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奥の間
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田舎のいい所は、とにかく土地が有り余っているところだと紗雪は思った。
市街地を抜けると広がる、見渡す限りの田園地帯。今の時期、すくすくと伸びた稲がまるで緑の海のように、風にその身を揺らめかせている。遮るものの何ひとつないあぜ道で、紗雪の白いスカーフや着ている紺のセーラー服も、風にあおられはためいた。
思わず長い髪とスカートの裾を押さえる。
とかくこのあたりの人間は、隣人の振る舞いに口喧しい。
特に紗雪のような家の娘が、少しでも淫らな行動を取れば村中総出で一体何を言われるやら。
それを思うと、黒目がちな紗雪の瞳が暗い翳りを宿した。
ざわざわと笹同士が擦れあう葉擦れの音と青い香りを嗅ぎながら、竹林を抜けるとその先に紗雪の家はある。
戦前は豪農と呼ばれていたらしい豪奢な家屋は、今では県の文化財に指定され、館の一部は観光客向けに解放されて見学なども受け付けている。
今現在住んでいる家は、敷地内の別の場所に建てられたこじんまりとした現代的な一軒家に過ぎない。
つまり、過去の栄光はあれど今ではおよそ較べる程のものなどないにもかかわらず、祖父母や両親、村内の大人たちの心の中には何十年経っても『名家』という呪詛に近い思いが刻み込まれている。
紗雪は名家の娘としての在り方を産まれた時から期待され、それはふたつ上の兄もまた同じで、兄は長男だからこそ余計に閉鎖的な地域特有の『男であること』に縛られていた。
そして彼は、その期待に十分応えうるほどに優秀だった。
だが、そのことがこの子どもたちの不幸をより深刻なものにしてゆくことに、大人たちは誰も気づかなかった。
紗雪は生まれ育ったこの土地の自然を愛していたが、自分を取り巻く環境には心底うんざりしていた。
ただひとり、兄の存在を除いて。
小さい頃に抱いていたのは単に家族として兄を慕う感情に過ぎなかったが、身体が成長するにつれ、それはいつの間にか単なる好意と呼ぶには相応しくないものへと変化していった。
彼は眉目秀麗で、村内や学校で顔を合わす男子たちとは全く異なっているように見えた。
そして彼は、自分と同じ運命を担う妹に対し、いつも優しかった。
紗雪自身も色が抜けるように白く、整った顔立ちをしており、彼女の抱える愁いがその美貌に拍車をかけた。
男たちは誰もが彼女に目を向けたが、紗雪の心のなかにいるのは兄の修一ただ一人だった。
世間の目から隠れたくなった時、紗雪はこの、農村には似つかわしくないほど巨大な邸宅にこっそり忍び込むのが常だった。
見つかれば叱られるのはわかっていたが、館の内側は迷路のように入り組んだ廊下と様々な用途に分けられた部屋で構成されており、一般公開されている表座敷から離れ、『奥』と呼ばれる家族や使用人たちが使っていた空間に潜りこんでしまえば、たとえ家族といえどそう簡単には見つからない。
巨大な門の脇にある通用口にかかっている閂を、いつも隠し持っている合鍵で外すと、木戸を開けてそのまま庭を通り館の裏へとまわる。
まだ空は明るいがひとっこひとりいない。
あたりを見回し、土間に通じる勝手口からスルリと中へ忍び込んだ。
木戸の隙間から射し込む日の光のなか、きらきらと埃が舞い踊る。空気は湿気ていてカビ臭く、表座敷の他人を迎え入れるための空間とは雲泥の差だ。
背後にはかまどが並び、床に朽ちかけたザルなどが放置されている。
知らぬ者には不気味でしかない光景も、紗雪にとっては見慣れたもので。
躊躇なく土間を抜け、広い板の間へとあがりこむ。過去にはここでたくさんの使用人たちが食事の支度などをしていたに違いない。
