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上方の三田

一 嫁入り 一

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その日、私は白いドレスを身に纏い、華やかな教会で、沢山の人の前で立っていた。

今日は私の結婚式だ。

結婚相手はあの三田鉄鋼業社長の三田則夫さん。

上場企業の社長だけあって、家族だけでなく、いろんな会社の幹部たちが来ている。

私も、エリート銀行員の子供ということで母の友達もたくさん来ている。

でも、父の親族や友人は来ていない。

呼んでいない。

父は来たがってたけど、来ないでってキッパリ言った。

あの人の顔は正直もう見たくない。

祝福されなくない。

私は銀行が好きなようで嫌いだ。

母や父に憧れ、両親みたいな立派な銀行員になって、沢山稼いで、親孝行をしたかった。

でも父に将来の夢を聞かれて、銀行員と言ったら、
急に怒鳴ってきた。

その頃七歳の私には、現実よりも大きく聞こえた。

親孝行がしたいから、っと言っても聞く耳を持たず、金融業には関わるなと言ってきた。

父には親孝行は必要ないらしい。

今思えばそりゃそうだと思う。出世スピードが同期一の父には、頭取というゴールを阻む霧がなく、上司から好かれ、環境にも恵まれついる父になんかに、親孝行はいらない。

老後までには億をゆうに超える貯蓄が溜まるだろう。



その年の冬、妹が産まれた。

名前は私の名前からとり、『陽菜』となった。

陽菜は私と同じようにスクスクと成長した。

また、陽菜も将来の夢は、銀行員、だそうだ。

陽菜も同じく七歳の時、父に将来の夢を聞かれていた。

陽菜も私と同じく怒鳴られてしまうだろうと思ったら、それは間違いだった。

父は陽菜の夢を聞いた瞬間、オーと感嘆し、頭を撫でていた。

どうして?

どうして?

どうして?

どうして?

どうして?どうして?どうして?どうして?

なんで陽菜だけ特別扱いなの?

それじゃあ秘書になるなんて言って、夢を諦めた私がバカみたい。

その光景をみた瞬間、可哀想だといっていた心が絶望で叫び出した。

私は部屋へかけ戻り、簡単な教科書を床に叩き落とし、泣いた。

とにかく泣いた。

目から血が出たように目が紅くなるまで。



私はその日、陽菜を憎んだ。

でもやっぱり父を憎んだ。

陽菜は全く悪くない。

陽菜はただ自分の夢を主張して、それを勝ち取っただけだ。

そう自分に言い聞かせた。

でも憎い。


その日の夜、私の部屋に陽菜が入ってきた。

私はすぐに、「出てって!」と強い口調で言った。

でも陽菜は戻らなかった。

「ごめんなさい」

「えっ?」

心外な言葉に思わず声が出た。

何を謝るの?

「お姉ちゃん、なんか悲しそうだから、私が銀行の人になりたいって言ったら、、、」

小学一年生とは思えない言葉に驚愕した。

同時に情けなくなった。

小学一年生の妹に、心配されている。

また同時にこうも思った。

「そんなことないよ。陽菜は銀行の人になりたいんでしょ?ちゃんと夢を叶えてね。応援してるから。お姉ちゃんちょっと疲れてるから、部屋から出てくれる?心配してくれてありがとう」

「わかった」

その時の私には、陽菜への憎悪は全て父に向けられていた。

夢を叶えることができなかった私には、陽菜の夢を叶えさせる義務があるように感じた。

同時に、父から離れる義務も感じた。

私は陽菜の勉強を手伝い、絶対に銀行員にさせると誓った。

はっきりと覚えていないが、こんな感じで陽菜の勉強を手伝い、京大経済学部に行かせた。

もちろん私だけの力ではないが、





今、私は母と妹以外の銀行員は信用できない。

特に父とその部下たちは絶対に信用できないと感じていた。

だから結婚式にも呼ばなかった。



則夫さんは本当に素敵な人だ。

私が事故に遭い、真っ先に助けてくれたのが則夫さんだったらしい。

その後連絡を取り合い、私の事情を聞いてくれた則夫さんは、私を社長秘書として雇ってくれた。

その後、遊びに行ったり、ご飯を食べに行ったりして、交際関係が続いた。

そしてある年のクリスマス、則夫さんがしゃがみ、小さな赤い箱を持った手をこちらに近づけてきた。

その中にはダイアモンドの指輪があり、イルミネーションに照らされ、私が知っているダイアモンドより、一層輝いていた。

私の回答はもちろんYES。

こうして、私は社長夫人秘書となった。


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