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【7】国外追放

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 ロドの訴えは、実に分かりやすいものだった。
 此度の件でエナに科せられた数々の罪を、全てロドが引き受けるというものだ。

 当然、何の見返りも無しにそれを受け入れるほど、国王も甘くはない。
 故に、ロドは爵位剥奪に加えて、ローリア家の取り潰しと、それに伴い全財産を差し出すと訴えた。

 エナはまだ若く、自分とは違って未来ある人間だ。だからもう一度だけ、真っ当に生きる機会と慈悲を与えてほしいと。

 この願いが意味するものは、二つ。

 一つは、エナを助けるためのもの。
 たとえ全てを差し出すことになろうとも、娘を守ることができればそれでいい。ロドにとって、エナはたった一人の家族であり、何物にも代えることのできない大切な存在なのだ。

 そしてもう一つは、国王を試すもの。
 たとえカルデの矛を収めることができなくとも、異世界転生者のわがままに振り回されたままでいいのかと、王国民の一人として疑問を投げかけたのだ。

 ロドは国王に対し、カルデの言いなりになるような器ではないはずだと、暗に訴えている。

 それを理解しているのだろう。
 国王もまた、苦渋の選択を迫られている。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ? あたしが言ったことを無視して話を進めるつもりじゃないでしょうね? そんなの絶対に許さないんだけど?」

 勝手に話をまとめられてはたまらないと、カルデが再び口を挟んでくる。

「この国で何かしたければ、まずはあたしを通しなさい! それが無理だって言うなら、この国から出て行きなさいっての!」

 この場の誰よりも、カルデは権力を持っている。己の主張を強引に捻じ込むことができる。
 それこそが、異世界転生者として生きるカルデに与えられた特権だ。

 だから口答えは許さない、自分がこの国の法なのだと主張する。

 一方、様子を窺っていた宰相が国王へと目を向けるが、意に介していないのだろう。国王は小さく咳払いしたあと、ゆっくりと口を開く。

「ふむ、ロド・ローリアよ、其方の言い分も尤もと言える。故に、罪状を一部変更するものとする」
「はあっ? 変更って、あたしが許可すると思ってるわけ!?」

 カルデが声を上げるが、宰相が手で制する。
 妙案が浮かんだのだろう。国王の瞳には強さが見えている。
 そしてそれは、カルデの発言が元となっていた。

「エナ・ローリア、面を上げよ」
「はい」

 父の懇願に顔を伏せ、己の無力さと父の愛を実感していたエナは、国王に促されて顔を上げる。そして真っ直ぐに目を合わせる。

 罪状の一部変更がもたらすもの。
 それは、エナの運命を大きく変えるものとなる。

「――エナ・ローリア、其の方を国外追放処分とする」
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