは末代までの恥だ……ッ」
何を言っても好転するわけではない。
今はとにかく、婚約発表を乗り切ることを考えるべきだろう。
「一人で……オレがメルの分まで……っ」
大広場には、既に数え切れないほどの王国民が詰めかけている。
もはや中止にすることもできないし、逃げ場もない。
たった一人で発表するしかないのだ。
「……チッ、行くぞ。オレの勇姿を見せつけてやる!」
覚悟を決めたマルスは、大広場の舞台へと上がる。
マルスが姿を現すと、耳を劈くほどの歓声がそこら中を支配した。
「――今だ、射抜け」
故に、油断していた。
それは、マルスが舞台に上がって僅か数秒のこと。
「ぐあっ」
マルスの肩に、矢が突き刺さる。
その場に倒れるマルスの姿を見て、悲鳴が上がった。
そして同時に、怒号が鳴る。
「行くぞ! 悪しき王子の首を獲れ! そして我が許にメルを取り戻すのだ!!」
声を上げて宣言するのは、第二王子のエリック・モルドーラン。
彼は今から反乱を起こす。
そんな彼も、マルスと同じく『溺愛』によって我を忘れているのだった。
ここでは今日、マルスとメルの婚約発表が行われる予定だ。
しかし、マルスは焦っていた。
「どこだ……どこにいる? メル……お前はいったいどこに消えてしまったのだ……?」
メルの姿が、どこにも見当たらない。
王都中を王国の兵士たちが探しているが、メルの情報が一つも入ってこない。
「嘘だ、これは冗談だ、ありえない、このオレに黙って姿を消すなど絶対にありえない。きっと何者かに連れ去られたに違いない、そうだ、それが答えだ、今すぐにそいつを探して息の根を止めなければ、どこに行けば見つかる……」
延々と自問自答し、マルスはぐしゃぐしゃと両手で頭を掻き毟る。綺麗に整えていた御髪は見るも無残な状態に変わっている。
これが、メルの『溺愛』の効果だ。
一度でもメルと目を合わせてしまえば、『溺愛』から逃れることはできない。
たとえそれが一国の王子だとしても。
「ま、マルス様、そろそろお時間ですが……如何いたしましょうか」
「黙れ! 貴様……死にたいのか!」
「っ、失礼しました!」
マルスに睨まれた兵士は、すぐさまその場を立ち去る。
こんなことで殺されてしまってはたまらない。
しかしながら、幾ら待てども一向にメルは現れない。
このままでは本当にマルス一人で婚約発表をしなければならなくなる。
「くっ、くそっ、なんという無様で惨めなのだ……! これは末代までの恥だ……ッ」
何を言っても好転するわけではない。
今はとにかく、婚約発表を乗り切ることを考えるべきだろう。
「一人で……オレがメルの分まで……っ」
大広場には、既に数え切れないほどの王国民が詰めかけている。
もはや中止にすることもできないし、逃げ場もない。
たった一人で発表するしかないのだ。
「……チッ、行くぞ。オレの勇姿を見せつけてやる!」
覚悟を決めたマルスは、大広場の舞台へと上がる。
マルスが姿を現すと、耳を劈くほどの歓声がそこら中を支配した。
「――今だ、射抜け」
故に、油断していた。
それは、マルスが舞台に上がって僅か数秒のこと。
「ぐあっ」
マルスの肩に、矢が突き刺さる。
その場に倒れるマルスの姿を見て、悲鳴が上がった。
そして同時に、怒号が鳴る。
「行くぞ! 悪しき王子の首を獲れ! そして我が許にメルを取り戻すのだ!!」
声を上げて宣言するのは、第二王子のエリック・モルドーラン。
彼は今から反乱を起こす。
そんな彼も、マルスと同じく『溺愛』によって我を忘れているのだった。
3
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
無実の罪で国外追放された侯爵令嬢は、隣国の王子に助けられました。
木山楽斗
恋愛
ミルトナ・ルーティルスは、とある王国に暮らす侯爵令嬢である。
彼女は、婚約者であった第四王子の策略により、殺人の罪を被さられ、国外追放されてしまった。
そんな彼女に、手を差し伸べてくる者がいた。それは、隣国の第三王子のアドナス・フォルベインである。
アドナスは、ミルトナを自身の屋敷に保護して、事件の真相を解き明かすことに協力してくれると言ってきたのだ。その提案を、ミルトナは受け入れさせてもらった。
こうして、アドナスによってミルトナの無実は証明されることになるのだった。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!
らんか
恋愛
あれ?
何で私が悪役令嬢に転生してるの?
えっ!
しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!
国外追放かぁ。
娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。
そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。
愛し子って、私が!?
普通はヒロインの役目じゃないの!?
婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。
全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。
言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。
食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。
アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。
その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。
幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。
ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。
ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」
ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」
ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」
聞こえてくる声は今日もあの方のお話。
「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16)
自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる