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探求者と失われた禁書
二人きりの部屋で
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ジークフリードの部屋。王宮の一番東の端、王様の住む棟に隣接して、ジークフリードの住む棟がある。位置としては所謂東宮殿なのだけれど、今のこの国の制度としてはその地位はかなり曖昧だ。
ウィリアムではなくて、ジークフリードがここに住むことを良く思わない貴族もいるのだろうな…
「グレアム家令嬢、イライザさまが参りました」
外に立っていた侍従に、私のメイドが告げるのと同時に、内側から部屋のドアが開いた。
「イライザ、よく来てくれたね。…君たちは下がっていい、暫くしたらお茶を持ってくるように」
ジークフリードは侍従と私のメイドに言って、私の腕をひいて扉を閉めようとした。
「なりません、殿下、扉は開けていて下さい」
侍従は慌てて手で扉を押さえる。なぜ、とジークフリードの声が尖る。
「令嬢の名誉のために、どうか」
侍従はそう言ってメイドに中へ入るよう促した。私のメイドはうなづき、隣接している側仕え用の入り口へと消えて行く。
側仕えのものたちは、ドアからではなく衝立で囲われたパントリーから各居室へ出入りする。中に行けばメイドは何事もなかったように部屋に立っている筈だ。
「兄上がフェニックス商会の娘を王宮に入れるものだから、侍従たちがピリピリしていて困る」
はあ、とジークフリードは肩を落とした。
「二人で話したかったのだが」
そう言って、私をソファへいざない、自分の隣に座らせた
「…マクシミリアンと随分仲良くしていたそうだけれど」
言いながら、手を顔のあたりまで上げてから、また下げる。そわそわと繰り返して、
「いや、その、弟を遣ったのは私だけれど、それは君の体の具合が…けど…その、指輪がうけとれないのは、その、他に…」
いつも辛辣かつ毒舌のジークフリードとは思えない、歯切れの悪さに困惑しながらも、これは訂正しておこうと首を振った。
海沿いの町に出かけてから、なぜかマクシミリアンと私はちょくちょく誤解されている気がする。正直、マクシミリアンに申し訳ないので、きちっと否定しておかなくては。
「マクシミリアンさまは単に、私の退屈しのぎに狩りや水泳の話を聞かせて下さったにすぎません。
大伯父さまの命令で護衛を引き受けて下さったのに、マクシミリアンさまにも失礼ですわ。
場所も侍従やメイドの沢山いる客間やサンルームです…お聞き及びでは?」
「君の貞操は疑っていない!ただ、その、ええ…」
勢いに任せて手をとられた。両手。ものすごく近くで、夏の湖のような輝く緑の瞳が瞬きを繰り返している。何をそんなに緊張することがあるのか、と思いながらその瞳を見ていると、更に手をひかれて、もうほとんど腕の中にいるほどの位置に引き寄せられた。
「君はとても綺麗な人だ、それでいて、とても聡明で、思いやりのある人だ」
なんていうか、どこか要領を得ない。上滑りな誉め言葉を聞き流していたら、急に腕に力が入ってもうこれ、完全に抱き寄せられてない?と、胸のとこに手をついて抵抗を試みる。
「諦めるのは辛いんだ」
ええ、なにそれ、とみあげると酷く苦しそうな表情のジークフリードの顔がある。
「君を、手放してやれない」
ぎゅっと抱きしめられた。
ウィリアムではなくて、ジークフリードがここに住むことを良く思わない貴族もいるのだろうな…
「グレアム家令嬢、イライザさまが参りました」
外に立っていた侍従に、私のメイドが告げるのと同時に、内側から部屋のドアが開いた。
「イライザ、よく来てくれたね。…君たちは下がっていい、暫くしたらお茶を持ってくるように」
ジークフリードは侍従と私のメイドに言って、私の腕をひいて扉を閉めようとした。
「なりません、殿下、扉は開けていて下さい」
侍従は慌てて手で扉を押さえる。なぜ、とジークフリードの声が尖る。
「令嬢の名誉のために、どうか」
侍従はそう言ってメイドに中へ入るよう促した。私のメイドはうなづき、隣接している側仕え用の入り口へと消えて行く。
側仕えのものたちは、ドアからではなく衝立で囲われたパントリーから各居室へ出入りする。中に行けばメイドは何事もなかったように部屋に立っている筈だ。
「兄上がフェニックス商会の娘を王宮に入れるものだから、侍従たちがピリピリしていて困る」
はあ、とジークフリードは肩を落とした。
「二人で話したかったのだが」
そう言って、私をソファへいざない、自分の隣に座らせた
「…マクシミリアンと随分仲良くしていたそうだけれど」
言いながら、手を顔のあたりまで上げてから、また下げる。そわそわと繰り返して、
「いや、その、弟を遣ったのは私だけれど、それは君の体の具合が…けど…その、指輪がうけとれないのは、その、他に…」
いつも辛辣かつ毒舌のジークフリードとは思えない、歯切れの悪さに困惑しながらも、これは訂正しておこうと首を振った。
海沿いの町に出かけてから、なぜかマクシミリアンと私はちょくちょく誤解されている気がする。正直、マクシミリアンに申し訳ないので、きちっと否定しておかなくては。
「マクシミリアンさまは単に、私の退屈しのぎに狩りや水泳の話を聞かせて下さったにすぎません。
大伯父さまの命令で護衛を引き受けて下さったのに、マクシミリアンさまにも失礼ですわ。
場所も侍従やメイドの沢山いる客間やサンルームです…お聞き及びでは?」
「君の貞操は疑っていない!ただ、その、ええ…」
勢いに任せて手をとられた。両手。ものすごく近くで、夏の湖のような輝く緑の瞳が瞬きを繰り返している。何をそんなに緊張することがあるのか、と思いながらその瞳を見ていると、更に手をひかれて、もうほとんど腕の中にいるほどの位置に引き寄せられた。
「君はとても綺麗な人だ、それでいて、とても聡明で、思いやりのある人だ」
なんていうか、どこか要領を得ない。上滑りな誉め言葉を聞き流していたら、急に腕に力が入ってもうこれ、完全に抱き寄せられてない?と、胸のとこに手をついて抵抗を試みる。
「諦めるのは辛いんだ」
ええ、なにそれ、とみあげると酷く苦しそうな表情のジークフリードの顔がある。
「君を、手放してやれない」
ぎゅっと抱きしめられた。
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