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【26】形だけの仲間たち

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 冒険者ギルドでアレクと言葉を交わしたあと、ロックは宿へと戻っていた。
 ロックと三兄弟のために、帝王自ら指定した高級宿は、豪華絢爛という言葉がよく似合っていた。

「おい、ロック。お前今の今までどこほっつき歩いてた」

 ロックがギルドを訪れている間にパーティーは幕を閉じていたらしい。
 三兄弟は先に宿へと戻って寛いでいた。

「街をぶらついてただけだ」

 ビビデに問われて、面倒くさそうに答える。

「ったく、俺様の顔に泥を塗る気か? 帝王がお前を探し回ってたんだぞ」
「俺があの場に居ても何の役にも立たないだろ。だから気を利かせたまでだ」

 お偉いさんのご機嫌取りをするような性格ではない。
 ロックは他人に心を開かないので、もし帝王と会話することになっても詰まらなそうにしていたことだろう。

 すると、今度はバビデが口を開いた。

「ふうん? どうせパーティーがめんどくさくて抜け出しただけでしょ?」
「否定はしない」
「ほらぁ、やっぱり」

 指摘が当たり、バビデはケラケラと笑う。

「最後までいればよかったのになあ? デザートすっごいうまかったんだぞ?」
「ロックの代わりにあんたがぜーんぶ食べたんだもんねぇ?」

 三番目に声をかけるのは、一番下のブーだ。
 弓使いのビビデに、魔法使いのバビデ、そして巨漢のブー。
 ビビデ・バビデ・ブーの三兄弟――彼らがロックの冒険仲間だった。

「俺の役目は魔物を倒すことだけだ。それ以外は頼るな」
「チッ、相変わらず人付き合いが悪い男だな」

 ロックの台詞にビビデが舌打ちをする。
 しかしそれ以上文句を言うことはない。ロックのことを深く詮索はしなかった。

 形式上仲間として行動を共にしているが、三兄弟はロックと仲が良いわけではない。
 初めは三兄弟だけで活動していた。

 当時、既に頭角を現し始めていたロックに目を付けたビビデは、彼を強引に仲間として引き入れた。それからあっという間に数年が過ぎ去り、現在では魔人討伐を果たした英雄パーティーとして名を馳せるまでに成長していた。

 そう、三兄弟とロックは、ただそれだけの関係なのだ。

「ねえねえ、帝国でも魔人を倒しちゃったらさぁ、いよいよ次は魔王なんじゃないの?」

 バビデが興奮気味に語りかける。
 すると、ビビデとブーも同意する。

「ああ。当然そのつもりだ。俺様たちが力を合わせれば、どこの誰よりも強い。となれば、自ずと魔王討伐の機会も訪れるだろう」
「魔王を倒したらよぉ、うめえもん食い放題になるかなぁ?」
「なるなるぅ、それどころか誰もあたしたちに逆らえなくなるんじゃないのぉ」

 談笑する三兄弟と、会話に入ろうとしないロック。

「先に休む」

 そう言って、ロックは自分の部屋へと戻っていく。
 そして、その背を見送った三兄弟は……顔から笑みが消えた。

「……当初の予定通り、ことを進める。構わんな」
「ええ、問題ないわ」
「おいらも異議なしだ」

 真面目なトーンで互いの意思を確認し合う。
 話題の種は、今し方までここにいた仲間のことだ。

「魔人討伐を果たしたあと、ロックには死んでもらう」

 ビビデが言う。
 三兄弟は四つ星の冒険者だ。その実力も星の数に相応しく、魔人を相手に何度も戦ったことがある。

 しかし、王国領土で伯爵位の魔人と対峙し、その首を獲ったとき、戦力として役に立ったのはロックただ一人だけだった。

 どのようにして魔人討伐を果たしたのか、詳しく説明する義務はない。
 故に、ロックと三兄弟の他に、真実を知る者はいなかった。

 三兄弟はそれでいいと思っていた。
 四つ星の冒険者として称賛されるのは気分がいいし、ロックがいなければ、どの魔人を相手にしても倒すことができたか否か、今でも判断が付かない。

 だが、見逃せない問題が発生した。
 伯爵位の魔人を討伐したあと、ロックだけが五つ星に昇格したのだ。

 許せない。
 断じて許すことができない。

 何故、ロックだけが英雄の名を手にしているのだ。
 何故、ロックと共に魔人を倒した自分たちは四つ星のままなのだ。
 それが我慢ならなかった。

 その結果が、これだ。

「魔人の首を獲ったあと、隙を突いて奴を殺す」

 三兄弟はロックを殺し、魔人討伐の手柄を自分たちだけのものとする腹積もりだ。
 そうすれば、次は自分たちが五つ星になるはずだと確信している。

「この旅を以って、英雄ロック・クオールの物語は幕引きとなる」

 その台詞は、夜の闇に同化して消えた。
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