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【17】禁呪

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 ロックにお姫様抱っこをされたまま、空の旅を暫く堪能したあと、わたしは地に足を付けて一息吐く。そしてすぐさま抗議の声を上げる。

「急すぎるでしょ!」
「なにがだ」
「空よ! 幾ら何でも説明が少なすぎるわ!」
「なんだ、落ちると思って怖かったのか」
「違うから! そうじゃなくて、そのっ、……もう!」

 はあぁ、と深いため息を吐いた。
 お姫様抱っこのことは、一先ず置いておこう。それよりも何よりも言いたいことがある。

「……ロック。貴方ね、空を飛べるなら最初から教えてなさいよね」

 ロックが魔法で空を飛べると知っていたなら、あんなに悩むことなく、もっと簡単に王都の外に抜け出すことができたはずだ。
 勿体ぶって、わたしを驚かせたかったのだろうか。

 そう考えて、しかしすぐに察した。

「ねえ、もしかして……空を飛ぶのって、魔力の消費量が多いの? だからギリギリまで使わなかったとか……」
「それは違う」
「じゃあなんでよ!」

 違うのかっ、と心の中で叫んでしまう。

「単純だが、使えることを隠しておきたかっただけだ」
「隠すって……どうしてよ」
「知らないのか? 飛行魔法は禁呪の一種だぞ」
「禁呪……」

 あらためて、ロックが説明してくれる。

 飛行魔法に関しては、これまでに一度も王国内で使ったことがないらしい。それもそのはず、飛行魔法は禁忌魔法の一つに指定されていて、もし使えば問答無用で死罪になる。
 だから、ロックは今の今まで飛行魔法を使えることを秘密にしていたのだ。

 と言いつつも、帝国にいた頃、ロックは大勢の前で飛行魔法を使ったことがあるらしく、使うときは普通に使うと付け加えた。

「……バレたら死罪なのに、どうして使ってくれたの」

 帝国はともかく、王国ではまだ知られていないはずだ。
 それなのに何故、危険を顧みずに飛行魔法を使ったのか。

「俺はな、一度引き受けた依頼は絶対に達成すると決めているんだよ」
「そっかぁ。ロックは冒険者の鑑ね」
「馬鹿か。……あとついでに言うと、お前が諦めるとか言うからだ」

 籠の中で大人しく生きていく。
 そんなことを依頼主に言われたから、ロックは覚悟を決めたのかもしれない。

「……うん。やっぱり貴方に依頼して正解だったわ」
「勝手に言ってろ」

 ふふっと笑う。
 とここで、ふと思い出す。

 そう言えば、ロックは帝国に渡ったあと、魔人との戦闘で左足を失っていた。
 引き受けた依頼は絶対に達成すると言ったけど、魔人討伐はできたのだろうか。

「……メル。お前の考えてることぐらい、すぐに分かるぞ」
「なんのこと?」
「この足のことだろ」
「うぐっ」

 さすがに鋭い。
 わたしの表情の変化や目線を観察して、そのことに気付いたのだろう。

「さっきも言ったことだが、俺は絶対に依頼を失敗しない。それはあの魔人の討伐依頼に関しても同じことだ」

 ゆっくりと歩きながら、ロックはあの日のことを思い出す。
 そして、依頼主であるわたしに向けて語り始めた。
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