上 下
18 / 22

【17】地獄帝国

しおりを挟む
「おじ様、冒険者ギルドの場所を教えてくださらない?」
「なんだあんた、冒険者か? ……いや、冒険者になりたいのか?」
「ええ、お金を稼ごうと思って」

 屋台でご飯を食べながら、エナは店主に冒険者ギルドまでの行き方を尋ねる。

「ふん、お金をねえ……あんた一人旅だろ?」

 すると、店主はエナの姿をじっくりと観察していく。
 冒険者になりたいと言う者は、星の数ほど存在する。その中には老人や小さな子供もいる。だからエナが冒険者になりたいというのを止めるようなことはしない。だが、

「ギルドは、あっちに真っ直ぐ進めば見えてくる。……ただ、ソロは危ないぞ。魔物退治の依頼を受けたいなら、パーティーを組んでから挑むんだな」

 店主なりの優しさなのだろう。
 新人冒険者が夢破れることがないようにと、エナに忠告する。

「ソロじゃなくて、パーティーね……それもいいアイディアだと思うけど、ここに長居するつもりはないから」
「長居しないって、まさか帝国にでも行くつもりか?」
「感が良いのね」

 冗談で帝国の名を出した店主は、エナが肯定したことで顔を引きつらせる。
 まさか本当に帝国を目指しているとは思ってもみなかったのだろう。

「おいおい、あんた一人で帝国に行くのか? あんなクソみたいなところに行っても、あんたじゃ絶対に生きていけないぞ……」
「帝国って、そんなに大変なところなの?」
「大変なんてもんじゃない、あそこは地獄だ」

 エナの疑問に、店主が口を動かす。
 同時に、その表情は苦虫を嚙み潰したように変化する。

「帝国は、いわゆる軍隊国家だ。力ある者が優先され、無き者は差別される。王国大陸のように、平民が平和に暮らすことなんてできないんだよ。だからな、俺たち王国民からは“地獄帝国”って呼ばれてる」
「地獄帝国ね……。案外、帝国も住み難そう」

 とはいえ、国外追放処分となったエナには、王国大陸に居場所がない。たとえ帝国大陸が地獄のようなところだったとしても、行き先を変える選択肢はなかった。

「まあ、どうしても行くつもりなら、せめて死なないぐらい強くなってから行くんだな。それか、ソロを止めてパーティーを組むことだ」
「わたし最近、人のことをあまり信用できなくなったのよね。だからソロの方が気楽なんだけど」
「だとしてもだ。ソロで活動する間は野草を取ったり、ドブ拾いで小銭を稼げばいい。もっと稼いで帝国に行きたいなら、パーティー必須だ」

 パーティーを組むことで、ソロでは太刀打ちできない魔物と戦うこともできるようになる。それに危険と隣り合わせの冒険者にとって、背中を任せることができるのはありがたい。

「まあ、命あってのものだからな。仮に魔物と出くわして、危ないと思ったらすぐに逃げることだ」
「助言に感謝するわ」

 店主と言葉を交わしつつもご飯をしっかりと平らげ、空腹が満たされた。
 お礼を口にしたあと、エナはその足で冒険者ギルドへと向かうことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無実の令嬢と魔法使いは今日も地味に骨折を治す

月山 歩
恋愛
舞踏会の夜、階段の踊り場である女性が階段を転げ落ちた。キャロライナは突き落としたと疑いをかけられて、牢へ入れられる。家族にも、婚約者にも見放され、一生幽閉の危機を、助けてくれたのは、見知らぬ魔法使いで、共に彼の国へ。彼の魔法とキャロライナのギフトを使い、人助けすることで、二人の仲は深まっていく。

婚約者を奪った友人に復讐します

あんみつ豆腐
恋愛
友人のアリシアに婚約者のアレックスを奪われたエレノア。 彼女はアリシアの目的に気が付き、彼女からアレックスを取り戻す決意をする。

妹が約束を破ったので、もう借金の肩代わりはやめます

なかの豹吏
恋愛
  「わたしも好きだけど……いいよ、姉さんに譲ってあげる」  双子の妹のステラリアはそう言った。  幼なじみのリオネル、わたしはずっと好きだった。 妹もそうだと思ってたから、この時は本当に嬉しかった。  なのに、王子と婚約したステラリアは、王子妃教育に耐えきれずに家に帰ってきた。 そして、 「やっぱり女は初恋を追うものよね、姉さんはこんな身体だし、わたし、リオネルの妻になるわっ!」  なんて、身勝手な事を言ってきたのだった。 ※この作品は他サイトにも掲載されています。

或る実験の記録

フロイライン
BL
謎の誘拐事件が多発する中、新人警官の吉岡直紀は、犯人グループの車を発見したが、自身も捕まり拉致されてしまう。

引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?

リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。 誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生! まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か! ──なんて思っていたのも今は昔。 40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。 このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。 その子が俺のことを「パパ」と呼んで!? ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。 頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな! これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。 その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか? そして本当に勇者の子供なのだろうか?

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

処理中です...