片隅に隠しておいた懐中電灯を取ると、引き戸を開け学生鞄を片手に奥の間を目指した。
彼女のお気に入りの場所へと。
その部屋は、細い細い廊下の奥に位置していた。広さは四畳半ほど。襖を開ければ一応床の間らしきものなどもありはするが、家族の中でもそれほど地位の高い者が使っていたとは考えにくい。
土壁には天井近くに朱に塗られた丸い格子窓が嵌められ、障子紙を通して外の光を感じ取ることができる。
何か曰くありげな妖しい空気を纏ったこの部屋が彼女のお気に入りだった。
部屋のすみに古ぼけた鏡台がポツンと置かれている。ささくれた畳に肌を傷つけられないよう、座布団を引き寄せると鏡台を覆う布を取り去った。
鏡の位置を斜め前に倒し、床が映るよう調整する。彼女が今からここで始めることは、性の饗宴だった。誰にも見られず知られることもない、本当の紗雪自身の解放。
それこそが、彼女が最も望んでいることで。
紺サージのプリーツスカートはそのままに、白いショーツを脱ぎ捨て部屋の隅へぽいと放る。鏡の下に潜りこむように寝転がると、腰の下へ座布団を敷きこむ。
そして、大きくM字に太ももを開いた。
鏡の中には薄闇に浮かぶ白い肢体、はしたない格好でねだるように突き出された靴下を履いたままの下半身があられもなく映っている。
紗雪は熱を持った目で自分の姿を見つめると、二度三度ともの欲しげに腰をくねらせた。
ほんのり茂った黒い陰毛と、充血しつつある大陰唇のコントラストがひどく卑猥だ。
紗雪の唇から言葉が零れた。
「お兄ちゃん…」
鏡から目は離さないまま、頭もとに置いておいた鞄の中を掻き回しメンソールタイプのリップクリームを取り出す。
投げ捨てるように蓋を外し、繰り出した白い棒状の先端を、震える指で勃起したクリトリスに押しつけた。
「は……!!」
そのままぐりぐりと塗り拡げてゆく。
リップクリーム自身の感触に加え、メンソールのスースーした強い刺激がクリトリスを中心にじわじわと染み渡り、紗雪は左手を伸ばすと大陰唇を片手で押し開き、人差し指でクリトリスの包皮を剥くと剥き出しのそこを何度もリップクリームの先でノックした。
「あ!あっあっあっ!!!」
声が抑えられない。
こんなところを見つかったら。
もしお兄ちゃんに見つけられてしまったら。
「お兄ちゃん、紗雪のここ、もっとくりくりしてぇ…」
普段はけして口にしないようなはしたない言葉も、この場所でなら言えてしまう。
鏡の中で身悶えする少女の姿は、誰はばかることもなく美しかった。
彼女がリップクリームでオナニーしているなど、一体誰が想像するだろうか。
溢れた愛液とリップクリームでテラテラ濡れ光る己の性器を凝視しながら、自慰に耽る彼女に一度目の限界が訪れようとしていた。
「やだ、やだやだイッちゃう…!!」
自分の行為に性急に高められ、腰を何度も震わせたかと思うと、リップクリームを激しく陰核に擦りつけながら、甲高い声をあげて紗雪は大きく足を拡げ身を震わせた。
「あ、あ、あーーーーー!!!」
濡れそぼった性器も恥ずかしいイキ顔も、なにもかもを鏡に映しこみながら。
力を失った下肢にじんわり滲んた汗が光る。
空気の逃げ場のない澱んだ室内に、紗雪の甘い体臭とメンソールと愛液の入り交じったなんともいえない匂いが漂う。
今誰かがもしも室内に入ってきたとしたら、たとえこの姿を見られなくとも、匂いだけで何をしていたかバレてしまうに違いない。
紗雪は長いまつ毛を震わせて、二三度瞬きをした。この部屋でオナニーをする時は、限界までやるときめている。イキすぎて気を失ってしまうこともあるくらいだ。
だって、家では声を殺してしか出来ない。
こんなに奔放に自分をさらけ出せないし、兄の名を呼んだりもできない。
もし、自分がこんなあられもない姿でいるところを兄に見られたとしたら、軽蔑されるだろうか。それとも、自分に性的関心を抱いてくれたりするだろうか?
