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二章 天才探偵

32話 常軌と異常

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「くっ……逃げらたか」

 追う手段もなければ視認できないので攻撃する手段もない。俺は変身を解き近くの木を殴りつける。

「これは驚いた……夜道君が配信者だったとは。しかもその鎧……最近話題のアレギィ君じゃないか」 

「驚いたのはこっちもだよ。まさかあんたらも配信者だったとは。でも好都合だよ。三人ならあいつも倒しやすい」

 逃してしまったもののどの方向に行ったのかは見ていた。追いかければそのうち出会う可能性は高い。

「ちょっと待ってくれ。わたし達は配信者じゃないぞ?」

「は? 何言ってるんだ? 配信者だからパティシーを持ってるんじゃないのか?」

 さっきから話が噛み合わない。配信以外じゃ使い所のないパティシーを配信以外の目的で所持するなどありえない。

「わたしは雇われてるんだ。敷島大吾という人物にな」

「敷島さんが……?」

 敷島さんに雇われパティシーを所有している。そして彼から教えられた門から魔物が現れるという話。
 点と点とが繋がり一つの結論という線となる。

「まさか門から出た魔物の対処のために?」

「おや? そこまで知っているとは驚きだ。まぁ大方予想はできる。門から出てくる魔物に偶然出会したとかだろう?」

「そ、その通りだよ」

 俺の身なりや過去の行動などを観察考察し出した推理に間違いはない。

「なら話が早い。簡単に言うとあいつは門から出てすぐに逃げ去った魔物で間違いない。
 もしものことで敷島君に調査を頼まれていたが、これで一つの推測が立った。行方不明の件もあいつが関わってるはずだ。連れ去ったり奇襲して殺害等したのだろう」

 その推理に矛盾はなく筋は通っている。しかしだからといって何か策が見えてくるわけではない。

「とにかく今はあいつが逃げ去った方角に進み続けよう。わたし達の攻撃で弱っているから長距離は飛べないだろうし、傷口から血や羽が落ちるはずだからそれを追跡しよう」

「なるほど……よし。行くか!」

 駿君もこの先にいるかもしれない。俺達はもう一度変身し、落ちている物に注視しつつ急いで走るのだった。

「待ってください!! 上……です……」

 走って数分経ったところでベラドンナが腕を突き出し俺とシャーロットを強引に止めさせる。
 ポタ……ポタ……と水滴が垂れ地面に落ち木の養分となる。赤黒い液体が上から垂れ落ちてくる。

「何だよあれ……」

 警察の制服を着た複数人の男性が木に吊るされ体から血を流している。

「た、助け……」

「まだ息があるぞ!! 早く降ろさないと!!」

 全員まだ息があるようで、俺達は急いで彼らを木から降ろして手当てする。
 幸い傷は酷いものの誰も死んでおらずギリギリのところで命を繋ぎ止めていた。

「これは……一部の鳥の習性と似ているな。仮死状態にして木に吊るす……差し詰め彼らはあの鳥に食われる直前だったというところか」

 全身に悪寒が走り嫌な汗をかいてしまう。行動自体は普通の鳥と大差ないというのに対象が人になったというだけで、獲物が自分達だという事実に置き換わっただけでそれは冒涜的で恐怖を煽るものへと豹変する。

「ベラドンナ君は彼らを安全な場所へ。夜道君はわたしについて来たまえ。今度こそあの魔物を討ち取るぞ。駿君もいるかもしれないしね」

「あぁ。これ以上ほっといたら本当に死人が出るかもしれない。早く行こう!」

 ベラドンナにその人達を任せ、俺とシャーロットは更に奥へと進んでいく。いつどこからあの魔物が飛んでくるか分からない恐怖。変身していてもその緊張感に心を苛まれる。

「誰か……助けて……!!」

 しかしそれは感度が上がっている聴覚が捉えた声により掻き消される。
 男の子の声だ。こんな山の深い所に普通の子供は来ない。つまりこの声は……

「駿君!? どこだ!?」

 俺は辺りを見渡し、聴覚を頼りに駿君を探す。やがてその声が上からしていることに気づき、大きな木の高い所に駿君を見つける。
 その部分は鳥の巣なのか穴が空いており、駿君はその高さのせいで降りられないようだ。

「今助けに……」

「ダメだ下がれ!!」

 怖がるあの子を助けようと木に登ろうとするが、上空から例の魔物が飛び込んできて嘴で俺の脳天を突き刺そうとする。
 もしシャーロットが俺を止めてくれなかったらそれが直撃していただろう。
 奴は怒りを露わにするかのようにギチギチと嘴で音を立ててこちらを警戒する。野生生物の本能的な行動に常識的な思考で対処しようとしてましうが、こいつは常軌を逸脱した生物、魔物だ。並大抵のことでは死なない上まだ見せていない異常性があるかもしれない。
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