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【19】登録申請
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「御機嫌よう。この依頼を受けてもいいかしら」
「……あ、はい! ようこそ、ガルモールの冒険者ギルドへ! ええっと……行商隊の護衛依頼ですね?」
依頼書を手に、エナは受付の列に並んだ。
自分の番が来ると、対応してくれる受付嬢に声をかけ、お辞儀をしてみせる。それが珍しく映ったのだろうか、受付嬢は一瞬間が開いたが、すぐに気を取り直す。
「畏まりました。それでは冒険者証を拝見させていただきます」
「? 依頼を受けるのに、何か必要なの?」
「? え、えっと……あの、冒険者の方ですよね?」
エナが小首を傾げて問いかけると、受付嬢は眉を潜める。
「ええそうだけど」
「でしたら冒険者証をご提示ください」
「冒険者証……持ってないのよね」
「? あの、もしかして新人の方ですか? 冒険者登録がまだとか……」
目を細め、受付嬢がエナの姿を観察する。
訝しんでいるのだろう。堂々と受付の列に並び、依頼を受けに来たというのに、冒険者証を持っていないのだから当然だ。
「あら、ごめんなさい。依頼を受けるには登録が必要だったのね?」
「やはり未登録の方でしたか」
エナの台詞に、受付嬢は納得の表情を浮かべる。
たまに来ることがあるのだろう。受付嬢はニコリと微笑み、エナと目を合わせた。
「ギルドより発注された依頼を受注するには、私たちに冒険者証を提示していただく必要がございますが……今ここで登録申請なさいますか?」
「ええ、お願いできるかしら」
「ありがとうございます。では形式的なものですが、冒険者の登録申請に際する規約を説明させていただきますね」
冒険者になりたい者は受付で登録申請し、ギルドに属する証として名前の入ったタグを受け取る。それが冒険者証の役割を果たす。
タグには金、銀、銅、鉄の四種類が存在し、それぞれ階級を示している。
階級が高ければ高いほど、危険度の高い依頼を受けること可能となり、一度に大きく稼ぐこともできるようになる。逆に階級が低い冒険者は、己の階級に見合った依頼しか引き受けることができない。
「それではタグに名入れの刻印をしますので、貴女のお名前をお教えください」
「わたしの名前……」
ギルドで冒険者として登録申請するためには、名前を教える必要がある。
名前を知られるのはまずいだろうか。
いや、別に犯罪者というわけでもないし、どうせすぐにここを発つから問題ない。
「エナ・ローリアよ」
そう考えたエナは、受付嬢に名前を伝える。
ローリア家は既に取り潰されたが、その情報がギルドに届くのはまだ先のことだ。
「エナ・ローリア様ですね? ――はい、これで登録完了となります」
お疲れさまでした、と一言付け加え、受付嬢がタグを手渡す。
そこにはしっかりとエナ・ローリアの名が刻印されてあった。
「それでは改めまして、先ほどの護衛依頼の件ですが……」
「おいおい、冒険者に成り立ての奴に護衛が務まると思ってんのかよ」
登録申請を終えたのも束の間、エナと受付嬢の間に何者かが口を挟んできた。
一つため息を吐いたあと、面倒くさそうに振り向く。
するとそこには、ギルドの入口にたむろしていた男が立っていた。
「よお、さっきは世話になったな。無視してくれたお礼に、ちょっとツラ貸しな」
「それはおあいにく様。貴方に貸すにはわたしの顔は勿体なすぎるわ」
「っ、てめえ……!」
エナの言葉を耳にして、男が剣を抜く。
と同時に、建物内にいる人たちの視線が一斉に向いた。
「ちょっ、お止めください! ギルド内での喧嘩はご法度ですよ!」
「安心しな! これは喧嘩じゃなくて新人教育ってやつだからよ!」
受付嬢が止めに入るが、それに従うつもりはないらしい。
男は剣先をエナに向け、口角を上げる。
「わたしね、注目を浴びるのは好きじゃないの。だから大人しくそれを収めなさい」
「バカか! そうして欲しかったら今すぐ土下座しろ! 俺たちをコケにしてタダで済むと思ってんじゃねえぞ!」
よく見れば、男の背後には仲間たちの姿もあった。
ニヤニヤと笑いながら二人のやり取りを眺めている。
「……はぁ、厄日ってまだ続いてるみたいね」
「ああ? なにを訳分かんねえことごちゃごちゃ言って――」
「いいわ、口で言っても分からないみたいだから、体に直接教えてあげる」