体の奥底からぞわりとした感覚が這い戻ってくる。
愛液は会陰を伝い、肛門を濡らしてプリーツスカートにシミを作っていた。体を起こすと肌と布地の間で愛液が糸を引く。本気でイッた証のように、糸は細く長く引いて蜘蛛の糸のようにふわふわと宙を漂った。
思いきり達したせいか、腫れぼったい大陰唇を感じながら、紗雪はスカートを脱ぎ捨てると鏡にお尻を向けて膝をつき、腰を高くあげる。アクロバティックな姿勢で鏡に目をやると、尻たぶの隙間からちらりと覗くアナルとぷっくり膨らんだ大陰唇小陰唇、そして紅色のクリトリスがはっきり映っていた。
不意にもっと小さな頃、紗雪がひとりで性器に悪戯をしているところを母に見つかり、和室で母が『おさね』と呼ぶところへお灸を据えられかけたのを思い出した。母の後ろには何故か兄がいて、必死で止めようとしてくれたことを思い出す。腰の下に座布団をふたつに折り曲げられたものと、オムツがわりのバスタオルをあてられ、そのうえで赤ん坊がオムツ替えをするような体勢を取らされて足を大きくひらかれた。
謝っても謝っても許して貰えず、モグサを塊にしたものが陰核の上に盛られ、線香であわや火をつけられそうになった時、紗雪は恐怖のあまり
バスタオルに盛大におしっこを漏らしてしまい、それでなんとかおしおきを許してもらったのだ。
あの時、兄の修一は妹の足の間から噴き出す黄色い液体に、何かを思ったのか…。
頭の中であの時の情景を何度も何度も反芻するうち、ブラジャーの内側で乳首が固く尖ってくるのを紗雪は感じた。
リップクリームに手を伸ばし、今度はそれを丹念にアナルに塗りつける。
体温で柔らかくなったリップクリームを肛門のへりへ何度も何度も塗りこめ、やがてゆっくりと内側への出し入れを繰り返す。
これが兄の手によるお仕置だったら。
あの生真面目な兄がこんなことをしてくれるとはとても思えないが、いやらしい妹を見つけたらお尻くらい叩かれるかもしれない。
いや、あの時みたく足を広げさせられてお灸を据えられるかも…。
想像力は頭の中でどんどん咲き乱れ、アナルからは溶けたワセリンの雫が滴り落ちる。
紗雪は下半身だけを丸出しにしたまま、空いた指で陰核を剥くと、お仕置だとでもいうように先端を何度も指先でトントンと叩いた。
「ひあっ!そんなとこぶっちゃダメぇ!あーー!ごめんなさい!お兄ちゃんごめんなさい!」
我ながら狂っていると、紗雪は冷めた頭の片隅で自嘲した。
いくら性欲旺盛な十代だといっても、こんな暗がりで兄を想って。
ただ夢見がちに抱かれることを想像するのではなく、マゾヒスティックな欲望を膨らませて。
表座敷のあの日のよく当たる縁側で、兄にお尻を思いきりぶたれたい。
それも見学者たちがいる中で。
兄と妹で、それが躾のためという名目なら、どこに悪い所があるのかわからない。
少なくとも、兄に叶わぬ想いを抱き、独りこんな場所でマスターベーションに耽るよりかは。
いったん指を離して体を起こすと、紗雪は部屋の押入れに隠してある風呂敷包みの中から紙オムツを取り出した。手に入れるには苦労したが、部屋を汚さないためには絶対必要なものだ。
紙オムツを床に広げ、跨るようにしゃがみこんで身につける。鏡に映る己が姿を彼女は醜いと感じているようだが、傍目から見れば少女とオムツというのは倒錯した淫猥な魅力がある。
壁にもたれ、目を閉じ紗雪は紙オムツの中に手を突っ込むと再びクリトリス弄りに耽り始める。
リップクリームは奥深く呑み込まれ、快感により括約筋が締め付けるたび、プラスティックの容器が肛門の襞の狭間で自己主張していた。
薄暗い日本家屋で、自ら紙オムツをつけてまで自慰に耽溺する少女。この変態性欲としか言いようのない性欲解消法が、紗雪の鬱屈した精神のバランスをようやく保つ唯一の方法だった。
ふと、手を伸ばし、紗雪はスマホを手に取り動画モードに設定した。そしてオムツのテープを剥がすと、膝を立て大きく割広げられたその足の間の性器を撮影しつつ、今度こそ絶頂に向かって集中し始める。
