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番外

神聖であり不可侵な

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バロウズが倒され、フィヨールトに平和が戻った。
そのことを、最も喜んだのはやはり妖精たちだろう。

「《緑の精霊王さまがおもどりだ!》」
「《だめだめ、そう呼ぶとしかられるわよ!》」
小さな青いネモフィラたちが駆け回り、花から蜜を分けてもらいながら言い交わしている。
その横を邪魔にならぬよう歩きながら、ミルラは紫水晶の神殿へと向かった。フィヨールトは広大だが、ミルラにとってそれは何の意味もない。

「《緑の王の帰還!》」
ミルラの肩にとりついていた妖精がいうと、別の妖精が歌を歌い始める。
「《ミルラの王様、お祝いに宴会をしよう!》」
と髪に潜っていたのが言うと
「《ハリエンジュのお酒がいいよ!》」
「《赤い小石を集めよう!》」
と跳ねてとびまわる。

ミルラはレイモンドを思い出して、大人っぽく優しげに笑ってみようとしたけれど、
「《どうしたの王様、宴会はイヤ?》」
「《偽物の王様、いなくなったよ?》」
と妖精たちに言われて吹き出してしまった。
「《そうじゃないんだけど、カッコ良くない?》」
ええー、と小さな妖精たちはコロコロ転げ回る。
「《ちがうよねえ》」
「《よくないよねえ》」
そかー、といつも通りミルラは笑ってから、神殿の外を眺める。

花は、木は戻った。けれど、獣や風の妖精は見えない。きっと凪いだままの海にも水の妖精はいないのだろう。

「《偽物がきていっぱいいなくなった》」
悲しげな声で、さくらんぼを運んできた妖精が言う。
「《王様たち、忙しくなってみんなどこかに出掛けていった》」
そうか、とミルラはそばにいる妖精の頭をなでた。
我先に、と皆がそこに集まってくる。

「《俺が探してきてやるよ。せめて帝国に残っていればいいんだけど……あ!》」
キャー、と妖精たちは皆ミルラの回りをとびまわる。

「《手伝ってくれそうな奴らがいるぜ?》」
わああ!と妖精たちは両手をたたく。
「《土の王様かえってくる!水の王様かえってくる!》」
嬉しそうにとびまわる。
「《風と火も帰ってくるぞ》」
とミルラが言うとピタリと妖精たちは動きをとめる。
「《いーちばん、さいごにしよう》」
誰かがいうと、皆も復唱する。
「《いーちばんさいご!》」
おいおい、と、ミルラは苦笑いしてからまた外を見る。
広大な、フィヨールト。妖精と精霊の国。
復活までにはもう少し。

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