そう言って、エナは薄く笑う。
その瞳は冷たさを保ち、真っ直ぐに男を見据えていた。
「……あ、はい! ようこそ、ガルモールの冒険者ギルドへ! ええっと……行商隊の護衛依頼ですね?」
依頼書を手に、エナは受付の列に並んだ。
自分の番が来ると、対応してくれる受付嬢に声をかけ、お辞儀をしてみせる。それが珍しく映ったのだろうか、受付嬢は一瞬間が開いたが、すぐに気を取り直す。
「畏まりました。それでは冒険者証を拝見させていただきます」
「? 依頼を受けるのに、何か必要なの?」
「? え、えっと……あの、冒険者の方ですよね?」
エナが小首を傾げて問いかけると、受付嬢は眉を潜める。
「ええそうだけど」
「でしたら冒険者証をご提示ください」
「冒険者証……持ってないのよね」
「? あの、もしかして新人の方ですか? 冒険者登録がまだとか……」
目を細め、受付嬢がエナの姿を観察する。
訝しんでいるのだろう。堂々と受付の列に並び、依頼を受けに来たというのに、冒険者証を持っていないのだから当然だ。
「あら、ごめんなさい。依頼を受けるには登録が必要だったのね?」
「やはり未登録の方でしたか」
エナの台詞に、受付嬢は納得の表情を浮かべる。
たまに来ることがあるのだろう。受付嬢はニコリと微笑み、エナと目を合わせた。
「ギルドより発注された依頼を受注するには、私たちに冒険者証を提示していただく必要がございますが……今ここで登録申請なさいますか?」
「ええ、お願いできるかしら」
「ありがとうございます。では形式的なものですが、冒険者の登録申請に際する規約を説明させていただきますね」
冒険者になりたい者は受付で登録申請し、ギルドに属する証として名前の入ったタグを受け取る。それが冒険者証の役割を果たす。
タグには金、銀、銅、鉄の四種類が存在し、それぞれ階級を示している。
階級が高ければ高いほど、危険度の高い依頼を受けること可能となり、一度に大きく稼ぐこともできるようになる。逆に階級が低い冒険者は、己の階級に見合った依頼しか引き受けることができない。
「それではタグに名入れの刻印をしますので、貴女のお名前をお教えください」
「わたしの名前……」
ギルドで冒険者として登録申請するためには、名前を教える必要がある。
名前を知られるのはまずいだろうか。
いや、別に犯罪者というわけでもないし、どうせすぐにここを発つから問題ない。
「エナ・ローリアよ」
そう考えたエナは、受付嬢に名前を伝える。
ローリア家は既に取り潰されたが、その情報がギルドに届くのはまだ先のことだ。
「エナ・ローリア様ですね? ――はい、これで登録完了となります」
お疲れさまでした、と一言付け加え、受付嬢がタグを手渡す。
そこにはしっかりとエナ・ローリアの名が刻印されてあった。
「それでは改めまして、先ほどの護衛依頼の件ですが……」
「おいおい、冒険者に成り立ての奴に護衛が務まると思ってんのかよ」
登録申請を終えたのも束の間、エナと受付嬢の間に何者かが口を挟んできた。
一つため息を吐いたあと、面倒くさそうに振り向く。
するとそこには、ギルドの入口にたむろしていた男が立っていた。
「よお、さっきは世話になったな。無視してくれたお礼に、ちょっとツラ貸しな」
「それはおあいにく様。貴方に貸すにはわたしの顔は勿体なすぎるわ」
「っ、てめえ……!」
エナの言葉を耳にして、男が剣を抜く。
と同時に、建物内にいる人たちの視線が一斉に向いた。
「ちょっ、お止めください! ギルド内での喧嘩はご法度ですよ!」
「安心しな! これは喧嘩じゃなくて新人教育ってやつだからよ!」
受付嬢が止めに入るが、それに従うつもりはないらしい。
男は剣先をエナに向け、口角を上げる。
「わたしね、注目を浴びるのは好きじゃないの。だから大人しくそれを収めなさい」
「バカか! そうして欲しかったら今すぐ土下座しろ! 俺たちをコケにしてタダで済むと思ってんじゃねえぞ!」
よく見れば、男の背後には仲間たちの姿もあった。
ニヤニヤと笑いながら二人のやり取りを眺めている。
「……はぁ、厄日ってまだ続いてるみたいね」
「ああ? なにを訳分かんねえことごちゃごちゃ言って――」
「いいわ、口で言っても分からないみたいだから、体に直接教えてあげる」
そう言って、エナは薄く笑う。
その瞳は冷たさを保ち、真っ直ぐに男を見据えていた。
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