右手の二本指で弄られる陰核はどんどん硬さを増してゆき、パクパクと喘ぎながら収縮を繰り返す膣口が、涎を垂らすかのように透明な雫を紙オムツに零してゆくが、今の紗雪は必死で声を殺していた。
時折ひきつるような抑えた喘ぎと乱れた呼吸音を響かせるだけで、額に玉のような汗を浮かべつつ、自分の急所を心得た指遣いで一心不乱に快楽を追っている。好すぎて耐えられないのか、まばたきと共に涙が零れた。
「……!………!」
腰が大きくグラインドしたかと思うと、全身が痙攣して激しく仰け反る。
その勢いでアナルからリップクリームが押し出され、排泄物のようにオムツの中に転がった。
「ンウ~~~~~~~~~~ッッ!!!」
チョロチョロ…ジョボボボボボ……。
紗雪はイキすぎると尿意を抑えきれない。
壁にもたれ、なおも小刻みに震えている紗雪の股間から、おしっこが飛沫を撒き散らしながら紙オムツの中へと吸い込まれてゆく。
その凄惨な光景を、スマホは撮影し続けていた。
剥き出しの股ぐらと汚れた紙オムツもそのまま、少しの間紗雪は眠っていた。
やがて目を覚ますと、ベタつく指や性器、肛門周りを懐紙で丁寧に拭い、汚物をあらかじめ用意しておいたビニール袋へと片付ける。
最後に、動画をチェックする。
映っているのが紗雪だと、わかるようなものはないか?背景で場所がどこかばれたりしないか?
くちゅくちゅと音をたてて陰核を擦りあげる指先と、性器のどアップ。そして噴き出す尿。
ただそれだけ。これならば。
紗雪はその動画を、フリーメールを通して兄のアドレスへと送信した。
たぶん。たぶん兄は業者の仕業と思いこむ。
思いこみながらも、もしかしたらこの動画でオナニーしてくれるかもしれない。
妹が自分に欲情してるなんて思いもせずに。
何の希望もないのであれば、せめて一番綺麗な処女の今、今の自分を兄に刻みつけたかった。
汚れた本性を隠したまま、綺麗なふりをして一生を送る。そんなふうにしか自分は生きられそうにない。そう思いながら、紗雪はショーツを身につけた。
この一時を封印するように。
【完】
市街地を抜けると広がる、見渡す限りの田園地帯。今の時期、すくすくと伸びた稲がまるで緑の海のように、風にその身を揺らめかせている。遮るものの何ひとつないあぜ道で、紗雪の白いスカーフや着ている紺のセーラー服も、風にあおられはためいた。
思わず長い髪とスカートの裾を押さえる。
とかくこのあたりの人間は、隣人の振る舞いに口喧しい。
特に紗雪のような家の娘が、少しでも淫らな行動を取れば村中総出で一体何を言われるやら。
それを思うと、黒目がちな紗雪の瞳が暗い翳りを宿した。
ざわざわと笹同士が擦れあう葉擦れの音と青い香りを嗅ぎながら、竹林を抜けるとその先に紗雪の家はある。
戦前は豪農と呼ばれていたらしい豪奢な家屋は、今では県の文化財に指定され、館の一部は観光客向けに解放されて見学なども受け付けている。
今現在住んでいる家は、敷地内の別の場所に建てられたこじんまりとした現代的な一軒家に過ぎない。
つまり、過去の栄光はあれど今ではおよそ較べる程のものなどないにもかかわらず、祖父母や両親、村内の大人たちの心の中には何十年経っても『名家』という呪詛に近い思いが刻み込まれている。
紗雪は名家の娘としての在り方を産まれた時から期待され、それはふたつ上の兄もまた同じで、兄は長男だからこそ余計に閉鎖的な地域特有の『男であること』に縛られていた。
そして彼は、その期待に十分応えうるほどに優秀だった。
だが、そのことがこの子どもたちの不幸をより深刻なものにしてゆくことに、大人たちは誰も気づかなかった。
紗雪は生まれ育ったこの土地の自然を愛していたが、自分を取り巻く環境には心底うんざりしていた。
ただひとり、兄の存在を除いて。
小さい頃に抱いていたのは単に家族として兄を慕う感情に過ぎなかったが、身体が成長するにつれ、それはいつの間にか単なる好意と呼ぶには相応しくないものへと変化していった。
