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令嬢たちは海辺へむかう
令嬢たちは海辺へむかう
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やはり、体力があまりにないのは問題なのだというので、アリーナの薦めではじめたプロップテニス(機械仕掛けのボールを打ち合う競技)が、思いの外たのしくて、あちこちのお宅の令嬢をたずねていってはお相手したり、お茶に呼んだりと気がつけばもう季節は夏に差し掛かろうとしていた。
「お強いわ!私たちはもう全然叶いませんわね!」
アリーナが汗を拭いながら言うと、全くですわ、と別のほうから声があがった。
ローズとキャリー。私が知らなかったこの世界の貴族の令嬢のうちのふたりだ。
例の園遊会より前から、イライザとは顔見知りだったのに特段仲良くはなかった二人だが、プロップテニスの腕前が御前試合に出るほどらしくて試合をつうじて知り合い、今ではかなり仲良くなった。
「ローズさま、来週のサマーバケーションについてはお兄様の許可はでましたの?」
キャリーがわたしとアリーナに冷たいハーブ茶を出すよう侍女に促しながらたずねた。
「それが、お兄様ったら、乳母のハリエットも同行させるようにって」
がっかりしたようにローズは肩を落とした。彼女としてもハリエットが嫌いなわけではないが、わたしやアリーナ、キャリーは随行としての若いメイドとボディーガードをかねる御者のふたりだけの予定だ。
ローズのお兄様、ちょっと過保護なのじゃないかしら。
ご両親が亡くなってから、ローズは叔母さまの家で暮らしてる。兄といっても一緒に暮らしてはいないし、歳も20近く離れているらしいから、もうお父様っていっても過言じゃないのだそうで。お会いしたことないけど。
私達はもうすぐ海ぞいの街へゆく予定を立ててる。本来なら、社交界で忙しいはずの季節だけど、ローズとキャリーにはちゃんとうまくいってるステキな婚約者がいるから今さら婚活でもないので、1・2回園遊会や夜会を欠席しても問題ないらしい。
私は婚活する必要あるんだけど、破局寸前とはいえジークフリードがいる手前おおっぴらにはできないし。アリーナは外国の社交界どころか多分社交界全体が好きではないかんじで、いまは海外にいることを幸いに全てのパーティーをお父様一任らしい。
「ま、ハリエットがいてもいなくても行くわよね?」
自由度が下がるかもしれないが、ここでごねてローズがこれなくなるなんてイヤだもの。
「ええ、そうね、お兄様にはハリエットを連れていきますとお電話するわ」
ローズは気持ちをなんとかもちなおそうとするように、両手を組んでうなづいた。
ああ、なんにせよたのしみだわ!と四人はお茶を飲みながら、あれを見よう、ここに行こうと話し合った。
けれど、ローズのことを他人事と思っていたのは、わたしの大きな間違いだったのだ。
「王陛下が、護衛としてジークフリード王子とマクシミリアンをつれて行くようにといってきたぞ」
いや、それもう護衛じゃないし。第一マクシミリアンはジークフリードの護衛じゃないの。護衛つきの護衛てなんだ?護衛って言い過ぎて護衛がゲシュタルト崩壊しそう。
「……嫌です、といっては」
「無理だイライザ。王陛下はお前とジークフリードの不仲を心配しておられる」
父上はこれ以上ないほど眉根をよせて、言い切った。
「ですが、ジークフリードさまがいてはお友達は気をつかいます」
お願い!と目を潤ませて、ローズの真似っこで両手を組んでみせる。乳母はいるわ婚約者はいるわでは、邪魔が入りまくりじゃないの!
「護衛なのだから、ジークフリード殿下には馬車の馭者台に座るそうだ」
父上は手紙を示して見せた。
「そんな!一国の王子ですよ!そんなところに座らせられません!」
私は口にしてから、嵌められたと気づいたけれどもう遅い。
「では、おまえと一緒でいいな?」
はいと言う以外、ないでしょう………?
「お強いわ!私たちはもう全然叶いませんわね!」
アリーナが汗を拭いながら言うと、全くですわ、と別のほうから声があがった。
ローズとキャリー。私が知らなかったこの世界の貴族の令嬢のうちのふたりだ。
例の園遊会より前から、イライザとは顔見知りだったのに特段仲良くはなかった二人だが、プロップテニスの腕前が御前試合に出るほどらしくて試合をつうじて知り合い、今ではかなり仲良くなった。
「ローズさま、来週のサマーバケーションについてはお兄様の許可はでましたの?」
キャリーがわたしとアリーナに冷たいハーブ茶を出すよう侍女に促しながらたずねた。
「それが、お兄様ったら、乳母のハリエットも同行させるようにって」
がっかりしたようにローズは肩を落とした。彼女としてもハリエットが嫌いなわけではないが、わたしやアリーナ、キャリーは随行としての若いメイドとボディーガードをかねる御者のふたりだけの予定だ。
ローズのお兄様、ちょっと過保護なのじゃないかしら。
ご両親が亡くなってから、ローズは叔母さまの家で暮らしてる。兄といっても一緒に暮らしてはいないし、歳も20近く離れているらしいから、もうお父様っていっても過言じゃないのだそうで。お会いしたことないけど。
私達はもうすぐ海ぞいの街へゆく予定を立ててる。本来なら、社交界で忙しいはずの季節だけど、ローズとキャリーにはちゃんとうまくいってるステキな婚約者がいるから今さら婚活でもないので、1・2回園遊会や夜会を欠席しても問題ないらしい。
私は婚活する必要あるんだけど、破局寸前とはいえジークフリードがいる手前おおっぴらにはできないし。アリーナは外国の社交界どころか多分社交界全体が好きではないかんじで、いまは海外にいることを幸いに全てのパーティーをお父様一任らしい。
「ま、ハリエットがいてもいなくても行くわよね?」
自由度が下がるかもしれないが、ここでごねてローズがこれなくなるなんてイヤだもの。
「ええ、そうね、お兄様にはハリエットを連れていきますとお電話するわ」
ローズは気持ちをなんとかもちなおそうとするように、両手を組んでうなづいた。
ああ、なんにせよたのしみだわ!と四人はお茶を飲みながら、あれを見よう、ここに行こうと話し合った。
けれど、ローズのことを他人事と思っていたのは、わたしの大きな間違いだったのだ。
「王陛下が、護衛としてジークフリード王子とマクシミリアンをつれて行くようにといってきたぞ」
いや、それもう護衛じゃないし。第一マクシミリアンはジークフリードの護衛じゃないの。護衛つきの護衛てなんだ?護衛って言い過ぎて護衛がゲシュタルト崩壊しそう。
「……嫌です、といっては」
「無理だイライザ。王陛下はお前とジークフリードの不仲を心配しておられる」
父上はこれ以上ないほど眉根をよせて、言い切った。
「ですが、ジークフリードさまがいてはお友達は気をつかいます」
お願い!と目を潤ませて、ローズの真似っこで両手を組んでみせる。乳母はいるわ婚約者はいるわでは、邪魔が入りまくりじゃないの!
「護衛なのだから、ジークフリード殿下には馬車の馭者台に座るそうだ」
父上は手紙を示して見せた。
「そんな!一国の王子ですよ!そんなところに座らせられません!」
私は口にしてから、嵌められたと気づいたけれどもう遅い。
「では、おまえと一緒でいいな?」
はいと言う以外、ないでしょう………?
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