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公爵令嬢はそれを見過ごさない

真昼の追走劇

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なるほど、あの飾ってあった銃は、見ためより威力があるけど、消音器がついてない。
かなり遠くからでも、銃声がきこえたもの。

などと悠長なことをいってはいられない。マクシミリアンの監視に気づいたリードは捨て鉢になったようで、銃をむやみに四方八方へうちながら、建物から走り出てきた。
まっすぐに、駅へと向かう小道へ曲がって行く。

「列車を乗っ取るつもりだわ!」
アリーナが私と同じ考えからかすぐに駆け出した。
「アリーナやめて!あなたは武器をもってないのよ!」
私が止めるのも聞かず、アリーナは走って行く。
ふりかえると、ウィリアムが警護官たちに取り押さえられていた。ジークフリードは、足を怪我したのかひきずっている。

しかたない、相手は年代物の猟銃だ。弾の数はそう多くないはず。弾切れをねらっていくしかないか。
そう思った次の瞬間、発砲音とともに私のそばの茂みが弾けとんだ。まさに辺り構わず撃ってるようだと、前をみるとアリーナがよろめいて肩を押さえた。

「アリーナ!」
「かすめただけ!追いかけて!」
もう、色々言っていられない。ヒールを脱ぎ捨てて駆け出した。

「待ちなさい!」
私が駅に着いたとき、リードはあたりに銃を向けていたけれど、すぐにこちらへ銃口をむけた。
照準をむけるつもりはなさそうで、そのまま私に発砲してくる。どこへとぶかわからない、なるたけ人けのないほうへ誘導しなくては。


「やめなさい、罪を重ねるだけよ!」
そう言いながらホームの端へ移動した。リードの持つ銃の銃口も、それにあわせてついてくる。
「うるさい、おまえたち貴族は結局、私のような平民の言うことなど聞き耳をもたない!どうせ打ち首になるんだ!」

ううん、まあ、裁判も警察もないんだもの、そういう意見も出るわよね…でも、このまま列車に乗り込まれては、乗務員や乗客にも被害がでてしまう。
「私は奥様をころしていない。殺したのはあの男だ、私は騙されたんだ!」
わあわあと叫びながら、こちらへ走ってくる。あと5メートル、3メートル。
私はわざと怯えたようにじりじり後退した。

「こないで」
できるだけ自信なさそうにいうと、リードは私を人質にすることを思い付いたようだ。そうよ、こっち、こっちよ…
「イライザさま!」
ホームの向こうから、肩を押さえたアリーナがおいついてきた。一瞬、リードは気をとられる。


できるだけのスピードで走って、リードの足をかけた。銃口を払いのけて、顎に掌底をうちこむ。
襟を掴み、ひきたおそうとしたけれど、リードにスカートを踏まれた。一瞬、バランスが崩れてホームから線路脇へリードごと転落する。

私の耳もとで、なにかが破裂するような音がした。

「イライザさま!」
アリーナがホームから体を乗り出して叫んでいる。
背中の下じきになっている銃をリードに取られないよう、起き上がろうとした。背中を擦りむいたのか、熱いというか、なんだろう?
とにかく起き上がると、体がバラバラになるほどの激痛がはしった。

リードはどこか打ったのか、うめいて踞っている。
いまのうち、と銃をアリーナへ引き渡し…その場に座り込んだ。


どこがいたいかわからないくらい、痛い。







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