彼は眉目秀麗で、村内や学校で顔を合わす男子たちとは全く異なっているように見えた。
そして彼は、自分と同じ運命を担う妹に対し、いつも優しかった。
紗雪自身も色が抜けるように白く、整った顔立ちをしており、彼女の抱える愁いがその美貌に拍車をかけた。
男たちは誰もが彼女に目を向けたが、紗雪の心のなかにいるのは兄の修一ただ一人だった。
世間の目から隠れたくなった時、紗雪はこの、農村には似つかわしくないほど巨大な邸宅にこっそり忍び込むのが常だった。
見つかれば叱られるのはわかっていたが、館の内側は迷路のように入り組んだ廊下と様々な用途に分けられた部屋で構成されており、一般公開されている表座敷から離れ、『奥』と呼ばれる家族や使用人たちが使っていた空間に潜りこんでしまえば、たとえ家族といえどそう簡単には見つからない。
巨大な門の脇にある通用口にかかっている閂を、いつも隠し持っている合鍵で外すと、木戸を開けてそのまま庭を通り館の裏へとまわる。
まだ空は明るいがひとっこひとりいない。
あたりを見回し、土間に通じる勝手口からスルリと中へ忍び込んだ。
木戸の隙間から射し込む日の光のなか、きらきらと埃が舞い踊る。空気は湿気ていてカビ臭く、表座敷の他人を迎え入れるための空間とは雲泥の差だ。
背後にはかまどが並び、床に朽ちかけたザルなどが放置されている。
知らぬ者には不気味でしかない光景も、紗雪にとっては見慣れたもので。
躊躇なく土間を抜け、広い板の間へとあがりこむ。過去にはここでたくさんの使用人たちが食事の支度などをしていたに違いない。
片隅に隠しておいた懐中電灯を取ると、引き戸を開け学生鞄を片手に奥の間を目指した。
彼女のお気に入りの場所へと。
その部屋は、細い細い廊下の奥に位置していた。広さは四畳半ほど。襖を開ければ一応床の間らしきものなどもありはするが、家族の中でもそれほど地位の高い者が使っていたとは考えにくい。
土壁には天井近くに朱に塗られた丸い格子窓が嵌められ、障子紙を通して外の光を感じ取ることができる。
何か曰くありげな妖しい空気を纏ったこの部屋が彼女のお気に入りだった。
部屋のすみに古ぼけた鏡台がポツンと置かれている。ささくれた畳に肌を傷つけられないよう、座布団を引き寄せると鏡台を覆う布を取り去った。
鏡の位置を斜め前に倒し、床が映るよう調整する。彼女が今からここで始めることは、性の饗宴だった。誰にも見られず知られることもない、本当の紗雪自身の解放。
それこそが、彼女が最も望んでいることで。
紺サージのプリーツスカートはそのままに、白いショーツを脱ぎ捨て部屋の隅へぽいと放る。鏡の下に潜りこむように寝転がると、腰の下へ座布団を敷きこむ。
そして、大きくM字に太ももを開いた。
鏡の中には薄闇に浮かぶ白い肢体、はしたない格好でねだるように突き出された靴下を履いたままの下半身があられもなく映っている。
紗雪は熱を持った目で自分の姿を見つめると、二度三度ともの欲しげに腰をくねらせた。
ほんのり茂った黒い陰毛と、充血しつつある大陰唇のコントラストがひどく卑猥だ。
紗雪の唇から言葉が零れた。
「お兄ちゃん…」
鏡から目は離さないまま、頭もとに置いておいた鞄の中を掻き回しメンソールタイプのリップクリームを取り出す。
投げ捨てるように蓋を外し、繰り出した白い棒状の先端を、震える指で勃起したクリトリスに押しつけた。
「は……!!」
そのままぐりぐりと塗り拡げてゆく。
リップクリーム自身の感触に加え、メンソールのスースーした強い刺激がクリトリスを中心にじわじわと染み渡り、紗雪は左手を伸ばすと大陰唇を片手で押し開き、人差し指でクリトリスの包皮を剥くと剥き出しのそこを何度もリップクリームの先でノックした。
「あ!あっあっあっ!!!」
声が抑えられない。
こんなところを見つかったら。
もしお兄ちゃんに見つけられてしまったら。
「お兄ちゃん、紗雪のここ、もっとくりくりしてぇ…」
普段はけして口にしないようなはしたない言葉も、この場所でなら言えてしまう。
