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第4章
挿話 ある公爵令嬢の冒険<シャルロット>
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大公の城を抜け出したのは、まだ陽が上りきらない早朝のことだった。
老騎士のふたりは心配そうに私をみていたけれど、早朝のこんな時間に起きているのは健全な人間だけと信じて私は街道へでて辻馬車をひろう。
治安が悪いとは聞いていたんだけれど、辻馬車で町の様子をうかがうと、たしかに王都では最も貧しい地域でさえこんなにぴりぴりした雰囲気ではなかった。
「よかった、まだ有るわ」
町の様子からして、一応の対策はしたとはいえ自動二輪なんて鉄の塊だもの、今頃バラバラにされてても仕方ないとさえ思っていたのだけれど、まだ盗まれていなかった。着てきたダニエルの上着から錠前の鍵をとりだす。かち、と胸のところでなにかが鍵とぶつかった。
手をいれて、ひきだしてみた。
瓶だわ。
私がダニエルに渡した、薬瓶。ぞくっ、と背筋を冷たいものがはしった。彼はこれを、何故今も持ち歩いているの?
例えば、マリエッタを諦めてはいないとしたら?今はウィルの婚約者だとしても、もしウィルが失脚したり、亡くなったりすれば、ダニエルにも王座につくだけの資格はある。……その時に使うため?
青いその瓶を暫く眺めていたから、隙があるようにみえたのだろうか、背後に人の気配を感じて私は瓶を再び胸のポケットへしまった。
「おい、姐さん、そんなデカイもんアンタには似合わねえよ。なあ、こっち来てそれのかわりに俺らと遊ばねえか?」
剣を抜くか、と一瞬考えて、それからふと押している自動二輪を見下ろした。あいつらは私だけでなく、これを狙ってる。
手を離すわけにはいかないわね。どうしたらいいの……?
老騎士のふたりは心配そうに私をみていたけれど、早朝のこんな時間に起きているのは健全な人間だけと信じて私は街道へでて辻馬車をひろう。
治安が悪いとは聞いていたんだけれど、辻馬車で町の様子をうかがうと、たしかに王都では最も貧しい地域でさえこんなにぴりぴりした雰囲気ではなかった。
「よかった、まだ有るわ」
町の様子からして、一応の対策はしたとはいえ自動二輪なんて鉄の塊だもの、今頃バラバラにされてても仕方ないとさえ思っていたのだけれど、まだ盗まれていなかった。着てきたダニエルの上着から錠前の鍵をとりだす。かち、と胸のところでなにかが鍵とぶつかった。
手をいれて、ひきだしてみた。
瓶だわ。
私がダニエルに渡した、薬瓶。ぞくっ、と背筋を冷たいものがはしった。彼はこれを、何故今も持ち歩いているの?
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「おい、姐さん、そんなデカイもんアンタには似合わねえよ。なあ、こっち来てそれのかわりに俺らと遊ばねえか?」
剣を抜くか、と一瞬考えて、それからふと押している自動二輪を見下ろした。あいつらは私だけでなく、これを狙ってる。
手を離すわけにはいかないわね。どうしたらいいの……?
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