鏡の中で身悶えする少女の姿は、誰はばかることもなく美しかった。
彼女がリップクリームでオナニーしているなど、一体誰が想像するだろうか。
溢れた愛液とリップクリームでテラテラ濡れ光る己の性器を凝視しながら、自慰に耽る彼女に一度目の限界が訪れようとしていた。
「やだ、やだやだイッちゃう…!!」
自分の行為に性急に高められ、腰を何度も震わせたかと思うと、リップクリームを激しく陰核に擦りつけながら、甲高い声をあげて紗雪は大きく足を拡げ身を震わせた。
「あ、あ、あーーーーー!!!」
濡れそぼった性器も恥ずかしいイキ顔も、なにもかもを鏡に映しこみながら。
力を失った下肢にじんわり滲んた汗が光る。
空気の逃げ場のない澱んだ室内に、紗雪の甘い体臭とメンソールと愛液の入り交じったなんともいえない匂いが漂う。
今誰かがもしも室内に入ってきたとしたら、たとえこの姿を見られなくとも、匂いだけで何をしていたかバレてしまうに違いない。
紗雪は長いまつ毛を震わせて、二三度瞬きをした。この部屋でオナニーをする時は、限界までやるときめている。イキすぎて気を失ってしまうこともあるくらいだ。
だって、家では声を殺してしか出来ない。
こんなに奔放に自分をさらけ出せないし、兄の名を呼んだりもできない。
もし、自分がこんなあられもない姿でいるところを兄に見られたとしたら、軽蔑されるだろうか。それとも、自分に性的関心を抱いてくれたりするだろうか?
体の奥底からぞわりとした感覚が這い戻ってくる。
愛液は会陰を伝い、肛門を濡らしてプリーツスカートにシミを作っていた。体を起こすと肌と布地の間で愛液が糸を引く。本気でイッた証のように、糸は細く長く引いて蜘蛛の糸のようにふわふわと宙を漂った。
思いきり達したせいか、腫れぼったい大陰唇を感じながら、紗雪はスカートを脱ぎ捨てると鏡にお尻を向けて膝をつき、腰を高くあげる。アクロバティックな姿勢で鏡に目をやると、尻たぶの隙間からちらりと覗くアナルとぷっくり膨らんだ大陰唇小陰唇、そして紅色のクリトリスがはっきり映っていた。
不意にもっと小さな頃、紗雪がひとりで性器に悪戯をしているところを母に見つかり、和室で母が『おさね』と呼ぶところへお灸を据えられかけたのを思い出した。母の後ろには何故か兄がいて、必死で止めようとしてくれたことを思い出す。腰の下に座布団をふたつに折り曲げられたものと、オムツがわりのバスタオルをあてられ、そのうえで赤ん坊がオムツ替えをするような体勢を取らされて足を大きくひらかれた。
謝っても謝っても許して貰えず、モグサを塊にしたものが陰核の上に盛られ、線香であわや火をつけられそうになった時、紗雪は恐怖のあまり
バスタオルに盛大におしっこを漏らしてしまい、それでなんとかおしおきを許してもらったのだ。
あの時、兄の修一は妹の足の間から噴き出す黄色い液体に、何かを思ったのか…。
頭の中であの時の情景を何度も何度も反芻するうち、ブラジャーの内側で乳首が固く尖ってくるのを紗雪は感じた。
リップクリームに手を伸ばし、今度はそれを丹念にアナルに塗りつける。
体温で柔らかくなったリップクリームを肛門のへりへ何度も何度も塗りこめ、やがてゆっくりと内側への出し入れを繰り返す。
これが兄の手によるお仕置だったら。
あの生真面目な兄がこんなことをしてくれるとはとても思えないが、いやらしい妹を見つけたらお尻くらい叩かれるかもしれない。
いや、あの時みたく足を広げさせられてお灸を据えられるかも…。
想像力は頭の中でどんどん咲き乱れ、アナルからは溶けたワセリンの雫が滴り落ちる。
紗雪は下半身だけを丸出しにしたまま、空いた指で陰核を剥くと、お仕置だとでもいうように先端を何度も指先でトントンと叩いた。
「ひあっ!そんなとこぶっちゃダメぇ!あーー!ごめんなさい!お兄ちゃんごめんなさい!」
我ながら狂っていると、紗雪は冷めた頭の片隅で自嘲した。
いくら性欲旺盛な十代だといっても、こんな暗がりで兄を想って。
ただ夢見がちに抱かれることを想像するのではなく、マゾヒスティックな欲望を膨らませて。
表座敷のあの日のよく当たる縁側で、兄にお尻を思いきりぶたれたい。
それも見学者たちがいる中で。
兄と妹で、それが躾のためという名目なら、どこに悪い所があるのかわからない。
少なくとも、兄に叶わぬ想いを抱き、独りこんな場所でマスターベーションに耽るよりかは。
いったん指を離して体を起こすと、紗雪は部屋の押入れに隠してある風呂敷包みの中から紙オムツを取り出した。手に入れるには苦労したが、部屋を汚さないためには絶対必要なものだ。
紙オムツを床に広げ、跨るようにしゃがみこんで身につける。鏡に映る己が姿を彼女は醜いと感じているようだが、傍目から見れば少女とオムツというのは倒錯した淫猥な魅力がある。
壁にもたれ、目を閉じ紗雪は紙オムツの中に手を突っ込むと再びクリトリス弄りに耽り始める。
リップクリームは奥深く呑み込まれ、快感により括約筋が締め付けるたび、プラスティックの容器が肛門の襞の狭間で自己主張していた。
薄暗い日本家屋で、自ら紙オムツをつけてまで自慰に耽溺する少女。この変態性欲としか言いようのない性欲解消法が、紗雪の鬱屈した精神のバランスをようやく保つ唯一の方法だった。
ふと、手を伸ばし、紗雪はスマホを手に取り動画モードに設定した。そしてオムツのテープを剥がすと、膝を立て大きく割広げられたその足の間の性器を撮影しつつ、今度こそ絶頂に向かって集中し始める。
右手の二本指で弄られる陰核はどんどん硬さを増してゆき、パクパクと喘ぎながら収縮を繰り返す膣口が、涎を垂らすかのように透明な雫を紙オムツに零してゆくが、今の紗雪は必死で声を殺していた。
時折ひきつるような抑えた喘ぎと乱れた呼吸音を響かせるだけで、額に玉のような汗を浮かべつつ、自分の急所を心得た指遣いで一心不乱に快楽を追っている。好すぎて耐えられないのか、まばたきと共に涙が零れた。
「……!………!」
腰が大きくグラインドしたかと思うと、全身が痙攣して激しく仰け反る。
その勢いでアナルからリップクリームが押し出され、排泄物のようにオムツの中に転がった。
「ンウ~~~~~~~~~~ッッ!!!」
チョロチョロ…ジョボボボボボ……。
紗雪はイキすぎると尿意を抑えきれない。
壁にもたれ、なおも小刻みに震えている紗雪の股間から、おしっこが飛沫を撒き散らしながら紙オムツの中へと吸い込まれてゆく。
その凄惨な光景を、スマホは撮影し続けていた。
剥き出しの股ぐらと汚れた紙オムツもそのまま、少しの間紗雪は眠っていた。
やがて目を覚ますと、ベタつく指や性器、肛門周りを懐紙で丁寧に拭い、汚物をあらかじめ用意しておいたビニール袋へと片付ける。
最後に、動画をチェックする。
映っているのが紗雪だと、わかるようなものはないか?背景で場所がどこかばれたりしないか?
くちゅくちゅと音をたてて陰核を擦りあげる指先と、性器のどアップ。そして噴き出す尿。
ただそれだけ。これならば。
紗雪はその動画を、フリーメールを通して兄のアドレスへと送信した。
たぶん。たぶん兄は業者の仕業と思いこむ。
思いこみながらも、もしかしたらこの動画でオナニーしてくれるかもしれない。
妹が自分に欲情してるなんて思いもせずに。
何の希望もないのであれば、せめて一番綺麗な処女の今、今の自分を兄に刻みつけたかった。
汚れた本性を隠したまま、綺麗なふりをして一生を送る。そんなふうにしか自分は生きられそうにない。そう思いながら、紗雪はショーツを身につけた。
この一時を封印するように。
【完】
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※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
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